105 家族会議
「まあ、そういうことでしたのね。ビックリしましたわ」
「ふぉふぉ、そういえばそうじゃったのぅ」
「まったく……婿殿?脅かさないでよ……」
「ははは、閣下はなかなかのいろおとっ!……グフッ」
「アルバート、貴様が説明しなかったからだろうが」
軽く魔力強化全開で、ボディに一発入れておく
ピクピクしてるから生きてるな……問題ない
「この度は、兄がご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げているメイドのスゥだ
貴族になったんだから兄のアルバートに付いてくるかと思っていたが
『辺境伯家にご恩を返す』
と、メイドを続けていたのだ
「気にするな、スゥ。アルバートも……いろいろ大変だったからな。それに私の家臣だからな。不始末の責任は私にあるのだよ」
スゥをなぐさめてから、皆に振り向く
「今回の騒ぎ、申し訳ありませんでした。我が家臣の不手際、なにとぞお許しを」
辺境伯達に頭を下げる
誤解は解消したのだが、アルバートの説明不足が原因だった
家族でも貴族としてのケジメはつけないとな
「がっが、ばだじのだべびぼうじばげがぎ」
アルバート、意味がわからん
多分……私の為に申し訳ないとか、そんな感じか?
「ふぉふぉ、婿殿に頭を下げてもらっては何も言えぬわい」
「はぁ……アルバート。婿殿に誠心誠意、お仕えしなさい」
「ばっ!」
ヨダレを垂らしたアルバートが、寝そべったまま敬礼していた
……ごめん、強く殴りすぎたかな?
治療魔法でアルバートを復活させる
今回のは、ミスにカウントするのかな?チラリとベアトを見た
「ゼスト様のアレを受けたアルバートには、罰を与えられませんわ……」
(お父さん、アレは普通なら死んじゃいます!)
「良かったな、アルバート。あと二回も残ってるな!」
「はっ!閣下のご配慮に感謝いたします!」
無理やりいい話にする事に成功したな
脳筋は実に素晴らしい
「……婿殿は、意外と力業を使うのぅ」
「こんな子ではなかったのですが……」
「お兄様、閣下に忠誠の踊りを!」
ドン引きする辺境伯と師匠だが、この二人には言われたくないわ
しかも…………スゥも脳筋系かよ
いやいや、それに忠誠の踊りってなんだよ
頷いて、スッと立ち上がるアルバート
踊りが始まるらしい
「ワオォォォォォォォン!!」
遠吠えから始まった、謎のダンス
フラダンスとリンボーダンスを足してコサックをぶち込んだような不思議な踊り
それを小一時間、見せられる事になったのだった……
「お兄様、お見事でした。ゼスト公爵閣下もお喜びでしょう」
「うむ!我ながら素晴らしい踊りであった」
汗を拭く、いい笑顔のアルバート
やりきった!みたいな顔されても、どう反応したら……
「ふむ……こう……あれだな、ソニアよ」
「……えっ、ええ。あれですね、婿殿」
「……おっしゃる通りです」
必殺技、『おっしゃる通りです』を発動して切り抜ける
二人とも困惑した顔してるからな……何が正解だか解らない
「ありがたきお言葉!このアルバート、変わらぬ忠誠を閣下に!」
サッと膝を突くアルバート
いったいどの辺がありがたいのか問い詰めたい
「良かったですわね、アルバート」
(お母さん、あの踊りは何だったんですか?)
さりげなく誤魔化すつもりだったのだろう、ベアトの頬に汗が流れた
(お母さん!何の儀式だったんですか?)
「……トトちゃん、仕方ないわね。焼き菓子を食べましょうね」
(わーい、お菓子です!)
買収されたよ……チョロイなぁ、トトは
次から俺も焼き菓子を使おう
こうしてスゥの結婚騒ぎは、無事に終わったのだ
一つの例外を除いて……だが……
「辺境伯閣下、お世話になりました。お兄様があれほど公爵閣下に必要とされているとは……これではお兄様だけには任せられません。私も公爵閣下のお世話になりたくぞんじます」
ビシッと、頭を下げるスゥ
騎士達とは違い、優雅さまで兼ね備えた素晴らしい礼だ
「スゥならば安心だ。ベアトも出産があるからのぅ、むしろそうしてくれ」
「……次期メイド長候補を探してこないとね。婿殿、スゥは優秀だよ?大事にしてあげなさい」
「アルバートの妹ですもの。私の専属にしたいですわ」
(やったね!お父さん、ペットが増えました!)
トト、そのフレーズはいけない……
「スゥ、これから頼むぞ?ベアトの力になってくれ」
「かしこまりました。奥様のお世話はおまかせくださいませ」
スカートを持ち上げ足を引き、頭を綺麗に下げる
……これだよ…………公爵家には、これが足りなかった
敬礼するメイドに慣れているから違和感あるけどな
新しい家臣、エリートメイドのスゥが加わった
脳筋部隊の黒騎士とメイド部隊
偵察・諜報の元冒険者部隊
奴隷扱いから解放した獣人部隊
内政を一手に引き受けるカタリナ率いる文官達
…………完璧じゃないか、我が軍は
カタリナが文官を鍛えてるから、これからは仕事が楽になる
スゥが指導する優雅なメイド達に癒される
勝ったな
とうとう、勝ちが見えてきた
異世界にきてかなり時間が過ぎた
でも、俺は安息の地を手に入れつつあるんだ!
達成感を噛み締めながら紅茶を飲む
辺境伯が用意した部屋でソファーに座りながら、ゆっくり紅茶の味と香りを楽しむ
窓の外には、俺を祝福するような満月が光っていた
「もう、何も怖くないな……ふふ、ふははははは!」
満月を見上げながら高笑いをする
武力・権力・安らげる場所を手に入れた!
盛り上がってきた俺は、更にテンションを上げる
「ゼスト様?トトちゃんが起きたら困ります。お静かになさってくださいませ」
「あ、ごめんなさい」
…………嫁には逆らえません
「トトちゃんが寝てますから……ね?」
「……いいのかい?ベアト」
やったね!怖い嫁とか思った自分を殴りたいよ
優しく微笑むベアトにキスをする
そっとソファーに座らせて、薄い肌着を脱がして……
「ゼスト公爵閣下、なりません。奥様は初産です。万全を期してご自重くださいませ」
犬耳の『優秀な』メイドが、ドアの隙間から呟いた
…………スゥさん…………ちょっとだけも駄目ですか?
どうやら、オアズケのようです……




