103 ニーベル再び
「お久しぶりですな、お二方。精霊様もお元気そうで何よりです」
にこやかに挨拶するのは、魔族の長ニーベルだ
養父の屋敷で……応接室で俺達は再会を喜んでいた
「ニーベル殿もお元気そうで何よりです。彼等も変わりありませんか?」
「ええ、元気ですよ。特に彼女は記録の魔道具がお気に入りで、いろいろしているようですが」
…………腐女子か、あいつは何をやっているんだか
まりちゃんだっけか?フルネームはやめておこう
挨拶から始まり、当たり障りのない世間話が続く
お馴染みの貴族のお約束ってヤツだな
紅茶が少し冷めた頃に本題に入る
「ゼスト公爵、今日は伝えておきたい事がありましてね」
「ほう……前回少し話していた、役目についてですか?」
「ええ、そろそろ話しておこうと思いましてね」
チラリと俺達を見る
同席者はベアトとトトだけだ
両親は初めから同席していないし、メイド達はお茶の準備だけして出ていったからな
「我々の役目はこの世界の管理人です。ゼスト公爵、あなた達も協力して欲しいのですよ」
「管理人ですか……世間では断罪者だとか調停者とか、言われていますよね」
「ええ、それも間違いではありません。ですが、正確には管理人ですよ。この世界が過ちをおかさない為のね」
「それに私も協力しろと?」
ニコリとしたニーベルは続ける
「あなた達です。我々も調べましたが、あなた達ならば問題ありません。そして資格もありますからね」
「……資格ですか?」
「ええ、精霊様の主というだけで資格がありますよ。それに異世界人の光属性使いであるゼスト公爵は、文句なしですよ」
「なるほど……」
ベアトを見ると難しい顔をしていた
だろうな、俺も似たような顔してるだろう
突然、管理人だの協力しろだの言われてもなぁ……正直、なんだそりゃって感じだよ
「お話はわかりましたわ。管理人とやらの内容と、協力して欲しい内容を聞いてからお答えしたいですわね。ゼスト様もそれでよろしいですか?」
「うん、内容次第だね。出来る事には限りがあるからな」
ベアトのナイスアシストだな
話の流れが俺だけに集中してたから、うまく釘をさした感じになった
ベアトに尻に敷かれている
そう思われていた方が、俺がやりやすい
「ベアトリーチェ公爵を無視した訳ではありませんでした。失礼しました。そうですね……管理人の仕事は単純です。科学文明が発達しないように管理する事。そして協力して欲しい事は、異世界の科学を広めないようにしていただく事です」
予想外の内容に言葉が出ない
科学を発達させないで、教えるなだと?
……ブラジャー教えたけどセーフかな……
「ブラジャーは大丈夫ですよ。あれが科学的な繊維を使って……と、なると別ですが」
ニッコリしたニーベルが余計に怖く感じた
「今までゼスト公爵を見てきましたが、科学技術を教えるような事はありませんでした。ですから安心したのです。冷蔵庫も魔道具ですからね、あれならば問題ありませんが……」
「科学的な仕組みで冷蔵庫を作るのは?」
「勿論、管理の対象ですね」
思わず聞いた俺に、ニーベルは笑顔を変えずに答えた
科学に弱くて助かったよ……俺、馬鹿で良かったわ……
魔族と戦争とか面倒過ぎる
「科学技術ね……何故と聞いても?」
「それは……この世界を守る為です。まだ全てはお話出来ませんが、我々魔族・竜族・精霊様方は科学技術を認めない。これは覚えておいていただきたいのです」
……うん、対立したくない種族のオンパレードだな
ここは従う事にしよう
科学技術なんぞなくても、今まで困ってないからな
わざわざ敵対するのは避けたい
「わかりました、私も協力しましょう。あなた達と敵対してまで科学技術を広める利点は、私にはありませんからね」
「私も同意いたしますわ。カガク?とやらに興味ありませんし」
(カガクって誰ですか?お父さん)
そもそも科学を理解していない二人は、キョトンとしながら了承した
訳の解らない事を言ってるな……でも、魔族と敵対したくない
そんな程度の認識だろうな
だが、俺には大事件だよ
科学文明が駄目なのか……まあ、魔法があるから必要ないといえばそうだけど
その後は特に波乱もなく、世間話をしてニーベルは帰っていった
科学が否定……いや、監視される世界か
少し調べる必要があるかもしれないな
自分の部屋で紅茶を飲みながら窓の外を眺める
この世界の秘密か……知らない方がいいのか悪いのか……
いつまでも答えは出なかった
「ゼスト様?まだ、お休みになりませんの?」
「ベアトか……もう寝るよ。一緒に寝ようか」
迎えにきたベアトとベッドに入る
ピタッとくっつくベアトを撫でながら思った
どうなったとしても、ベアトだけは守る
たとえ魔族を……竜族や精霊達が敵になろうとも、必ず守る
そう決意して、ベアトを抱きしめて眠りに落ちかけたとき……
「ゼスト様、一大事でございます!お助けくださいませ!」
ドンドンとドアが叩かれて、涙声のメイドが叫ぶ
「何事だ!」
飛び起きた俺がドアを開けると、真っ青な顔色のメイドが告げた
「ご当主様が……奥様のお部屋で腰をやってしまいまして……明日は騎士団の訓練が……」
…………かっこよく決めようと思ったのに、下ネタで終わった瞬間であった
養父上、限度があるでしょうが…………