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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
128/218

127 ようやく一休み

「ようやく寝られるのか……」


悪夢の六時間が過ぎて、俺はやっと解放された

ウィステリアの愛称を決めるだけでこれだ

名前から決めたらと思うとゾッとする


「旦那様、お疲れ様でした。しかし、ウィスお嬢様ですか……いいお名前ですね」


そう、二人の激戦の末に愛称はウィスに決まったのだ

『ベアトも古代のしきたりからベアトリーチェの前半を取りました。ならば、ウィステリアも前半のウィスで決まりです!!』

この義母の言葉が決め手になったのだ


「そうだな。とりあえずはこれで落ち着くだろう……もう予定はなかった筈だな?」

「はい。もう夕方ですし、少しお休みください」


「そうだな……スゥ、ここで少し休むよ。なんだかとっても眠いんだ……」


俺は執務室のイスで眠りに落ちたのだった



「旦那様?旦那様!起きてください、旦那様!」


ゆっさゆっさ揺らされて目が覚める

なんだ?もう朝か?


「どうしたんだ慌てて。あんまり寝た気がしない……」


外を見ると真っ暗だ

ん?一日寝てた??


「まだ宵の口です。さほど時間はたっていませんが……陛下に出産のご報告をなさらないと」

「ああ、直接挨拶をしないとマズイな」


確かに、陛下にはいろいろと配慮してもらったからな

顔を見せに行かない訳にはいかないか……

疲れた体に治療魔法を使って、陛下のところに向かう

スゥが少しでも寝かせてくれたから、だいぶ楽になったな



「遅くなりました。おかげさまで助かりました、陛下。無事に娘が……ウィステリアが産まれました」

「おお、よかったなゼスト!これでお前も安心だろう」


居住区でリラックスしてしていた陛下には、直ぐに会えた

皇后は……居ないか

まったく陛下の溺愛ぶりも病気のレベルだな


「しかし、こんなに早く来るとはな。てっきり、また三日三晩かと思ったぞ」


三日三晩……ベアトのときに陛下も巻き込んだのか、あの二人は

苦笑いしている陛下には、謝る事しか出来ない


「その、申し訳ありませんでした。義母達がご迷惑を……」

「ははは、あのときは地獄だったぞ。城の演習場が焼け野原になったからな。今回は楽なものだ」


「や、焼け野原ですか。あの二人は……本当に……」

「気にするな。辺境伯家の恒例行事だからな。予算が毎年積み立てられてるんだ。それを謝るのは、婿の伝統だしな!ははははは!」


膝をバンバン叩いて大笑いする陛下

この辺境伯家の名前騒動は、ある意味仕方ない部分

そして、皇室の娯楽になっているらしい


「先代の皇帝……俺の父のときには、街が半壊したらしいぞ?街の平民達や貴族も、どちらの案が通るかで賭けているから心配するな」

「それはなんとも……」


どうしようもない一家だな、辺境伯家は

あ、俺も仲間入りしてるのか……はぁ……


「ま、家の風習だと思って諦めろ。次もあるんだ……そのときは予算が余っているから、派手に頼むぞ?」


そんな風習があってたまるか

ニヤニヤと面白がる陛下にバレないように、そっとため息をつく俺だった



陛下に報告を終えたので、部屋に帰ってきた

急ぎの書類の確認だけして、早く寝よう

そう思いながら手紙を確認していると、ドアがノックされる


「養父上、ツバキです!」

「義父上、マルスです」


「ああ、どうしたんだこんな時間に。まあ座りなさい」


スゥに紅茶を用意させて、二人の話を聞く事にする

ソファーに座ると、綺麗にハモってこう告げた


「「おめでとうございます!妹の誕生、心より嬉しくおもいます」」


「はは、何を他人行儀な事を。ありがとう」


そうは言ったが、わざわざお祝いを言いに来た二人には感謝していた

妹か……そう、思ってくれているんだな


「なるほど、花言葉ですか。素晴らしい名前の由来ですね!ウィステリア……将来は美人になるでしょうな」

「はは、言い寄る虫は始末せんとな」


「「はははははは!」」


仲良く笑う、俺と王子

だが、ツバキはそうはいかないようだ


「養父上!私もそんな名前が欲しいです!!」


先ほどまでの笑顔ではなく、ブスーっと頬を膨らませるツバキ

いやいや、お前の名前は陛下がつけたんだろうが


「ツバキだって、いい名前じゃないか」

「そうですよね、義父上」


面倒になりそうな予感を感じた俺達は、協力する事にする

王子も危険察知能力は高いようだ


「ですが……確かに花の名前ですが、花言葉なんて知りませんでした!ウィステリアのような意味のある名前がよかったのです!!」


これは、面倒なパターンだ

陛下がつけた名前を変えるのは、絶対にマズイ

かと言って、言いくるめるのは大変そうだな……


……ん?ツバキの花言葉って、確か……


「あるじゃないか。ツバキにも花言葉が」

「「ええええええ!?」」


「ツバキの花言葉は、『誇り・控えめな優しさ』だぞ。お前にピッタリじゃないか」

「そ、そんな意味があったなんて……」

「素晴らしいです、義父上!」


もうひと押しか?


「舞台の主人公にも使われていて、素敵な名前なんだぞ?私もいい名前だと感心していたんだ。よかったな、ツバキ」

「そうなんですか……うふふ、そうなんですね!」

「義父上、見事です。見事でございます!!」


よかった……本当によかった

野郎二人は、ピンチを乗り切った

ニコニコ顔のツバキを置いて、ガッチリと握手をしたのだった



上機嫌のツバキをマルス王子が連れていき、ようやく俺の睡眠タイムだ

あの王子、帰り際に

『明日は、私の監視役がお会いしたいそうです』

って、爆弾発言をしていったが……明日でいいなら気にしない

もう、限界なんだ


明日から頑張る……だからもう寝る……

ベッドに倒れ込むと、俺は一瞬で意識を失った



「旦那様、申し訳ありません。これで罰を与えてください」

「……おはよう、スゥ」


朝、目が覚めると……薄着のスゥが乗馬用のムチを差し出していた

俺にムチを握らせると、床に膝を突く


なあに?この状況は?

混乱状態の俺に、更なる追い打ちが襲う


「お願いします!ぶってください、旦那様!」

「おはようございます、ゼスト閣下。奥様がお越しになって……」


俺とスゥを交互に見て固まるアルバート

彼の第一声で、俺の運命が決まるだろう……

頼む……頼むぞ?アルバート!!


「奥様、閣下はまだお休みのようです!起こしてから向かいますので、ソファーでお待ちください!!」


パーフェクトだアルバート!これなら誤魔化せる!!

貴様、昇進させてやろう

黙って見つめ合う俺達……心が通じた瞬間だった



(お父さん、おはようございます!!スゥとお馬さんゴッコですか?トトもやるです!!)

「あらあら、楽しそうなお馬さんゴッコですわね?ちょっとお話ししましょうね」


うん、誤魔化すのは無理でした

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