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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第三章 調停者
124/218

123 唐突な知らせ

「ふぉふぉ、婿殿……まさか、この歳になって空を飛ぶとは思わなかったわい」

「その……ご足労おかけしました……」


アルバートは出発して数時間で、辺境伯を乗せて帰ってきた

空中なら一直線とはいえ、とんでもない速さだな

これは、なかなか使えるペットかもしれないな


「それで、ワシを呼んだのはエルフの事で相談かのぅ」


さすが辺境伯だな、話が早い

俺が手で合図を出すとメイド達が部屋から出ていく

残っているのは、俺とスゥ……そして辺境伯だけだ

アルバートはドラゴン達と訓練している、会議には向かないからちょうどいいだろう


「スゥよ、婿殿はエルフの国にまで影響力を持つようになるな。これでは、辺境伯家だけでは抑えきれんのぅ」


カップを持ちながら言う辺境伯に、スゥはハッキリと言い放つ


「私は旦那様の家令です。私に話しかけずに、旦那様と先にお話しください。そしてもう一点……たとえ辺境伯であろうとも旦那様の害になるようでしたら……お帰りになれなくなります。ご注意くださいませ」

「ほぅ、ワシを脅すつもりかのぅ?小娘が」


明らかに魔力を開放して威圧をする辺境伯だが、スゥも引かない

ピリピリとした空気の中で、二人は見つめ合っている


「ワシを始末出来るのか?」

「兄と黒騎士達……メイド部隊で襲えば勝てます。領地に帰られたら厄介ですから、ここで始末いたします。残るはソニア殿とラーミア殿……あのお二人は閣下の味方に付く可能性が高いので、どうにかなります」


ふふふ、辺境伯は楽しそうで何よりだ


「ふぉふぉふぉ、合格じゃな。危険分子は各個撃破が基本じゃ。今ならワシを始末出来るじゃろうなぁ」

「ご指導、ありがとうございます」


魔力を引っ込めてニコニコ笑い始める辺境伯

スゥも笑いながら紅茶のおかわりを準備していた

そう、これはテストだったのだ


「これなら、安心して任せられるのぅ。婿殿、エルフの国に乗り込んでいる間は心配いらぬ。いろいろと捗るのぅ」


そう言って笑う辺境伯は、久しぶりに真っ黒な笑い方をしていた……



笑顔の絶えない素敵な会合は終了した

決まった事……それは、俺がマルス王子に同行してエルフの国へ行くって事だ

あの王子に任せるのは不安が残る

なら、お前が行けばいいじゃないって事らしい


また、単身赴任か……寂しいなぁ


独りで孤独に紅茶を飲む

辺境伯はベアトの様子が見たいと、急ぎ足で彼女のところへ向かって行った

やれやれ、孫馬鹿な爺さんだよ……


ふと窓を見れば、アルバートと目が合う

……ん?ここは三階だよな?


目をこすって、もう一度見てみると居ない

それはそうだろうとホッとしかけると、またアルバートと目が合う

窓を開けて、外を確認すると……


「おお、飛んだなぁ」

「アルバート卿の三階が一番だな」

「次は俺だ、俺だ!」


「ふははは、いくらでも尻尾で跳ね上げてやろう!」


ドラゴンと仲良く遊ぶ黒騎士達だったのだ

……うん、好きにしてくれ

俺はそっと窓を閉じて、見なかった事にした



せっかくだから、この時間を利用して手紙を処理する事にした

貴族への挨拶から始まって、何故か盗賊退治の嘆願書まで置いてある

俺は何でも屋じゃないんだぞ?公爵にそんな依頼出すなよ……


それでも、ゆっくりと書類仕事は久しぶりだ

たまには平和な一日を過ごすのもいいものだな


……たまにしか平和が無いのは問題だよな

そんな脳内の突っ込みに応えるように、ドアが激しくノックされる


「だだだだだ、旦那様!一大事でございます!!」


血相を変えたスゥが飛び込んでくる


「落ち着け。またドラゴンでも出たのか?今度は何匹だ」


慌てるスゥを叱りながら紅茶を含む

まったく、貴族に相応しいふるまいをだな……


「奥様が出血して倒れました!!」

「ぶーーーーーっ」


綺麗にスゥに紅茶毒霧を噴出したのだった



「おお、婿殿!治療魔法を!いや、血を拭いて……ああっ、ベアトよ……」

「奥様、気合です!気合で何とかなります!」

「いいいいい医者はまだなの?あ、公爵閣下がいらっしゃるなら大丈夫ね!」


ベアトの部屋に到着すると、そこは地獄絵図だった

ベッドに横たわるベアトを心配そうに取り囲む者達

全員が取り乱している


「何があった?誰がベアトを……アルバート、犯人は殺したか?」

「いえ、突然倒れたのです。薬か魔法か……まったくわかりません!」

「ワシも同席していたが、魔力は感じなかった。薬かのう」

(お父さん、お母さんが!お母さんが!!)


泣き叫ぶトトに怒りで真っ赤な顔の辺境伯

アルバートは黒騎士を召集する準備をしているが、尻尾がビンビンに毛羽立っている


少しでも治療しようとベアトに近付いた俺に、苦しみながら彼女は言葉を絞り出す


「う……ううう、ぜ、ゼスト様」

「ベアト、傷は浅いぞ!大丈夫だ必ず助ける!!」


しっかりと手を握り話しかけると、脂汗を流しながらもハッキリと告げる



「う、産まれます。お母様を呼んでください」


産まれる?…………産まれるだと!?


「しゅ……出産か!!誰か、誰か赤ん坊を呼べ!!!!」

「おお、赤ん坊じゃ。赤ん坊を呼ぶんじゃ!!」

「おい!赤ん坊を連れてこい!!ドラゴンも使え!」

「旦那様、何歳の赤ん坊でしょうか?」



何故か、赤ん坊を拉致しようとし始める混乱した一団

その混沌とした場所は、その人の行動で収まった



「この馬鹿者達!いいから男は部屋から出る!!産婆を連れてきました。後は任せて廊下に正座でもして待ってなさい!!!!」



義母ラーミアにひっぱたかれて、俺達は仲良く廊下で正座した

辺境伯と一緒だなんて……初体験だ……

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