101 公爵家の流儀
「アルバートの馬鹿はどこだ!」
「応接間ですニャ、閣下!」
「ウフフ、いってらっしゃいませ。あなた」
カタリナに高級ブラウスを買うと約束し、ベアトの頭を全力で撫でて誤魔化してから廊下に飛び出した
トトは肩に乗っている……お目付け役だそうだ
ポンコツシスターにイタズラなんてしないぞ俺は……
「アルバート、貴様なにを…………」
応接間に踏み込むと、なかなかカオス光景だった
「シスター、私が責任をとります。結婚して面倒をみさせてください!」
「神が……神が休暇をとるなんて……まだまだ未熟でした。こうなれば、水で火をおこしてみせます!そして雨は濁流になり、海へと帰るのです。神のご加護は、受け取らなければならないのです!待つのではありません!」
…………さっぱり、わかりません
まてまて、状況を整理しよう
服をはだけて胸を隠したシスターがソファーに座り、床に膝を突いたアルバートが求婚している
…………やっぱり、わかりません
「アルバート……説明してくれ……」
メイドに服を用意させて、とりあえずシスターには着替えてもらう
さすがに半裸の女性をそのままには出来ないし、ベアトに見られたら余計な問題が発生するよ
「はい、閣下……シスターが面会にきたのです。閣下にお手紙をと」
「うん、そこまではわかるな」
「ところが、シスターがしきりに胸を気にしておりましたので、私は詰問しました。その胸はなんだ?と」
「……それで?」
「シスターは意味の解らない事を呟くばかり……神の名を語り、誤魔化すとはそれでもシスターか!と……」
「そうしたら、どうなった?」
「突然服を脱ぎ出して、誤魔化してなどいない……確かめればいいと……」
「…………はぁーー…………」
ガックリと身体から何かが抜け落ちる
面倒な事になってるなぁ…………
恐らく……ポンコツシスターが胸に何かをしまっていたか、仕込んでいたのだろう
それをシスター語で説明しているのをアルバートが誤解して、そう言ったのだ
シスターも『神を語る』これが不味かったのだろう
神馬鹿のシスターだから身の潔白をと脱いで見せた…………そんなところか
「それで裸にしてしまったから、責任を感じて……か?アルバートが不審に思ったのは仕方ないだろう。だが、相手はあのシスターだ……もう少し、やり方が有っただろう」
「返す言葉もございません」
「お前が厳格なのは美徳だが、相手と手段は選べ。貴族なら人を使う事も覚えろよ?」
「……はい」
「なぜ、メイド部隊を使わなかった?」
「……軽はずみな行動でした、申し訳ありません」
床に頭を擦り付けるアルバート
……やれやれ、しょうがない奴だな
「後は任せろ。お前はベアトに顛末を報告して、ここに来るように伝えてこい」
「ですがっ」
「いいから、行け。この程度なら何とかしてやる。義理立てるなら、戦場で俺に返せ」
「…………御意!」
部屋から出ていくアルバートを見送り紅茶を飲む
…………どうしよう…………解決策が見当たらない…………
キリキリと痛む胃を紅茶で誤魔化しながら、シスターが帰ってくるのを待つのだった
「ゼスト様、話は聞きましたわ。どうなさいますか?」
「アルバートをそんなに責められないからな……うまく妥協案を出せれば……」
心配そうなベアトがやってきた
確かに、不審物を疑うアルバートの行動は間違いではない
間違いではないのだが、正解でもないのが問題なんだよな
だけどアルバートはかわいい腹臣だからな……助けてやりたいし
シスターは次期教皇だから、もめたら面倒だし……
悩んでいるとシスターが着替えて入ってきた
ベアトの服を着ているようだ……胸はスカスカだけど見たら駄目だな
「閣下、ご配慮ありがとうございます」
「こちらこそ、申し訳ありません。シスター……神のご慈悲にすがりたい私は、傲慢でしょうか?」
ソファーに座り、姿勢を正したシスターは告げる
「神のご慈悲にすがるのは、悪ではありません。木が大地を必要とするように、水は海を目指します。ましてや、隣人を心配して他人の為に恵みを望む行為は、神のご意志にかなうでしょう」
(お父さん、このポンコツは言葉が不自由なんですか?)
ニッコリと微笑むポンコツシスター
…………なるほど、何だかよく解らないが、いけそうだな
「今回のアルバートの件は、私の身を案じるからこその行為でした。つまり、シスターが言う『他人の為に恵みを望む行為』です。神は許されると?」
「ふふふ、神は許されますよ。私は未熟で完璧ではありません。完璧ではない私が、他人に完璧を求めるのは道理が違いますから」
(!?お父さん、ポンコツが何を言っているのか解りました!)
…………初めてシスターとして尊敬した
シスター、あんた素晴らしい人だな!言葉はポンコツだが
それにトト、少し静かにしようか?お父さん、笑いそうだから
「シスターのご慈悲に……神の教えに心からの感謝と尊敬を捧げましょう」
「シスター、私からも感謝と尊敬を……」
頭を下げた俺達に、シスターは優しい微笑で応えた
「いえ、私も神の名を出されて我慢出来ませんでした……未熟な私をお許しください」
未熟な胸の前で祈りのポーズをするシスター
つい、チラ見したらベアトにつねられた
…………女性って視線が解るんだな
(お父さん、お胸が好きなんですか?スカスカが好きなんですか?)
やめなさい、ベアトが凄い顔で見てるからやめなさい
結局、オーダーメイドでブラジャーと神官服をプレゼントする事にはなったが安いもんだ
アルバートと結婚とか、内乱疑われて戦争が始まるよ……
ホクホク顔で帰るシスターを見送る
量産品じゃなくて精霊のブラだからな……ドワーフは苦労しそうだが、仕方ない
頑張ってもらうしかない
自分の部屋で休憩しようと帰ってくると、アルバートが正座して廊下で待っていた
「馬鹿者!いつまでそうしているんだお前は、過ぎた事はいい。次はするな。それで終わりだ」
「そうですよ、終わった事は終わった事です。次に活かしなさい」
「お二人のお言葉、決して忘れません!」
うん、良い話だな……我ながら良い主だな
涙を流して頭を下げたアルバートに、優しい笑顔のベアトが声をかける
「アルバート、あと二回ですわよ?」
(あと二回、楽しみです!)
…………あと二回?
キョトンとした俺とアルバートは、確かに聞いた
「我が家は、三回まで失敗は許しますわ。ですから、あと二回ですわよ?」
「「四回目は……どうなるんですか?」」
思わずハモる俺とアルバートに、辺境伯笑いのベアトが教えてくれた
「四回目は、遥か高い高~いところにお散歩ですわ。辺境伯家はそうでしたから……お嫌ですか?ゼスト様」
(うわぁ、楽しそうですね!お母さん!)
それ、駄目なやつだ……断ってと、目で訴えるアルバート
「実に素晴らしい案だな、我が公爵家もそうしよう」
「……おっしゃっる…………通りです、閣下……」
震える足で、そう言ったおれば悪くない……俺には逆らえないよ
アルバートすまん……頑張ってくれ…………
さっきとは違う意味で、アルバートはいつまでも泣いていた