121 ドラゴンと魔法属性
「と、いう訳ですから陛下。私が陣頭指揮をとります」
「ああ、頼む。だがゼストよ……お前、もう少し手加減を覚えろ。死ぬかと思ったぞ」
額に濡れタオルを乗せて、ぐったりしている陛下
宰相はまだダウンしている
「……その、申し訳ありません」
「ははは、ゼスト公爵は大胆な方ですな」
謝る俺の肩をポンポン叩くニーベル
何を関係ないフリしてるんだよ、お前も原因だろうが
激しく突っ込みたいが、今はそれどころじゃない
早くドラゴンの回収をしないと
「陛下、急ぎますのでこれで!」
ニーベルを連れて、俺は逃げるように会議室を飛び出す
これ以上の失態は避けたいよ
「一番近いのはどこだ?」
案内をするのは先ほどの伝令兵だ
なかなか精悍な顔つきで、足運びが只者じゃない
「はい、あちらの通路が近いかと」
最悪の場合は、俺が兵士を担いで行こうかと思ったが……
こいつ、魔力で身体強化してやがる
かなりのスピードで走り出した
「お前、いい腕だな。師匠は誰だ?」
「はっ、ラーミア様です」
……そりゃ、あの殺気と魔力の中に入ってくる筈だわ
あの義母に鍛えられているのか、伝令兵達は
「義母上か……その気があれば、公爵領に来い。悪いようにはしないぞ」
「ありがとうございます!」
何故か泣き始めた兵士は、スピードを上げて現場に案内してくれた
泣くほど嫌なのかよ……義母の訓練は
到着した現場では、兵士達が震えながら黒いドラゴンを囲んでいた
気絶しているとはいえ、十メートル近い巨体だ
怖くて当然だろう
「武器は下せ。私が対応するから、下がっていろ」
俺の言葉に振り向いた兵士達は、ほっとした表情で下がっていく
「ゼスト閣下だ、助かった」
「よし、これで安心だな」
「やれやれ……死ななくて済みそうだな」
口々に言いながら座り込む
まったく、こいつらは訓練が足りないんじゃないか?
情けない兵士達を見ながら、黒ドラゴンに近付く
特に外傷は無いようだな、さすがに頑丈だ
俺の身長並みの顔に触りながら、治療魔法をかけてやる
すると、すぐに意識を取り戻し目を開けた
「貴様が治療魔法を使ったのか?人間よ、その行為は褒めてやろう……だが!その程度で、私を屈服させる事が出来るとは思わぬ事だ」
「……」
「ふふふ、驚いて声も出ないか?仕方がないだろうな、ドラゴンは最強の生物。貴様達人間のように、軟弱ではない!おとなしく、我々に従うがよい」
そうドヤ顔で語る黒ドラゴン
そいつは、腹を上に向けて寝そべり……尻尾ををブンブン振っていた
「ニーベル殿、あれはドラゴンの威圧の恰好なのかな?」
「いえ、服従の姿勢です。彼はちょっと見栄っ張りなんですよ」
ドラゴンにも、いろいろあるらしい……
「おお、ニーベル殿!ちょうどいい、本来ならば私が直接その人間をあしらってやりたいが……落下の衝撃で爪を痛めてしまってな。任せるぞ!!」
そう言って爪を見せるドラゴン
確かに少し汚れているようだが、傷など無い
まさかそんな理由で戦わないのか?ドラゴンって、強いんじゃないのかよ
呆れる俺はニーベルを見るが、彼も困り果てていた
こんなに怯えて使い物にならないとは、予想外だったのだろう
周りの兵士達からも、いたたまれない空気が流れてくる
「ゼスト様、ご無事ですか!?」
そんな微妙な空気の現場に、ベアトの声が聞こえる
なんだ?なぜこんなところに……って、俺を心配して来てくれたのか?
俺と目が合うと、彼女はニッコリ笑いながら近付いてきた
「ご無事でなによりですわ、ゼスト様。もう大丈夫ですわ……彼等は、話したらわかってくれましたから」
「アネサンには逆らいません!」
「我が主に従います」
「お嬢の旦那かい?強そうだねぇ」
「痛いっすよ、トトさん」
(あははは、お父さん!このトカゲ飛ぶんですよ!)
そう言って微笑むベアトは、愛用のバルディッシュを担いで……黒いドラゴン四匹を従えていたのだった……
オハナシしたら……わかってくれたんですね、わかります
その後は簡単だった
ベアトの忠実なペットになった黒ドラゴン達は、金ドラゴンを起こしに行ってくれた
今は中庭で待機しているだろう……
金ドラゴン達は、ベアトを見てブルブル震えているばかり
まったく話が出来なかった
だが、俺が近付くと一変した
「「「この魔力!アニキ、ついていきます!」」」
「あら、凄く気持ちいい魔力ね」
「ねえねえ、乗っていいわよ?」
と、ドラゴンにモテモテだった
黒ドラゴンはベアトに、金ドラゴンは俺に滅茶苦茶なついたのである
「はは、仲がいいですね……いいですね……」
それを見たニーベルは、死んだ目をしていた……
自分のせいで、威圧外交が失敗したからだな
彼の説明では、ドラゴンは、それぞれの色の属性に好感度が高いらしい
反対に、逆の属性には極端に弱く嫌悪感を抱くようだ
だから闇属性のニーベルの魔力で金ドラゴンが墜落するし、俺の光属性で黒ドラゴンが墜落したようだった
そんな極限状態で、親和性の高い魔力属性……しかも強力な使い手を見たら……
ご覧のありさまである
……あれ?ニーベルさん、泣いてるの?
それを忘れて魔力全開にしたのは、あんただろ?
「とりあえず……エルフの企みに加担しないことは、ゼスト公爵の説明で理解出来ました。私は帰りますし、あなた方に任せますよ……その子達もしばらく面倒を見てあげてください。帰りたがらないですから……」
フラフラと立ち上がり、彼は城を出て行く
その背中は哀愁が漂っていた……なんだか、気の毒になってきたな
後で、手紙とお土産を送ってあげよう
かわいそうなニーベルを見送って、事の顛末を陛下に報告するために会議室へ向かう
黒ドラゴン達はベアトとトトが散歩に連れていった
金ドラゴンはおとなしく中庭で日向ぼっこ中だ
「婿殿、お疲れさまでしたね」
鉄扇をパタパタさせた義母に声をかけられる
「義母上、申し訳ありませんが陛下にごほう……」
「婿殿?私が手塩に掛けて育てた伝令兵を、引き抜こうとしたらしいわね?ちょっとお話があるの、報告が済んだらいらっしゃいね?」
鉄扇で顎を持ち上げられて、俺は小さな声で『はい』と言う以外出来なかった
……ドラゴンなんかより、絶対にこの義母の方が怖い
泣いていた伝令兵の気持ちが、わかった気がした……