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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
143/218

142 領地に一時帰宅

「宰相殿……この大事な時期に面白い噂が出ているようだなぁ」

「はぁ、その……」


「男同士でなぁ……その噂を気にして、貴族達は宰相殿の訪問を断っているとか……順調に計画が進みそうだなぁ」

「……はっ、そのう……」


「その噂の対策で、私が女好きのスケベ大公になれば少しはマシか?多少は矛先が逸れるだろうなぁ」

「ぜ、ゼスト大公には本当に感謝を……」


「ははは、まさか身内に足を引っ張られるとはなぁ……いっそ私だけの方がよかったのではないか?」

「申し訳ありませんっ!!」


あの、オカマ軍団事件から数日

俺はようやく正気に戻ってきていた……

『あんなに美人なのに男』その衝撃が大きすぎたのだ


「で、まさか宰相殿は……私が本当に女が欲しくて、彼女達をくれと言ったなどと思っていないだろうな?」

「もちろん、思っておりません!ゼスト大公のご配慮で助かります」


俺の部屋を訪問したハインツ宰相は平謝りだった

当初は『俺がスケベ心で彼女達、接待係を呼び出した』そうしようと思っていたが……

思いの外、エルフ達は『宰相が男好き』疑惑に興味津々だったのだ


「そうか、その程度は分かるのか。なら、噂対策に部下を用意していないのは……どういう事だ?」

「返す言葉もございません」


脂汗をダラダラ流しながら、ハインツが頭を下げる

あの本が予想以上の攻撃力だった為に『ゼスト大公、女好き!』って事にして噂を分散させよう作戦が開始されたのだ

……そうしないと、ハインツの失脚が早すぎるのだ


「そ、想定外と申しましょうか……」

「その想定外に備えるのが『貴族』という者だ。何が起きるか分からない事に対応するのが国の重鎮だろうが……貴様が帝国の貴族なら、もう首だけになっているところだぞ?」


「おっしゃる通り、見通しが甘かったようです」

「次は無いからな。とりあえず私は彼女達と遊んでいるから、結婚式の手配は頼むぞ?私が動いたら、貴公は失脚だからな」


「重ね重ね、ご配慮申し訳ありませんっ!!」


青い顔のハインツ宰相は何度も頭を下げて帰って行った

入れ替わるようにスゥがやって来て、ニヤニヤしながら告げる


「ご自分で罠にはめて、嫌味三昧とは……さすが旦那様です。このスゥ、感服いたしました」

「いや、あれは芝居でだな……」


「しかも大手を振るって彼女達を囲えますね……旦那様、つまみ食いはいけませんよ?」

「いや、だから芝居……」


「芝居ならば、奥様にご報告いたします」

「それは止めてくれ」


悪かったよ……少しは八つ当たりしたよ……でも、女は欲しい訳じゃない!


「気晴らしはしたが、女は別だ。彼女達はあくまでも領民として、部下として欲しいだけなんだ」

「ふふふ、分かっております、旦那様。ですが、女性は心配するものです。一度、帰って奥様とお話するべきです」


うん……確かに暇になったし、結婚式までは時間があるし……一度、帰ってくるか

ウィスにも会いたいしな!


「そうだな、そうしよう!二日ほど領地に泊まるが大丈夫か?」

「早急に対応するべき事柄はありませんので、ごゆっくりなさってください」


スゥ、お前は本当に優秀だな……

たまに壊れるけど、アルバートと血が繋がっているとは思えない子だ


「メディア卿もおりますから、駄犬……アルバートも連れて行って構いません。勿論、トト様はご一緒にお連れくださいね?」

「兄と呼んでやれ……まだケンカしてるのか?」


あのオカマ軍団事件で、アルバートはスゥにこってりと怒られたのだ

まあ、怒ったポイントがスゥらしいのだが


『旦那様をそんな店に連れて行くとは……大公なのですから、むしろその店ごとここに呼びなさい!!』


女性と飲むのも結構、オカマだろうがメディアで慣れてるから結構

男同士で馬鹿騒ぎするのも、たまには結構

ですが、外出はいけません!呼びなさい!!って、事らしい

貴族の格として、もう自由に外出など駄目なんだそうだ


「あのアルバートが兄だと思うと涙が出ます。駄犬と呼ばれないだけマシです。さあ、そんな事より出発の準備をいたしましょう」


スッと綺麗なお辞儀をして部屋から出る彼女

隣の部屋にある俺の荷物を取りに行ったのだろう

まあ、後でやさしく慰めてやるか……かわいそうだし


「とりあえず、窓の外から覗くのは止めろ。スゥに見つかったら大事だぞ?」

「……く、クルッポー」


「お前のようなハトが居るか!この大馬鹿者!!」


俺の投げた文鎮でこめかみを凹ませたアルバートは、地上へ落下していった

まあ、あいつは頑丈だから死なないだろう……



「いやあ、さすがは閣下ですな。私の気配を察知するとは……そしてあの攻撃!この鎧が無ければ即死でした」

「うむ。お前がそう言うなら、そうなんだろうな」

(お父さん!駄犬が真っ赤です!血だらけです!)


頭からダクダクと血を流したアルバートが大笑いしていた

……それはギャグだったのか?獣人のギャグはツボが分からんな


領地に帰る為にドラゴンの背中に乗った俺達は、そんな馬鹿話をしながらくつろいでいた

こんな空の上なら盗み聞ぎの心配はない

本音の会話も出来るし、懐かしい辺境伯家時代の話も出来るな


「なあ、アルバート。お前とも長い付き合いになったな」

「そうですね……早いものですね」


「何か望みは無いのか?」

「閣下のお側に居させていただければそれで。あなたは私の主なのですから」


「そうか……お前を侯爵にして、ライラック聖教国との国境を任せる。私の盾になれ」

「なっ!?侯爵ですか?」


血だらけのアルバートがガバッと振り返る

おい、大丈夫か?振り返ったときに血が飛んできたぞ?


「本当なら公爵にしてやりたいが、血縁でもないお前は侯爵が限界だ……すまんな」

「そうではなく、位が高すぎます!獣人の私を侯爵になどど言ったら、帝都の貴族共が……」


「文句は言わせない。俺の命綱だからな……帝国から攻められたらお前が救援の要だし、教国から攻められれば壁はお前だ。そんな重要な役目を他の誰に任せられる?お前しか居ない。頼んだぞ?」

「……このアルバート、いえ……我が一族全て、閣下の盾となります。必ずやご期待にお応えいたします!」


うん、付き合いの長いアルバートが国境を守ってくれれば安心だな

俺が死んでも子供達を助けてくれる筈だ

獣人族……犬獣人族は特に義理人情にこだわるから


「ああ、任せるぞ。……ところで、お前……」

「はい、閣下」


「その血は危ないぞ?治療するか?」

「ははは、ご冗談を。この程度は騎士ならば気合で治ります!」


濁った目で、明後日の方向に話しかけるアルバート

お前……目が見えてないじゃないか……

はははっともう一度笑うと駄犬は意識を失った……失血って危ない事を教えるべきだったな……


(お父さん、やっぱり任せる人材は選んだ方がいいと思います)


お父さんもそう思うよ……

トトを撫でながら、心からそう思ったのだった



せっかくいい話になる流れだったが、駄犬の習性には勝てなかった

あいつと一緒に居るときは、必ず事件が起きる気がするな……


領地に到着して、館に降りる

午後一番で出発したから、まだ夕方だ

これならゆっくっりウィスを愛でながら、ベアトともイチャイチャ出来るかな……


そんな思いで執務室のドアを開ける

そこには書類仕事をしているベアトとカタリナの姿があった

ああ、仕事中だったのか……ベアトの体調は平気なのかな?

『ただいま!』そう言おうとした俺よりも早く、イスに座ったままベアトがこう言ったのだ


「あら?帰って来ましたの?別にそのままエルフの国にいらっしゃればよかったのに。それに、帰るなら帰るで知らせも無いなんて……貴族としてどうなのでしょうね?」


そこには懐かしいくらいの冷たい眼差しで、顔をしかめたドス黒い魔力を纏った魔女が居た

…………え?なになに??この反応は?


「お、お帰りなさいませニャ!大公閣下!奥様もお待ちしてましたニャ!」

「カタリナ、別に待ってなどおりませんわ。あなたは黙って仕事をなさい。私はちょっと席を外しますわ……ゼスト様が帰って来ておりますものね。まったく、予定が狂いますわ!」


闇の魔力全開で威圧されて、カタリナはコクコクと頷く

あれは逆らえないパターンだ……俺もやられた事がある

乱暴に書類を机の上に放り出したベアトは、ツカツカと俺の前まで近づき鉄扇を取り出す


「ゼスト様、ちょっとお話しましょうか?私も忙しいので返事は聞きませんわ。黙って付いてらっしゃい」

「はい!」

(あ、トトはおやつの時間だ!急がないと!)


こうして俺は、婚約者時代に戻ったようなベアトに拉致されていった

俺は……生きていられるのでしょうか?


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