120 対策会議
「おお、ゼスト!待っていたぞ」
「お待たせしました、陛下。この状況ですので、失礼はご容赦ください」
謁見の間ではなく、城の大会議室
そこに帝国の幹部が集結していた
伝説のドラゴンが群れでやってきている状況だから、礼儀だ作法だと言っている場合ではない
「現在までの状況を誰か説明できるか?」
「私が説明します」
立ち上がったのは宰相のアークだ
一年ちょっとぶりかな?ずいぶんと老けたなぁ……宰相殿は
「ドラゴンは北から接近中で、発見したのは見張り塔の兵士です。遠眼鏡で確認して報告。まだそれ程時間は経っていませんが、間もなく肉眼でも確認出来るかと」
「正確な数は?」
「十二匹です。金色と黒いドラゴンの混成ですね」
ああ、その色は怖いな……
普通に考えても強そうな色じゃないか?
数も脅威だが、そのボスみたいな色も脅威だろう
「今、動員出来る兵力は?」
「せいぜい1500人ですな。ゼスト公爵は?」
「私も300といったところだな……まずは話し合いだろうな。ドラゴンはわざわざ出てきたんだ。何か理由があるんだろう」
「でしょうな。ですが動員だけはしておきます」
そこまで言うと、アーク宰相は部屋を出ていく
書類をごっそり持って慌ただしく走っていった
各部門に調整をするんだろうな……また余計に老けるだろう
「残っているのは軍部だな?貴様達は、しっかりと兵士をまとめておけ。いいか、絶対に先走るなよ?」
「「「はっ!」」」
ビシッと敬礼して出ていく将軍クラス達
フリじゃないからな?絶対だぞ?
「陛下、念のためにですが……」
「ああ……ツバキは脱出出来るように準備をさせてある。最悪の場合は頼む」
戦闘になった場合は、ツバキを連れて逃げろって意味だ
皇族の血を守る為の最後の手段だろう
「その場合は、息子が獣人の国であるザール王国に留学している。奴の面倒を見てくれ、ゼスト」
留学ねぇ、本音は違うだろうに
俺を警戒して国外に逃がしたんだろうか?
「そう……ならないように、交渉しませんとね」
そう答えると、陛下は力なく笑っていた
「お前を最初から信じていれば……いや、かえって良かったのかもしれんな。息子が安全なら、帝国は終わらない筈だ。俺が死んだら、お前が摂政として後見人になってやってくれ」
「御意。必ずやご期待に応えます」
そんなやり取りをしていると、鎧姿の兵士が飛び込んできた
「報告いたします!魔族を名乗る男が、今回の件で話がしたいと参っております!」
陛下がチラリとこちらを見る
俺に任せるってか?
「ここにご案内しろ。失礼が無いようにな」
「はっ!」
こうして、魔族との会談が始まるのだった
「はじめまして、皇帝陛下。魔族の長ニーベルと申します。ゼスト公爵、お久しぶりですね」
会議室に現れたのは、ニーベルだった
陛下と宰相、そして俺とニーベル
この四人で会談は始まったのだ
「魔族に長がいるとは……ゼストは知っていたのか」
「ええ、以前お会いしたんですよ」
ニコニコしながらニーベルが答えるが、油断はできない
彼は理由があってここに来たのだ
管理人としての仕事だろうな
「報告できずに申し訳ありません、陛下」
「いや、言えない理由があったのだろう?ゼストが隠す理由が」
「ご明察です。私が口止めしていたんですよ」
俺と陛下の会話に割り込むが、彼を責める事など出来ないだろう
この場の誰よりも、彼の立場が強いのは皆が感じていた
「さて、今回は急ぎなので手早く確認させてください」
さっきまでの顔ではない
俺でさえ、肌がビリビリするような殺気を纏ってニーベルが告げる
この魔力……今まで出会った誰よりも強い
宰相は一瞬で意識を失って倒れている……陛下は、なんとか気絶はしないで耐えているようだ
「今回のエルフ達の陰謀……どうするおつもりか?」
返答次第では、一瞬で殺し合いになるな
俺も魔力を纏って準備した
魔族を敵にするつもりは無いが、かかる火の粉は払う
その魔力に反応したニーベルが、俺を振り返った
「何を驚くニーベル殿。そんな殺気を出されては、こうするしかない。自分の安全は守らせてもらうが、気にしないでください」
「いえ、それは結構です。私が驚いたのは、その魔力量ですよ……これ程だとは……」
ニーベルと俺の魔力
どちらが上か比べるように、お互いに魔力を高めていく
最初は魔力だけだったが、殺気もブレンドした威圧合戦に発展していった
陛下もとうとう気絶して二人きりの会議室に、ドーーンという音が聞こえてきた
「ニーベル殿、先制攻撃とは……いくらなんでも性急ではありませんか?」
「ええ!?私はそんな指示は出していませんよ?」
俺の言葉に慌てて首を振るニーベル
本当だろうかと疑う俺だが、部屋に入ってきた兵士の報告で解消された
「伝令!城にドラゴンが落下しました!しかし、落下したドラゴンは泡を吹いて意識がありません!!いかがいたしますか!?」
シーーンと静まる会議室に、遠くから聞こえる兵士達の喧騒が響く
ドラゴンが落下??
「なるほど、そうか!」
ポンッと手を打ったニーベル
答えが出たようだな
「おそらく、私とゼスト公爵の魔力に驚いて気絶したんでしょうな。何しろ久しぶりの外出で、初めてこんな攻撃的な魔力を感じたから……ははははは、ああ見えて、彼等は繊細なんですよ……」
当たり前の事のように話すニーベルだが、彼の頬には汗が流れていた
伝説のドラゴンは、意外とデリケートらしい……