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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
134/218

133 エルフ流の出迎え

「それで……婿殿、どういった関係なんだ?」


幼女にボコボコにされた王子に問いかける

あのカチュアは容赦無いな

仮にも王子相手に、顔面めがけて全力で一発入れていた


「はい、義父上。あのばば……いえ、カチュア様は私の師匠です」

「ふふふ、ババアと呼べばよいのじゃ。どうせこの後、ゆっくりと話し合いが必要だからのう」


「ほう、それであの魔力か。なかなかのモノだったな」

「はい。黒騎士達が戦わせろと騒いでいますが……」

「養父上、私も戦いたいです!」


面倒な事になりそうだな……

よし、ここはこの手でいくか


「戦いたいなら順序があるだろう……明日、私が選抜してやるから大人しくしていろ」


魔力を込めて威圧すると、ようやく静かになった

よし、これで安心だな


「お騒がせしたな、カチュア殿。案内を頼む」

「なんて魔力じゃ……ドラゴンが従う訳じゃな」


呆れた顔をしているカチュアだが、お前には言われたくない

いきなり王子をボコボコにして出迎える宮廷魔導士筆頭とか、怖すぎる

これがエルフ流ですって言われたら黙るしかないが……


「先ずは、旅の疲れを癒してくだされ。部屋に案内いたします、ゼスト大公」

「ああ、よろしく頼むよ。カチュア殿」

(お父さん!あの、おばあちゃん強いですね!)


はは、トトから見たらおばあちゃんなのか……

おばあちゃんね……長老って言うくらいだしな

のじゃロリでババアか


「ほほほ、精霊様は楽しいお方ですな」

「いやいや、まだ幼い……」


案内するカチュアが振り返ると、額には青筋が浮かんでいた

……あの……どうしました?


「精霊様、私は長老などど呼ばれておりますが……カチュアとお呼びくだされ」

(わかったです、カチュア!)


「ほほほほほ」

(あはははは)


「義父上、師匠はババアやおばあちゃんという言葉が死ぬほど嫌いです。うっかり口に出すっゴハッ」

「マルス、誰がババアなのじゃ」


無詠唱で繰り出された魔力の玉に吹っ飛ばされる婿殿

ああ、こうなるのね


「婿殿、こんな美少女にそんな言葉をかける馬鹿は帝国には居ない。無駄な助言だったな」

「マルス様……こんなに可愛らしい方になんて事を……」


「ほほほ、ゼスト大公は世辞がお上手ですな。わらわに美少女などと……数百年ぶりに聞きました。ツバキ様も素直な、いい子じゃのう」

(わあ、カチュアの魔法は速いですね!)


そんな賑やかな一団は、カチュアの先導で城に向かう

広場からはそんなに離れていないようだな

木々に囲まれた白亜の城が、目前に現れたのだった



「しかし、エルフ流の出迎えで大騒ぎしなかったのは……大公が初めてですな」


城の中、長い回廊を進みながらカチュアが呟く

同行しているのは俺とトト、そして王子とツバキだけだ

黒騎士達はドラゴンの移動があるからな


「エルフ流ですか。それはあの物騒な出迎えですかね?」

「ほほほ、あの程度の戦力では大公が一瞬で片付けるでしょうに」


ゆらりと彼女の魔力が揺れる

これは仕掛けてくるか?

俺も魔力を纏って身構える


「この程度の魔力の流れに反応出来る方が大公とは……エルフの国もこれまでか……」


漏れ出た魔力を引っ込めた彼女は、肩を落として振り返る


「のう、大公。わらわ程度では釣り合わぬかも知れぬが……この老いぼれの首で我慢してはもらえぬか?」

「何を言っているんだ、カチュア殿。そんなもの欲しいと思っているのか?」


立ち止まった場所は回廊のど真ん中

周りには部屋は無く、誰も居ないような場所だ

……密談にはもってこいの場所だな


「エルフの国の現状は、わらわが引き起こしたようなものじゃ。あの宰相の性根を見抜けず、こんな事になってしまった」


悲壮な顔をしたカチュアは続ける


「王は既に亡く、王妃は宰相に丸め込まれて……それでも、帝国に併合されるのをただ見ている訳にはいかぬのじゃ。マルスを傀儡にして治めるつもりじゃろ?頼む、この首に免じて!」

「カチュア殿。私にそのつもりは無い。また、魔族達も私に任せると言ったのだ」


床に膝を突いたカチュアを立たせる


「心配しなくても、マルスは娘婿だ。あいつが治めるのに異論も口出しもしない。むしろ、宰相派は掃除してやるから、その後の統治に協力してもらいたいのだ」

「それで、帝国に何の得があるのじゃ。国が裏を持たずに善意で協力するなど、ある筈が無いのじゃ」


そうだろうな、この中身はババアの彼女は酸いも甘いもわかるだろう

国の汚い裏の面もさんざん見てきただろうな


「私は異世界人だ。帝国で地位を確立したが、保証が欲しい。ライラック聖教国には教皇が居る。エルフの国をマルスが統治してくれるなら、それだけで私の得になる。帝国にも手は出させないさ……どちらか一方なら、直ぐにでも更地に出来るからな。わざわざ直接統治には拘らないのだよ」


じっと俺を見詰めるカチュア

今の言動を、頭の中で確認しているんだろう

本当か嘘か……いや、メリットとデメリットの確認だろうか?


「仮に、エルフの国と帝国が手を組んだらどうじゃ?」

「ライラック聖教国がエルフの国を抑えている間に、帝国が無くなるな。そもそも、ドラゴン十匹と黒騎士達、戦乙女部隊と獣人部隊を抱えているんだ。それを私が治療魔法を全開にして支えるのだぞ?勝ち目があると思うか?」


「なるほど……確かに理屈は通るのう。マルス、わらわに何か言う事があるじゃろ?」


いきなり話題を振られた王子が、ビクンと背筋を伸ばす

ハッとした顔で大きな声を出すのだった


「忘れていました!!エルフの国は健在です、お師匠様!!」


胸に手を当てて、ビシッと言い放つ

だが、それを聞いたカチュアは鬼のような形相だった



「この、馬鹿弟子が!!味方になるようだったら、その合図をせよといったじゃろうが!大馬鹿者めっ!おかげで死を覚悟したのじゃぞ!」



どうやら、帝国が味方になったら暗号的な合図をしろって約束があったようだ

それをしないから、彼女は俺達が敵だと思っていたらしい……


「ツバキ、あんなポンコツで大丈夫か?」

「お養父様、私不安になってきました……」

(お父さん!今のゴキッて音は、何が折れたですか?)


回廊には、ポンコツ婿殿の悲鳴が響いていた

いつまでも……あ、今度は燃えてる……

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