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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
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136 発情期という病?

「獣人族は定期的に発情期と呼ばれる症状が出るのじゃ。普通は大人のたしなみとして、親が教えるのじゃが……彼女はそんな親が居なかったのかのう」


絶句する一同を置いてきぼりにしながらカチュアは続ける


「年に一度のその時期は、独身者なら家で過ごすのじゃ。症状も軽い興奮状態になる程度なのじゃが……それを何度も無視して暮らしていると、こうなる。堅物なおなごに多い例なのじゃ」


ドヤ顔で解説するカチュアだが、俺の耳にはあまり入ってこない

頭の中には『まさかそんな事でエルフの国から呼ばれたのか?』そんな思いでいっぱいだ


「じゃから、心配要らぬのじゃ。二・三回スッキリすれば元通りなのじゃ!」


そこで俺の心が折れた

異世界に飛ばされて必死に今まで生きてきた

貴族に従い訓練をして、政略結婚も受け入れて……

そして家族が出来て、それを守ろうとエルフの国に単身赴任

そうまでして頑張ってきたのに……そんな理由で呼び戻されたのか!?


「う……うううう……うううううううううう」


あまりの仕打ちに涙が止まらない

ウィスを抱きしめて愛でたいのを我慢して、必死に謀略戦してるのに

発情期って……膝から崩れ落ちてカタリナが眠るベッドにしがみつく


「大公殿は部下思いなのじゃな。そんなに心配じゃったか……」


「閣下、それほど部下の為に……」

「よかったわね!カタリナちゃん、あなたの為に閣下は……」

「ふええええん、閣下の部下でよかったよぉ!」


俺の心情を知らない周りは、何やら勘違いしているようだが……

俺に訂正する余裕はなかったのだった



「取り乱してすまなかった。で、誰が処置するんだ?」


カタリナの私室から引き揚げて、執務室に集合した

カチュアによれば、二・三回スッキリすればいいとの事だが……

本人は意識不明だからな……誰かが、やらねばならないのだ

ちなみに、黒騎士達や野郎達は強制退場になっている

残ったのは女性だけである……当然だな


「ここは私が。カタリナちゃんとは友人ですし、彼女の力になるならば……」


そう言って立候補したのはメディアだ

確かに仲良しだし既婚者だから適任だろうな

メイド部隊も頷いている


「よし、メディアに任せた。よろしく頼むぞ」

「お任せください、閣下」


一礼して出ていくメディアを見送り紅茶を飲んだ

まったく、こんなくだらない内容で呼び戻し……


「誰か、あの馬鹿を止めろ!!あいつは男だろうが!!!」


「はっ!そういえば!」

「忘れてたわ!」

「早く止めないと!」


「……大公殿は、変わった部下をお持ちなのじゃな」

「騒がしくて申し訳ない……」


そう答える俺の声は震えていたに違いない

他国の重鎮の前で、大恥もいいところだ


「わかった、わらわに任せるのじゃ。昔は『独身量産人』と呼ばれていたのじゃ!獣人族のツボは抑えているのじゃ!」

「……結構です」


「うむうむ。では、行ってくるのじゃ!」


頷いて出ていった、のじゃロリババア

お断りしますって意味だったのに……今更、違うとは言えない雰囲気だ

しかも独身量産人って何だよ、それ大丈夫なのか?


そんな俺の心配をよそに、無事?カタリナは元に戻ったのだった

案の定な状態でだが……



「ご心配おかけしましたニャ!もう大丈夫ですニャ!」


キリッと言い放つカタリナだが、その体制が問題だ


「そうか……で、どうしてカチュア殿にくっついているのだ?」


死んだ魚の目をしたカチュアの腕を取り、しっかりと自分の腕を絡めている

これはひどい……間違いなくそっち方面に進んだようだ


「私は新しい扉を開きましたニャ!カチュアお姉さまのおかげですニャ!!」

「その……申し訳ないのじゃ……久しぶりで、加減がわからなかったのじゃ……」


その扉は開けるんじゃない!

駄目だ、めまいが酷い……世界がグルグル回っているようだ

この状況はどうやれば収拾するんだ?


「わらわも女なのじゃ、こうなればキッチリと責任は取るのじゃ!」

「カチュアお姉さま、素敵ですニャ!」


見詰め合い、ピンクのオーラをまき散らす二人

これはもう俺の手に余る


「とりあえず、カチュア殿も国で色々と手続きが必要だろうし……カタリナも病み上がりで大変だろう。一旦この話は俺が預かる。一ヵ月以内に帰ってくるから、それから決めよう。それでいいな?」


「はい、お任せしますニャ。閣下」

「うむ。異存はないのじゃ」


問題の解決に来たのに、大きな問題を抱えてエルフの国に戻る事になった

俺の頭は極限状態だ……スゥに相談して、辺境伯にも相談だな



別れ際に、抱き合う二人に魔力強化全開で頭に拳を一発ぶち込む

もちろん手加減はしたから、死んではいない……二人ともピクピク動いているから大丈夫だ

意識を失ったカチュアを担いでドラゴンに乗った

対応を検討中なのに、公衆の面前で抱き合うな馬鹿が


「うーーん、あ、大公殿。何故わらわが寝ているのじゃ?」

「疲れだろうな。ゆっくりしているといいぞ」


「そうか、そうじゃな。うむ……わかったのじゃ」

「到着したら起こすから、寝ていても構わないぞ?」


「せっかくの空の旅なのじゃ。景色を楽しむのじゃ!」

「そうか。前回は夜だったしな……たっぷり楽しんでくれ、カチュア殿」


その後も適当に話を合わせて旅は進む

俺の頭の中は、二人の関係をどうするのかでいっぱいだ

カタリナには子供を産んで欲しかったが……女性同士の道に進んでしまうのだろうか?

いや、同じ獣人族のスゥのアドバイスを聞いてから考えよう

キリキリ痛む胃に治療魔法を使いながら、到着を待つ俺だった



「閣下、お帰りなさいませ!」

「旦那様、お疲れさまでした」


ようやく到着したエルフの国

カチュアは、はしゃいでいたせいでぐっすり眠っている

メイド達も慣れたもので、眠っている彼女を担いで消えていく

……あいつ、いつも寝てるんだな


「こちらは問題ありませんでした。王子の指示で、交友を深めにドラゴンで散策していた事になっています。それで、カタリナ卿の様子は?」

「そうか、それでいいだろう。カタリナの件は部屋で話そう。命に別状はないのだが、困った事になってなぁ」


スゥとそんな会話をしながら、歩いて部屋へと向かう

とりあえず幹部の二人には事情を説明しておかないといけないな

部屋に到着したら人払いをして説明開始だ


「……と、いう事なんだが。どう思う?」


「「ああ、発情期をこじらせましたか」」


驚くでもなく、呆れるでもなく

平然と受け入れるスゥとアルバート

あれ?獣人族にとってはよくある事なのか?


「私も母に教わりましたから。カタリナ卿は戦乱時でそんな余裕がなかったのでしょうね」

「あの状況下では、大人達も必死で生きていたでしょうからな」


旧ターミナル王国は、獣人を迫害していたからなぁ

逃げ伸びて、隠れて生活していたカタリナに教える大人がいなかったのか


「なら、女性に……同性に目覚める事もよくあるのか?」

「同性にというより、女性同士がほとんどです」

「男はその……自分で済ます者が多く……」


まあ、男はほっといても朝になったら……だもんな

女性限定なのか?でもなぁ……


「大丈夫です、旦那様。一時だけですから。こじらせた後はそんな人もいますが、冷静になれば元通りです」

「そうです、閣下。スゥも昔こじらせたときにはっ!?ゴフッ!!」


口から泡を吹きながら倒れるアルバート

スゥの手には、いつの間にかモーニングスターが握られていた


「旦那様、世の中には知らないでよい事もあります。そう思いませんか?」

「おっしゃる通りです」


倒れたアルバートの頭を踏みながら笑うスゥは、ベアトとそっくりな黒い笑いをしていたのだった

……スゥさん、アルバートが痙攣してるんで治療してもいいですか?

駄目ですか、そうですか……

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