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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
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116 敵と味方

「陛下、本当に申し訳ありません」

「ゼスト……苦労をかけるな……」


ツバキの無礼を詫びるつもりが、陛下に同情されるとはな

お互いに顔を見合わせて肩を落とす


俺の実の娘がやらかしたなら、叱られて終了だ

だが、やらかしたのが陛下の娘で養女となると話が違う


「アレの事は皇后に任せて、俺達は話を続けるか」

「そうしましょう……」


白目のツバキは皇后が搬送してくれた

今は別室で休んでいる筈だから、安心だろう

疲れ果てた体の為に、甘めの紅茶を飲む

本音だと酒でも飲みたい気分だが、我慢するか



「さて、マルス王子。それで宰相側には、どの程度の勢力が付いている?」

「はい、ハイエルフ……こちらで言う貴族階級の者達の三割程度ですね。その中に、影響力が強い者が居るのが問題でして」


ふむ、三割か……後は日和見の連中か?


「影響力が強いとは、具体的には?そして王子派はどのくらいだ?」


俺の質問に、こわばった顔でマルス王子が答えた


「はいっ!宰相と内政担当の高官、軍事部門の将軍三名のうち一名です」


ビシッと背筋を伸ばして答えた

やめろ……これ以上脳筋は必要ないし、そんなにビビるなよ


「なるほどな、その程度ならば……で、王子派は?」

「それが……今のところ、おりません」


「なに?今、居ないと聞こえたような気がしたな」

「陛下、私もそんな空耳が聞こえました」


「馬鹿のフリをしないと危険でしたので、そうしましたら……」


その理屈はわかるが、ゼロとは恐れ入ったな

陛下も額を抑えている


「王妃派はどうだ?王妃ならば、それなりの影響力があるだろう」

「さすが陛下です。ご慧眼、感服いたしました」


さりげなくヨイショした俺だが、王子の言葉で恥をかく


「その、王妃は……母は宰相に……」


申し訳なさそうに言う王子の言葉に、俺と陛下は深々とため息をついたのだった



「結局、宰相派は五割といったところでしょう。ですが、話を聞く限り……流されて付いている者も多そうですね。真剣に魔王復活などと考えているのは、そう多くはないかと」

「ふむ。ゼストがそう言うとはな。勝算があるという意味か」


「エルフの兵力は約5000人との事。半分の2500人ならば、いかに精強なエルフといえ……私と辺境伯の敵ではありません。それに、精霊化の英雄の名前も使えば……」

「政治的に追い詰められるか……」


目をつぶり、ひとしきり考えた陛下は判断をくだす


「よし、最悪の場合は開戦になっても構わない。王子を助ける方向で動くぞ。魔族や教国の対応はゼストに任せる」

「御意。まずは魔族に連絡をとり、確認いたします。彼らは情報を掴んでいるでしょうし、反目はマズイでしょう。その後は、早急に結婚式ですかね」


「ああ、それでいこう。エルフの国に介入する理由が要るからな」

「わかりました」


「皇帝陛下、義父上。よろしくお願いいたします」


マルス王子が深々と頭を下げたから、これでとりあえずの会談は終了かな

だが、陛下は最後にこう切り出した


「そいいえば、ゼストの動員兵力はどんな程度なんだ?」


聞くんですか、それを……

あんまり言いたくないなぁ


「黒騎士が500人、メイド部隊が200人、元冒険者500人、獣人の志願兵が2000人ですね。初動で動員出来るのは……」

「約3000人かよ、最大動員は?」

「初動で3000……」


「予備の獣人達を総動員すれば、もう5000可能です」


俺の領地の獣人達は、普段は農民だったりしているんだ

だが、有事にはほぼ全員が兵士になると志願してくれている


「もう、お前だけで勝てそうだな……」

「じゅ、獣人7000人に精鋭の黒騎士と戦乙女とか……義父上はどこに向かおうとしているのですか?」


呆れた顔の陛下と王子

二人はなにやら通じ合ったようだ


「な?ゼストは怖いだろ?領地を変えようにも、獣人が多いあそこを統治出来るのはこいつだけだ。厄介なことにな」

「お察しします、陛下。しかも隣は、あのライラック聖教国ですか」


「下手にゼストを冷遇したら、あの国も敵になるんだ。もう、あいつが皇帝にでもならないかって話だな」

「それは……なんとも」


はぁーっと仲良くため息だ

冗談じゃない


「私には国の頂点に立つ器はありませんよ。今の立場が精いっぱいですから」


「こんな性格だから助かってる」

「なるほど、陛下の懐刀という訳ですか」


「ああ、だが甘く見るなよ?こいつは確かに今の立場に満足している。だが、かみつき場所を誤ると、大怪我じゃ済まさない奴だぞ」


そう言って笑う陛下が続けた


「ゼスト、もしベアトリーチェに俺が手を出したらどうする?」


ははは、陛下も冗談が好きだな


「面白い冗談ですね、陛下。でも……もしそれが本当になったら、帝国ごと消しますけど」


「な?あいつ本気だからな、王子もベアト……義母にだけは触るなよ?消されるからな」

「義母上には、絶対に無礼はいたしません!」


ブンブンと首が取れそうな勢いで振るマルス王子

陛下も足がプルプルしていた


陛下、これ芝居でしょ?王子に釘をさしただけですよね?

あれぇ?違ったのかなぁ……


「そうしろ。それさえしなければ、こいつは身内には甘い。王子の為に……いや、ツバキの為にも協力してくれる」

「はい。ご助言、ありがとうございます」


うん、やっぱり王子に注意をしたかったんだな

俺の取り扱い注意をな……

まあ、この王子がベアトに何かしたら殺す自信があるから仕方ない


まあ、これで今回の会談は終了だろうと切り出そうとした

だがそれは出来なかった

ゆっくりとドアが開いていくのだ



「あなた。ツバキは泣き疲れて寝てしまいました。いったい、どうなっているのですか!?」


普段の温和な顔を、般若のようにした皇后陛下の入場だ


「では、失礼いたします。両陛下」

「失礼いたします」


危険を感じた俺達は、絶妙なタイミングで挨拶をする

置いていくのか?って顔の陛下は無視だ

俺が助かる為だ、陛下には犠牲に……



「あなた達も待ちなさい。ゼストは養父で王子は婿でしょう!関係なくありませんよ!」

「申し訳ありません」

「おっしゃるとおりです」


「クックック、ゼストめ怒られて……」

「あなたが一番の原因です!笑ってないで反省なさってください!」



俺はこの日、皇帝陛下と一緒に正座するという貴重な体験をしたのだった

女性には……いや、妻にはキチンと説明しておかないと、陛下でも正座するみたいです

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