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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
113/218

112 王子の策

「旦那様、ご確認を」


スゥに差し出された手紙

エルフの王族からの手紙を受け取り、開いてみる

……見たくないなぁ


『突然のお手紙、申し訳ありません。

帝国の重鎮たるゼスト公爵に、折り入ってお話とお願いがございます。

私が到着するのはまだ先になりますが、そちらに着き次第に機会をいただきたい。

最早、頼れるのは……精霊化を実現させた英雄しか居ないのです。

どうか、どうかお願いいたします』



やっぱり見たくない内容だったな

名前が入ってない事が、余計に嫌な予感がする

必要な最低限だけを急いで書いた……そんな印象だな


「旦那様、そちらは処分いたしますか?」

「……そうだな。燃やしてくれ」


俺の顔色から察したのか、スゥが手早く処理する

ヤバい手紙は燃やすしかないからな


「あの手紙を届けたのは……」

「ツバキお嬢様のメイドでございます」


やっぱりか……

エルフの国からの手紙を任せられる……信用出来るメイドを確保しているのか


「ツバキの婿殿は、噂とは違うようだな。馬鹿ではなく……大馬鹿みたいだぞ」

「それはそれは。旦那様のご苦労が増えますね」


そう言ってニコリとスゥが笑う


「嬉しそうだな、スゥ」

「ええ、大馬鹿ですからね。どの程度なのか、楽しみです」


念のために、わざと大馬鹿と表現したのを理解したようだ

『エルフの王子は馬鹿じゃない。何か企む為に馬鹿なフリを他国でやってのける大馬鹿……つまり、ただ者ではない』

って意味だな


「まあ、かわいいツバキの婿殿だからな。到着したら家族としてゆっくり話をしたいものだ」

「はい、そのように手配いたします」


綺麗に頭を下げてスゥが出ていく

これが建前で良いだろうな……後は、馬鹿なフリをしないといけない理由次第か


グイッと飲み干した紅茶は、すっかり冷たくなっていた




「義父上!ご無沙汰しております、ツバキであります!」


ようやく一息ついていたら、ドアが壊れそうな勢いで開かれた

ツバキがやってきた……相変わらずビシッとした敬礼だ


「久しぶりだな、ツバキ。家族でゆっくりするか……お前達は下がれ。あとは公爵家の者が手配する」


俺の言葉に、ツバキが引き連れていたメイド達が出ていく

入れ替わるようにスゥが入ってきた


「ツバキ、もういいぞ」

「はっ!義父上、何がでしょうか!」


「スゥ、大丈夫だな?」

「はい。問題ございません」


さっきのように、準備が出来ていない訳じゃない

ツバキがくるのは予想していたからな


「ツバキ、芝居はいい。王子と何を企んでいる?」

「……」


「違うか……王子に頼まれたか?策を考えたのは王子で、協力したのか」

「義父上、おっしゃる意味がわかりません!」

「お嬢様、私を警戒する必要はございません。私は公爵家の家令でございます」


黙って俺とスゥを交互に見るツバキ


「俺と会う前から王子とは知り合いだろうな。しかし、皇帝陛下の命令には逆らえないだろう。だから、俺との結婚を認めた……いや、婚約者になるだろう年齢だからか……王子は何処まで読んでいた?」

「あの……そのう……」


「何らかの理由で、王子は馬鹿なフリをしないと生きていられなかった。それを知りながらツバキは協力する事にした。たが、予定外の俺が現れた……違うか?」

「……お義父様は……そこまで……」


「予定外の婚約者……だが、無理矢理断るにはリスクが高い。そこで王子が策を考えた。ツバキが馬鹿王子に求婚される馬鹿娘を演じる、だろう?あまり俺を甘く見るなよ」


ツバキは答えない

真っ青な顔でガタガタ震えていた


「ツバキ、お前は公爵家の娘だ。できるだけ俺が守ってやりたい。だが、知らないと出来ない事があるだろう?」

「うっううぅっ」


「怒ってなどいない。そうか、ツバキが本当に好きだったのは王子だったのか。その想い叶えてやる。幸せになれよ?」

「うわああぁぁぁん、お、おどうざまぁぁぁ」


鼻水をたらしながら、ツバキは俺にしがみついて泣いていた

あまりの泣き声に、ベアトもやってくる

だが、ツバキはいつまでも泣いていたのだった




「落ち着きましたか?まったく、驚きましたわ」

(あはは、ツバキ鼻水出てます!)


ツバキが泣き止んだのは、一時間近くたってからだ

ベアトにハンカチで鼻水を拭いてもらっている

……ハンカチだからな?


「まさかお義父様にバレているとは……全てお話いたします」


目を真っ赤にしたツバキが、紅茶を飲みながら語り始めた


エルフの王子は、ツバキが五歳位のときに知りあったらしい

王子は当時から馬鹿王子で有名だったが、鎖国状態のエルフと交流があった帝国には何度か来ていたようだ


まあ、帝国は初代が異世界人の英雄だからな

無視は出来ないが、幹部を出す訳にはいかない

馬鹿王子なら、間違って殺されてもいいし……王族って肩書きがあるから使われていたんだろうな


そして出会った二人は、恋に落ちる

……五歳の幼女に落ちるとは、大丈夫か?王子は

日本人もあれか……紫の上って例があるから言えないけどさ


エルフの王子と帝国の姫

身分は問題ないからな、手紙のやり取り等をしながら交流していたらしい

馬鹿王子は噂と違い、ツバキには優しかったそうだ

いつか結婚したい……そう思っていたが、俺が現れた


後は俺の予想通り、馬鹿王子から手紙で指示されたように演じていたと……



「今まで、申し訳ありませんでした。嘘を演じて……私は……」


再び涙があふれ出すツバキ


「いいのよ。よく、頑張ったわね……辛かったわね?皇帝陛下も何を見ていたのかしら……」


ベアトが優しく涙を拭いて抱きしめていた

騙されたよりも、一途な恋にやられたらしい

……幼女を一途にって、どうも納得いかないけどなぁ

まあ、逆らうと怖いからそっとしておこう


「ゼスト様。ツバキの件は、なんとかしてあげましょうね」

「はい!」


聖母のような微笑みで、真っ黒な魔力を纏うベアトには逆らえない

ほとんど反射的に『はい』と答えた俺だった



泣き疲れたツバキはベアトに連れられて、一緒に寝ている筈だ

無理もないだろう


まだツバキは、日本なら中学生くらいの子供だ

それが貴族の……皇族のしがらみの中で必死に頑張っていたんだ


やりきれないな……皇族ってやつは

あんな子供にそんな思いをさせるんだから


ぶつけようのない怒りを酒で誤魔化す

くそっ!味なんかまったく感じない



「旦那様、せめて食べながらになさってください。また昨日のようになります」


スゥがつまみを持って入ってきた

そうだな……食事をしていなかったな


「ああ、そうするよ。スゥも少し付き合え」

「はい、かしこまりました」


チーズやクラッカーを食べながら、ワインを飲む

スゥもグラスを用意して飲み始めた


「旦那様、貴族には義務がございます」

「……わかっている」


「平民が贅沢な暮らしは出来ません。安全性も低い生活です」

「ああ、わかっているさ」


「ならば、納得してくださいませ」

「わかっている」


グイッと飲み干したグラスに、ワインをドボドボついだ


「お辛いのはわかります。ですから、私がいるのです。頼ってください、旦那様」


じっと見詰めるスゥの目は、断固たる決意を感じる

そうだよな、出来る事を頑張ろう

俺には協力してくれる仲間がいるじゃないか



「ありがとう。頼りにしているさ」

「嬉しゅうございます。我が忠誠は、あなた様だけに……生涯捧げます」



スッと立ち上がり、頭を下げでスカートをつまんで足を折る

俺の忠実な……大切な家令はこう続けた



「これを使ってくださいませ。しっかり匂いが付いております」



差し出されたハンカチは、三ヶ所に穴があいていた……

ああ、そっちのお話でしたか……そうですか……


この家令……駄目かもしれん……

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