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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
126/218

125 娘の名前

「ベアト、頑張ったね。かわいい子だ……この子が結婚する相手は、私より強くなければ認めないぞ」

「ふふ、いくらなんでも気が早いですわ」


貧血から復活した俺は、赤ん坊と一緒に寝ているベアトと話していた

この子が俺の娘……


「こんなに小さいんだな」

「そうですね。でも、赤ちゃんはこのくらいが普通なんですよ」

(トトよりはおっきいです!妹なのに、トトよりおっきいです!)


そう言ってプンスカしているトトだが、妹がかわいいらしく側は離れない

すっかり気に入ったみたいだ


「しかし無事に出産が終わってよかったよ。皆も心配していたから、お礼に行かないとな」

「そうですわね。それに名前も考えないといけませんね」

(名前!どんな名前にするですか!?)


……名前か

俺が決めていいのかな?


「ベアト、名前は私が決めていいのかい?ベアトにも候補があるんじゃないか?」

「ええっ!わ、私の意見を聞いてくださるのですか!?」


「何を驚く事があるんだ。当然じゃないか……この世界では違うのかい?」

「はい、子供の名前を決めるのは男性だけです。トトちゃんは私がつけましたが、この子は公爵家の長女ですから……」


そうか、この世界の……貴族のしきたりなんだろうな


「私は異世界人だから、気にしないさ。一緒に考えようか?」

「はい!素敵な名前をつけたいですね」

(トトも!トトも考えます!)


新しく出来た家族と一緒に、幸せな時間が過ぎていくのだった



「婿殿、話は聞いたぞ。名前を皆で決めたいとは、何と素晴らしい話じゃ!ワシも協力しようではないか」

「婿殿は家族想いね。私も協力するわよ」


ドアを開けて入ってきたのは、満面の笑みの辺境伯と義母ラーミアだ

……協力?皆で決める?

何の話ですか、それは


キョトンとする俺達だが、二人は気にしない


「メイドから聞いたが、父親が決めるのが当然の名前を……皆で決めたいとは」

「私も感動しましたわ、お父様。ベアトはいい旦那さんを持ったわね」


「ひ孫の名前を決める瞬間に立ち会えるとはのぅ」

「……私もおばあちゃんに……おばあちゃん……」


違う方向性で遠い目をしている二人に、どうすればいいのか案は浮かばない

メイド部隊は何て言ったんだ……


「義母上、私の娘には『ラーミア様』と、呼ばせましょう」

「素晴らしいですわ、ゼスト様」


とりあえず、義母上を復活させるのを優先しよう

ベアトも賛成らしく、俺の案に乗ってきた


「ラーミア様ね……そうしましょう」


目に光が戻ってきた義母

これで状況の確認が出来るな……辺境伯はほっとこう

まだ何かに浸っているようで、反応が無い


「さあ、早速名前の相談に入りましょうか!」


俺達が『だから、それは何でそうなった』と聞く前に辺境伯も復活する


「任せるんじゃ、ワシの案は108まであるぞ!!」

「私も負けません!ベアトの名前を決めるときには、ソニアが『もう寝かせてください』と泣くまで……三日三晩、案を語り続けましたわ!」


こうして、楽しい家族会議命名編は開催されたのである



「じゃから、ベアトに関係する名前をじゃな」

「いいえ、伝承にある花の名前をですね」


開始から二時間

辺境伯と義母の戦いは激しさを増している

名前を決める前の、方向性を決める段階でこれである


「べ、ベアト……これは収拾がつくのか?」

「さあ……私も怖くなってきましたわ」

(お父さん、トトは眠くなったです)


トトは赤ん坊の隣に潜り込んで、お休みタイムだ

ベアトも疲れているんだろう……目をこすっている


「まだまだ時間がかかりそうだ、ベアトも休んでいなさい」

「そうしますわ。よろしくお願いしますね」


布団をかけてやり、俺は戦場へと戻るのだった

やれやれである



「それでは、花の名前でいこうではないか」

「ええ、素晴らしいですわ」


「よかった……本当によかった……」


ようやく方向性が決まって、古の伝承にある花の名前でいくらしい

要は、日本人が残した花の名前だな

これなら俺も参加出来るし、いいアイデアだと思う

不満は無い……無いが、戦いが長すぎるぞ


「では、案を出しましょう。『ワフウ』ですわよね?」

「ははは、『ヨウフウ』じゃろう」


和風にするか洋風にするかで、また二時間程ケンカが始まったのである

まだまだ俺は、寝れないようだ



「やはり、『ヨウフウ』じゃな。それでいこう」

「そうですとも、『ヨウフウ』でなくては」


「旦那様、しっかりなさってください。決まったようです」

「スゥ、俺はもう駄目かもしれん」


眠らないように、足をツネルだけでは我慢出来ないレベルになっていた

剣で軽く刺して、治療魔法を使って耐えている状態だ

俺もいろいろあったから、もう寝たい……


「さあ、お待ちかねの名前案を出し合う時間の始まりですわ」

「ふぉふぉふぉ、ワシの引き出しの多さに驚くがよい」


何でこんなに元気なんだ、この二人は

気力を振り絞り姿勢を正した


しかし、俺はこの時に思い出した

肝心な事を……


バーンと勢いよく開けられるドア

一斉に振り向いた先には、師匠が立っていた


「ベアト!ベアトは無事か!!??」


会議の参加者が、一人追加になった瞬間である



「かわいいなぁ、これはベアトにそっくりな美人になるね」

「……はい」


「そうでしょう?ベアトが産まれたときを思い出すわ」

「……はい」


「ふぉふぉ、将来は苦労するのぅ。悪い虫は処分せねばな」

「……はい」


「旦那様、しっかりなさってください!!」

「……はい」


この時の記憶はほとんど無い

スゥによれば、定期的に『はい』とだけ話す生き物になっていたらしい


俺の記憶が戻ったのは、このすぐ後

もう一度、盛大な音を立ててドアが開けられたその後であった



「お待たせいたしました!シスターを、聖女殿をお連れいたしました!」

「聖女などと……私は等しく愛される神の子です。木々がその大きさを比べないように、風も強さを競いません。雨音が続くようにです。それは、神のご意思なのです!」



「うわあああああああああああああああああああああああ」



「どどど、どうしたのじゃ婿殿」

「婿殿?しっかりなさい」

「あ、あれ?どうしました閣下」

「旦那様、お気を確かに!」

「な、何事ですか?ゼスト様!?どうなさったのです!」

「オギャーーオギャーー」

(お、お母さん!妹が泣いてます!!)


俺の発作はしばらく続いたらしい

もう……耐えられなかったんです……

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