128 監視役との会談
「つまり、スゥは自ら失態を詫びる為にムチで打たれようとしたと?」
「おっしゃるとおりです、奥様」
アルバートのファインプレーは無意味だったが、冷静に話し合えば誤解だとわかる
簡単な事だ
「ははは、ベアト。私がムチで打つのは、馬とアルバートだけさ」
「はっ!おっしゃるとおりです」
あっさり同意するアルバート
これは変な意味じゃない
「我々、犬獣人にとっては大事な事です。ムチで打たれる事は非常に屈辱。ですが、それが敬愛する主君であるならば、事情が変わります!」
そうなのだ
犬獣人のアルバート達にとっては、俺にムチで打たれるって事は誇りらしい
屈辱的な事でも受け入れる事を表明して、主君もそれを認める
とっても強い絆があるんだよって意味になるそうだ
「つまり、失敗を報告してムチで打って欲しいと言ったスゥの真意は……」
「はい、奥様。尊敬する旦那様に対して、このような失態をした私でも変わらずに信用していただけますか?と、いう問いになります。」
(へぇー!犬獣人って、おもしろい考え方するんですね!)
「なるほどな。俺も勉強が足りなかった。獣人の作法ならば仕方ない。他にもあるならば、今度からは先に教えてくれ。ベアトも納得してくれたかい?」
「ええ、早とちりをして申し訳ありませんでした。ゼスト様」
(!?トトはお昼寝した方がいいですか?)
トト、さすがにまだ早い
出産後すぐにそれはマズイだろう
何はともあれ、これで解決だな
「それじゃあ……もう、立ってもいいかな?」
「閣下、足の感覚がありません!」
俺達の正座時間は、ちょうど三時間だった……
メイド部隊に肩を借りながら立ち上がり、昼食を済ませた後に王子がやってくる
昨日言っていた監視役との面会だろうな
「義父上、奴の名前はカリスと言って宰相の右腕です。個人の武力は私よりやや下くらい……それでもエルフの国では上から数えた方が早い位置に居ますね」
「……そうか。お前は何番目なんだ?」
ニヤリと笑いながら、自信満々に答えた
「隠してはいますが、私より強いものは……一人しか居ません!我が師のばば……んんっ!長老様には勝てませんが」
「ほう、二番目か。なるほどな……最悪は力攻めだな」
マルス王子の強さは、メイド部隊と同じくらいかな
それが二番目なら俺の主力を投入すれば勝てる
アルバートには手も足も出ないだろうなぁ
あいつ、俺の一撃をたまに防ぐし……強くなったな
「とりあえずは、そのカリスとかいう奴に会ってからだな。どんな性格だ?」
「はい、武力はありますし頭もそれなりです。ですが……」
こうして情報を集めながら、会談の準備を進めていった
「はじめまして、ゼスト公爵閣下。私はエルフの国で将軍を務めております、カリスと申します。お見知りおきを」
「グルン帝国、宮廷魔導士筆頭のゼストだ。閣下は要らない、他国の人間には不要ですぞ?カリス将軍」
「では、ゼスト公爵とお呼びします。本日は急な願いを叶えていただき、ありがとうございます」
「なに、かわいい娘婿の国だ。遠慮はいらんぞ」
カリス将軍は身長180cmのエルフとは思えない、ガッチリとした体格だ
肌の色もやや浅黒く日焼けしており、まさに軍人って感じだ
歳は……エルフだから外見だけじゃ判断出来ないが、30歳くらいか?
彫りの深い顔で、金色の短髪がよく似合う男だった
「それで、本日の用件は?」
一通り社交辞令を交わしてから本題だ
これはエルフも共通の作法だな
「はい……実はマルス王子の件なのです。あの王子は、幼少の頃より……そのう……」
詰まりながら話す内容はこうだった
王子はようやく産まれた王家の跡取りとして、過保護に育てられた
その為に、常識が無く無礼をするだろう
しかしそれはエルフの国が帝国に他意があるわけでは無い
無礼討ちしても構わない
そんな内容だった
ふふふ、俺に殺させれば波風が立たないか?
いや、敵意を帝国に向けて国内をまとめようって魂胆か
「なるほど……そのような男が婿とはな。しかし皇帝陛下の決定に逆らう訳にはいかない。更にはそちらの国王陛下もお認めになっているのだ」
「はい、その通りです」
「ならばこうしよう、娘のツバキが結婚する前から未亡人では世間体がある。だが、正式に結婚した後ならば、不幸な事故だ。違うか?」
「……事故ですか」
「そうだ。幸い、ツバキは臣籍になっているから皇室の継承権は無い。そちらとしても便利ではないか?」
「さすがはゼスト公爵。なるほど……」
つまり、今は殺さない
結婚した後に『事故』が発生して王子が居なくなる
ツバキはあくまでも俺の養女として嫁ぐから、皇帝陛下が直接意見を言えない
俺の意見が通るだろうから、仲良くしようぜ?
って、意味だ
「事故の後はどんな筋書きかは知らん。だが、若くして夫を亡くした次期王妃殿下という肩書は使いやすいだろう?」
「そうですな……今だと、グルン帝国と事を構える状態に?」
「当然だ。そんな馬鹿王子を押し付けようとは、帝国に対する挑戦だ。俺の黒騎士達と戦乙女部隊……それに獣人部隊が、真っ先に襲い掛かるぞ?俺の面子を潰されたからな」
「ご、ごもっともです」
「更に、ラザトニア辺境伯家も参戦するな。本家、黒騎士達が喜んで暴れるぞ。ああ、ライラック聖教国も来るだろう。精霊化を成功させた英雄を侮辱した……教皇殿は怒るだろうな」
「は、はい!その案でいきましょう、ゼスト公爵」
顔色が悪くなったカリス将軍は、何度も頷いていた
先ずは第一段階の終了である
「お疲れ様でした、旦那様」
「ん?まあ、予定通りだな。あいつらも、落とし所はこの辺だろう」
帝国に借りは出来るが仕方ない
旨みを渡すから、王子を排斥したいって事なんだろうし
「だが、想定の範囲内だ。まったく問題ない」
「かしこまりました。さすがは旦那様です」
スゥに褒められて気分がいい
ふふ、俺は褒められて伸びるタイプなんだ
紅茶を飲んでニコニコしていると、スゥに手紙を渡された
「魔族からのお手紙です。念の為にお早く目を通してください」
ふむ……ドラゴンを早く返せって手紙か?
もう少し借りていたいんだがなぁ
分厚い手紙を開いて、早速読んでみた
『
第一章 騎士と主君
「あ、主……私は男です。なのに、好きだとおっしゃるのですか?」
「いいんだ。お前が男だから何だと言うのだ。こんなにも喜んでいるじゃないか」
「そ、そこはっ!!」
「そこじゃないだろ?ちゃんと言ってみろ」
「ま、マ○ト……」
「そうだ。アルバートのマ○トがどうなってるんだ?」
恥ずかし気に身をよじるアルバートは、ゼストのたくましい腕の中で悶えながらマントを見詰め…… 』
「マントかよ!あの大馬鹿者が、なぜ伏せ字にしたんだ!!」
…………手紙じゃなくて、水たまりの原稿だったようだ
つい、最終話の第十章まで読んで後悔する事になる
タイトルは
『アルバートの妊娠!ゼストの魔法で孕ませ隊』
だった……
死にたいです