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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
139/218

138 宰相ハインツの屋敷

「ようこそおいでくださいました、ゼスト大公殿。お初にお目にかかります、私が宰相を務めるハインツと申します」


城から馬車で十分程度の距離にある豪華な屋敷

どことなく和風の雰囲気もある造りだな

だが、基本的には洋風建築で日本の家に近いかもしれない……そんな豪邸だった


「ハインツ宰相か。私がゼストだ……以後よろしく頼む」


日本でやったら落第点の俺の挨拶だが、この世界では仕方ない

いや、今の立場だとこう言うしかないのだ

皇帝陛下の名代としてこの国に来ているのだから、あまり丁寧な挨拶等したら逆に駄目なんだ


「大公殿をお招き出来るとは光栄でございます。さあ、どうぞ屋敷の中に」

「ああ。アルバート、行くぞ」

「はっ!」


屋敷の玄関でのやり取りを終えて、ハインツの案内で中に入る

連れていくのはアルバートだけだ

メイド達は連れて行けない……そんな事をすれば、『お前のもてなしが不十分だ』って意味になる

護衛も同じだな、『お前なんか信用してないから』そうなるのだ


「おお、こちらがあの有名なアルバート卿でしたか。大公殿の右腕だと言う……」

「帝国貴族は一人で出歩く事は無いのでな。雑用を任せる者が要るのだよ」


『へぇ、腹臣の護衛連れてきたんだね』

『護衛じゃないよ、帝国貴族のしきたりだから気にすんな』


こんな意味に変換されるやり取りだな

さりげなく俺の落ち度を探しているのか?

こいつはなかなかの狸だな……少し警戒レベルを上げるべきだな

そんな事を思いながら、屋敷の中に進む俺達だった



食堂に案内されて夕食が始まる

食事中は会話はしないで、マナーに気を付けて食べる事に集中する

この辺は師匠に散々仕込まれたから楽だな

……アルバートは俺の背後で立っているだけだ

あくまでも彼は客ではなく、俺の雑用係だからこれでいい


「さて、ようやくゆっくりとお話出来ますな」


紅茶を飲みながらハインツが言った

夕食後に部屋を移動しており、今は応接室に居る

そこにはお茶が用意されており、今回の真の目的が始まる


「そうだな。ハインツ殿、そちらの目的は把握している。私はそれなりの見返りがあれば、それでいいのだよ」

「ほほう……それなり、ですか」


目の前の人物……ハインツ宰相を改めて観察する

エルフに多い銀髪の細い髪をオールバックにした髪型で、神経質そうな細い目

体型はやや太っているが、ガッチリではなくポッチャリだな……顔は悪くないが、年齢は不詳だ

見たままなら二十歳半ば程度だけど……まったくエルフの年齢は謎だよ


「将軍のカリスから聞きました。大公はそれでいいと?」

「いいも何も、それが落とし所だろう?ハインツ宰相はエルフの国を……私は帝国を……それで問題あるまい」


チラッとアルバートを見るハインツ

まあ、言いたい事はわかるさ


「彼は私の腹臣だと言ったのは、ハインツ殿だろう?」

「ははは、そうでしたね」


「お互いに利点のある話だ。信用しろなどとは言わないが、使えるうちは利用し合えばいい」

「ほう……利用し合う……ですか」


この男は猜疑心が強く、自信家でもあり自分の頭を誇っているらしい

ならば人情なんて形が無い事より、利益をちらつかせる

そして、俺にも利益があるからこそ協力するって事をアピールしてやれば……


「ふふふ、大公殿もなかなかのお方ですな」

「ははは、宰相殿程ではないさ」


自分と同じ、野望のある人間だ

そう思ったのだろうハインツは、それはそれは悪役らしい笑顔で笑っていた

ふん、お前と同類の訳がないだろうが


「そうしますと、大公殿はこれからどのような流れを想定しておられるのですか?」

「先ずはツバキとの結婚式だな。なるべく盛大にやって認知させなくてはいけないからだ。そして早い時期に国王の国葬か……次期王妃と王妃では、やはり出来る事が違うだろう」


「早い時期とは……まるで国王が既にいらっしゃらないような物言いですな」

「何を今更……当然だが裏もとった。あまり馬鹿にされると、面白くないな」


「それは失礼を。ですが、私にも奥の手があります……楽しい事ばかりではありませんぞ?」

「お前の切り札は私にとっても切り札なのだ。その事も認識しておけよ?」


切り札とは科学の事だな、確かに奴の奥の手だろうが……

逆に、それを出したら戦争の大義名分を俺達は手に入れる事にもなる

そんな意味を込めて、軽く魔力を込めて威圧しておく

この手の奴は、相手が下だと思うと強気な対応になるからな


「私もわざわざ魔族に介入される理由を出すつもりはない。だが、お前がこの案に満足出来ないなら、そうなる可能性だってあるのだ。まだ時期ではないだろう?」

「時期……」


そうなんだ……まだこいつは、エルフの国をまとめ上げる力も時間もない

俺の策略に従いながら、王子を国王にしてからまとめる

それからじゃないと魔族と戦争など出来ないって事は理解している筈だ

たとえ科学の力を使った兵器があったとしてもだ


「帝国に従属しろと言っている訳ではない。私に利益を回しさえすれば、貴公がエルフの国の実質的な支配者で構わないのだよ、宰相殿」

「ふふふ、カリス将軍の報告を聞いたときには驚きましたが……大公殿は本当に恐ろしい方ですな。帝国もいずれご自身のものに?」


「だからこそ、エルフの国には興味がないのだ。お互いにいい条件だろ?」

「おっしゃる通りですな。このハインツは大公に従います」


わざとらしく頭を下げるハインツは、薄っすらと笑いながらそう言ったのだった

よく言うよ、初めからこの流れが目的だったくせに

あのロリババアが後手に回る訳だわ……こいつは危険な奴だな


今回の話し合いで、ハインツは狸野郎だってハッキリした

最初は、ある程度対等な立場で会話を進行していた

それで俺が配下として扱わない事を確認したんだろう

あくまでも帝国の大使として対応したからな


そして、俺の情報収集能力を国王の件と科学の事で再確認

カリス将軍から聞いた事を鵜呑みにしているかどうかと、科学の事を知っているかの確認をした


一番危険なのは、最後のあれだ

時期さえ来れば、魔族相手でも一戦するつもりがあるのか?

また、今ではない事を理解しているか?

その確認だな……こいつ、将来的には大戦争するつもりだわ


「今日は有意義な話し合いが出来ましたな。おもてなしの準備が出来ておりますから、奥でごゆっくりなさってください。では、私はこれで」


ハインツが奥の扉を開けて、何事かつぶやく

その後、彼は頭を下げて出て行った

……まだ、俺の仕事は終わらないようだな



「閣下、私が確認をしてまいります」

「任せたぞ、アルバート」


背後に立っていたアルバートがゆっくりと奥の扉に向かう

奴は俺の本気の一撃をたまに避けるし、スゥのモーニングスターが直撃しても即死しないくらいは頑丈だから安心だ

扉を一気に開いた後、振り返った駄犬はまさかの一言を告げた


「閣下、桃源郷があります!」


訂正しよう、やはりモーニングスターが甚大なダメージを与えていたようだ


「アルバート、治療が足りなかったか?」

「いいえ、私は正気です!ご覧ください!」


興奮気味に扉を開け放つアルバート

その中の部屋には、犬耳と猫耳の美少女が大量に待っていたのだった……


「いらっしゃいませ、ご主人様!」

「カッコイイ犬獣人さんも居るニャ!」

「あら、恥ずかしがらなくてもよろしいのですよ?」

「楽しみましょうニャ」


実にわかりやすいハニートラップである

だが、断れば怪しまれる……受け入れたらベアトが怖い

究極の選択を迫られている俺に、楽しそうな会話が聞こえてくる


「俺は……この日の為に生まれてきたんだ……」


「やだぁ、大袈裟ね」

「ニャハハ、面白い人だニャ」

「うふふ、お姉さん嬉しいわぁ」


既に駄犬は美少女軍団と楽しく飲んでいた……

帰ったら、絶対に奥さんに報告だな……


それよりも……俺はどうしたらいいんだ……

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