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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
144/218

143 ベアトの異変

「どうしました?そんな顔をして。忙しい中、私が話があると言っているのですよ?」


手にした鉄扇で、俺の顎をクイッと持ち上げる

ああ、ラーミア義母上の得意技だな……って、そうじゃない

なんだかおかしいよな?こんなにも周りを威圧する必要はない筈だ

なのにベアトは全方位に闇魔力を拡散中である……あれ?これはもしかして?


「ベアト、私が留守の間ありがとう。大変だっただろう……体調は大丈夫かい?」


俺は、とある魔法を発動しながら問いかけた

これなら怒っていたとしても大丈夫な質問だし、俺の予想通りなら!


「礼など不要ですわ。それにこの程度で体調を崩すようでは貴族とは言えません。まったく、何を当たり前の事を……少し貴族としてのご自覚が足りないのでは?」

『もうっ!ゼスト様ったら優しいのだから。大丈夫ですよ、私は元気ですから。それにゼスト様の妻ですから当然の事なんですよ?』


ゴキブリを見詰めるような目で、そう言うベアト

ああ、間違いないな……昔に戻ってるわ……

何が原因でこうなったんだ?いや、とりあえずは部屋に避難しないとカタリナ達がストレスで死ぬな


「ははは、そうだな。では二人きりになれる部屋に移動しようか?」

「何をなさいますの?私は自分で歩けますが」

『ええっ、お、お姫様抱っことか……皆が見てますのに……』


「私がこうしたいのだよ。ベアトに会えなかったから寂しくてね。我儘を許してくれ」

「……なら、仕方ありませんわね」

『ゼスト様も寂しかったの?うふふ、なら許してあげます』


親の仇を見付けたような顔で、抱っこされたベアトは口元を鉄扇を広げて隠す

知らない人が見たら、激おこの表情だが……俺は知ってるさ

これは照れ隠しの表情だ


「カタリナ、しばらくベアトと二人きりにしてくれ。邪魔したらドラゴンの餌にするからな」

「ドラゴンがお腹を壊しますから、遊び道具がよろしいですわ」

『配下の者を餌なんていけません!ドラゴンには言い聞かせますから、訓練試合で許してあげましょう?』


うんうん、相変わらずな変換具合だな

やっぱりベアトは優しい子だ


「そうか、ではそうしよう。ベアトは優しい子だね」


真っ赤になるベアトのおでこにキスをして、俺は執務室を出る


「……閣下は凄いニャ。あの状態の奥様が優しい子とか、半端な包容力じゃ無いニャ」

「私、怖くて動けませんでした」

「邪魔するなと言われるまでもなく、近寄れませんよね……」


そんなカタリナ達の言葉を聞きながら、自室に急ぐのだった



「さて、ベアト。どうかな?自覚はあるのかな?」

「ありますが……私は子供ではありませんわ。一人で座れます」

『周りの皆の反応で分かりますわ。それよりも……ひ、膝の上に座るなんていいのかしら?』


後一個で完成のドミノを壊されたような顔で、ベアトは俺の膝の上でモジモジしている

俺にしか分からないツンデレベアトが復活してテンションは最高潮だ

サラサラの髪を撫でながら、なるべく優しく聞いてやる


「この態勢はベアトの温もりが感じられるから好きなんだ。で、いつ頃からなんだい?」

「なら、我慢しますわ。そうですね……二日程前でしょうか」

『恥ずかしいけど我慢します!ゼスト様ったら、甘えん坊なのね』


「二日か……体調が悪いとかはないのだな?」

「ええ、まったくありませんわ」

『ふふ、心配性なのね』


俺の殺害計画でも考えていそうな顔で笑うベアト

本当に知らない人見たら、間違いなく泣くレベルの暗黒微笑だ


しかし、原因は不明なのか……体調に問題ないならいい……訳ないな

トトに聞いてみるか?思えば彼女が出て来てからは、ベアトは変わった訳だし

そんな事を考えていると、グイッと服を引っ張られる


「ゼスト様?妻を目の前にして、誰の事を考えているのです?」

『私の状態を心配するのは分かりますが、皆の前で二人きりを邪魔するななんて……恥ずかしくて死にそうでした!』


何で恥ずかしいのさ?

……あ!!そうか、密室に二人きりだもんな!夫婦の営みを邪魔スンナって意味になるか……やってしまったな


「す、すまない。他意はなかったのだが、勘違いさせてしまったな」

「勘違いなのですか?」

『勘違いなのですか?』


ベアトの声と心の声がハモッて告げたその言葉に、俺は逆らえなかった

首に回された腕の温もりを感じながら、本当に久々にベアトと一つになったのだった……



「閣下、お疲れのところを申し訳ありませんが……トト様がお話がしたいと」

「お疲れのところは止めろ。ベアトが聞いたら、バルディッシュの錆になるぞ?アルバート」


終わって少し時間が過ぎて、紅茶を飲んでいると復活した駄犬がやって来た

今の俺は心が広いからな、この程度では怒らない

ベアトは隣の部屋のベッドで寝ているからセーフだな


「トトなら連れて来てくれ。私も話があるからちょうどいい」

「はっ!了解しました!……本当にお疲れではないので?さすが閣下は素晴らしい耐久力ですな」


ははは、と笑いながらトトを呼びに行くアルバート

こいつはデリカシーという言葉を知らないのか?獣人の特徴なのか?

早くスゥに手引き書を完成させて貰おう……これじゃあ、いつ地雷を踏み抜くか分からんぞ

呆れながら紅茶を注ぎ直して、到着を待つ事にする


「お待たせいたしました!」

(お父さん、昨夜はお楽しみでしたね!)


満面の笑みのトトがそう念話を飛ばす

これは駄犬の仕込みだな


「アルバート、貴様トトに何を教えているのだ」

「閣下、誤解です!これは違います!!」

(駄犬じゃなくて、冷蔵庫のガーベラに教わりました!お父さん達が仲良く一緒に寝たらそう言いなさいって)


あの冷蔵庫は余計な事を……結婚式に来るだろうから、言ってやらないとな

しかし、駄犬じゃなかったか……悪い事をしたなぁ


すまなかったな……その言葉は出る事はなかった


(駄犬は、一晩で三回仕込めば完璧だから朝まで頑張るって黒騎士達と言ってました!お父さん、何を仕込むですか?)

「トト、少し耳をふさいで目をつぶりなさい」


(分かりました!ギューってしてます!)

「アルバート、飲み会にトトを連れて行くなと言ったよな?」

「違います!トト様がいつの間にか紛れ込んでしまっギョウフ!!!」


俺の全力で魔力強化した拳が駄犬の喉に突き刺さる

泡を吹いて痙攣してるから生きてるな、大丈夫だ

血の泡だが平気だろう……目をつぶるトトを肩に乗せて頭を撫でてやる


(もういいですか?それでお父さん、何を仕込むですか?)

「……か、カレーという日本の料理があってだなぁ」


俺は何故かこの異世界で、カレーを再現する事になるのだった……

他に夜なべして仕込む物が思いつかなかったんだよ……


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