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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
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118 二章 エピローグ

「ですから、誤解なのです。義父上」


必死になって訴えるマルス王子

彼の服は血で真っ赤になっている

……もちろん、彼自身の血だ


「誤解もなにも、ベアトを口説いたんだ。仕方ないだろう?」


ニッコリ笑いながら長剣を構える

だいぶ刃こぼれしているが問題ない

まだ魔力で強化すれば、腕の一本や二本は切れるだろうな


「そこです!そこが誤解なのです!」


半泣きで首をブンブン振っている

なんなんだよ……


「あれは口説いてなどおりません。エルフの挨拶なのです」

「ほほう、挨拶か」


長剣を放り投げて、王子を見つめる

安堵の表情で奴は続ける


「エルフならば当然の挨拶ですから、義父上……まさか、否定はなさいませんよね?」


ドヤ顔の馬鹿王子

まだわかっていないらしい


「エルフの文化は知れ渡っていない。それが本当だとしても配慮が足りないな。そして万が一、ウソだった場合は罰が必要だ。つまり、どちらにしても教育が足りないということだ」


俺が右手を差し出すと、ベアトが愛用のバルディッシュを渡してくれる

王子はドヤ顔で固まったままだ


「さあ、教育してやろう。ここからは実戦形式だからな?」


「閣下の実戦形式か……黒騎士部隊は、奥様をお守りしろ!」

「ゼスト様、その武器ならば無茶をしても平気ですわ」

(うわぁ、魔力がハッキリ見えます。お父さんは相変わらず凄いです!)


アルバートやベアト達の声を聞きながら、王子の教育は再開されたのだった




「お疲れさまでした、旦那様」


教育を終えて部屋に帰ってくると、スゥが出迎えてくれる

彼女は先日用意した、家令用のパンツスーツのような恰好である

さすがに家令がメイド服じゃ、マズイからな

返り血で汚れた服を着替えて紅茶タイムだ


「スゥ、エルフは挨拶が女性を口説くのが普通なのか?」

「は?そうなのですか?」


お茶を準備しながらキョトンとしている

そうだよね、初耳だよね

しかし、男装の麗人って感じだな……いいな、これ


「一応、調べてみてくれ」

「かしこまりました。旦那様が行ったときに、奥様を口説かれたら面倒ですからね」


面倒とか言うなよ

そこは上手くごまかして言ってくれ


ベアトとトトは、仲良くお風呂だろう

もう少しでアルバートが王子を担いでやってくるかな?

そんな事を考えながら、紅茶を飲む

やはり味が違う気がするなぁ……普通の茶葉なのに


一杯目の紅茶を飲み干して、焼き菓子をパリパリ食べていると到着したようだ


「閣下、連れてまいりました」

「ご苦労。アルバート、たまには一緒にどうだ?」


「そうですね。では、一杯だけいただきます」

「みず……みずをください……」


砂漠で遭難したような王子を担いだアルバート

ソファーに座り、妹が用意した紅茶を一口飲む


アルバート、顔を赤らめるな

なんで緊張してるんだよ、妹だろうが


「うまい。こんなうまい紅茶は初めてですよ、お嬢さん」

「お兄様、頭でも打ちましたか?妹を口説いてどうするおつもりで?」


カッと目を見開き、固まるアルバート

お前まで……なにをやってるんだ


「見違えるようになったスゥへの、褒め言葉だろう。なぁ、アルバート」

「はっ!その通りであります」


これからもう一回教育は、正直やりたくない

ここはなかった事にしよう


力技でごまかす事に成功したので、本題に入る


「それで、婿殿の実力はどう見た?」

「はい、ハッキリ言ってメイド部隊以下。かろうじて、元冒険者の斥候部隊となら戦えるかと」


そう言われてしまい、うなだれる王子

いや、疲れて動けないだけかも知れないが


「では、アルバート。お前が婿殿をある程度戦えるように鍛えてくれ。これでは暗殺されて終わりだ。軟弱すぎる」

「し、失礼ながら義父上。私は頭を使う方が得意なので……」


うん、悪だくみの才能はあるだろう

だがそれは、あくまでも鎖国状態のエルフの国基準だ


「では、お前の頭脳で策を言ってみろ。自分の安全をどう確保する?」

「はい!義父上や、そのご一族のお力を……」


「却下だな。一族郎党を引き連れて、エルフの国に乗り込むのか?」


王子は黙っている


「それに、精霊化の英雄として俺は安全かもしれん。だが、お前は違うぞ?暗殺されたら終わりだ。それ以上、俺達は手を出せない」

「では、魔族達の力を借りれば!」


「それも駄目だな。お前を担ぐ理由がないだろうが。一度過ちを犯した一族が王族のままで居るなら、理由がいるな」

「しかし、この件は母が……王妃の責任で……」


まあ、気持ちはわかるけどな


「お前が王族として、エルフの国を取り戻すには……魔族に認めてもらう必要がある。彼等は安定を望んでいるのだ。お前のように、いつ暗殺されるかわからない奴を重用すると思うか?」

「それは……おっしゃるとおりです」


グッと唇をかみしめる王子

ようやく自分の危うい立場を理解したか


「最低でも自分の身を守れる王になれ。平時ならば弱くても構わないが、今は異常事態だ。強い王でなければ国がまとまらないだろう?ツバキなら自分の身は守れる程度には戦える。あとは、お前だけだ」

「はい。しかし、私にできるでしょうか?」


「出来る出来ないではない。やるしかないのだ。好きな女を妻にして、国に帰るんだろう?覚悟を決めろ」

「わかりました、義父上。よろしくお願いいたします!」


そう言って頭を下げる王子の目は、先ほどまでとは違っていた

生き延びてやる……そんな決意の目だ

ふふ、俺もこんな目をして師匠に修行してもらったのかな

懐かしいな……


「安心しろ。必ず一人前の使い手にしてやる。娘を未亡人にはしたくないからな……まずは」


そう言いかけたときに、ドアがノックもなく開けられる



「緊急です!ドラゴンの群れが、帝都に向かっているとの情報です!ゼスト公爵閣下は、直ちに接見せよとの勅命です!」



息を切らせて飛び込んできた兵士

その顔は悲壮感でいっぱいだった


おとぎ話では、一匹でも国を滅ぼしたと言われる生き物

そんな伝説にしか登場しないドラゴンが、群れでやってくるという


帝国の歴史書に残る『裁きの使者』は、こうしてやってきたのだった

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