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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第一章 帝国黎明期
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9 初めての出会い

白くてふわふわした世界で気持ち良い浮遊感に身を任せて揺れる


「ああ、このままずっとこうしていたい……」


心底そう思う

異世界だの魔法だの忘れてこうしていたい……このままずっと……


だがそんな事はなく、ゆっくりと意識が浮上していく

草の匂いがするな……そうだ、魔法の練習してたら気を失ったんだ!


ゆっくりと目を開けると気の強そうな黒目・黒髪の美少女が汚いモノを見るように目を細め俺を覗き込んでいた


年齢は10代だろうか?若くてスタイルの良い美少女だ……白い肌に艶やかな黒髪が靡く

腰の辺りまで有りそうな長いその髪をかきあげるその仕草にもイチイチ高圧的なオーラに溢れている

綺麗なドレスを着ているのを見ると、恐らくは貴族のご令嬢

しかも性格は良くないね


素直に微笑まれたら一発で惚れること間違い無い美少女だが、その顔と態度には高圧的な、そして威圧感がまとわりついている


「ほう、起きるなり娘を口説くとは、あなたはなかなか剛胆な方なんですねぇ。しかも親である私の前で」


……師匠、何とおっしゃいましたか?あなたは


慌てて起き上がると何かが落ちてきた

ん?濡れたハンカチか?女物だろうなぁ、これは


ああ、気絶した俺をお嬢様が心配して濡れたハンカチを乗せてくれたのか……


……倒れてる俺、それを心配して濡れハンカチを乗せるお嬢様

そして俺が一言『ああ、このままずっとこうしていたい』

うん、これは口説いてますわ


「い、いえ師匠、お嬢様、失礼いたしました!」


「ふふ、将来的には妻になるのだ。謝る必要などありませんよ?」


「……そうですわね。お父様のおっしゃるとおりですわ」


……じゃあ、そんな嫌そうな顔しないでください

師匠は勿論、お嬢様も完全に汚物を見る目である


「そうだ、魔法の練習も一段落したことだし、娘も紹介したいし……三人でお茶でもしよう」


「……はい。お父様」


「は、はい師匠」


断れないよな……

不機嫌そうな二人にスゴスゴと付いていく


屋敷の中に入り応接間?だろうか、入っていく


俺達が座るとメイドさん達が流れるように準備をしていく

まさに職人芸だ、鮮やかなもんだ


ふと、正面に座っている二人を見るが露骨に嫌そうな顔だ

やはり俺が結婚相手として気に入らないのだろう……


特にお嬢様はまだ若い

政略結婚とはいえ他にも相手は選り取りみどりだろな、普通にしていれば美少女だしな……


ガチャン!


一人の若いメイドさんがカップを落としたらしい


「もっ、申し訳ありません!」


真っ青になって謝るメイドさんに、お嬢様はゴミを見るような目で


「あら、構いませんわ。たかだか金貨5枚程度のカップですもの」

「そうだね。確か去年のベアトの誕生日に買ったカップだったかな?別に構わないねぇ」


……可哀想に、メイドさんはガタガタ震え、涙を流しながら『申し訳ありません』を繰り返している


「……あなた。そんなに震えて仕事が出来ますの?少し休暇が必要かしらねぇ?」

「ふむ……確かに暫くのんびりと療養するのも良いかもしれないねぇ。これから寒くなる時期だし、そうだ南の別荘にでも家族で行ってくると良い。向こうの管理人にはよく言って置こう。ふふっ」


ひいっ!?

か、カップ壊したら家族で始末されるの!?こ、恐すぎる!


悪魔のような微笑みの二人にそう言われたメイドさんはもう顔色が白い

小さな声で『家族だけは……家族だけは……』と繰り返す


いや、貴族が強い世界なんだろうし逆らえないのはまあ解るがいくらなんでも性格悪すぎる

こんな奴等が親と結婚相手とは泣けてくる……


やはり結婚相手は優しい人が良い、たとえ美少女でも性格最悪な高慢女など長生き出来る気がしない……

はぁ、心が見える魔法でも有れば嫁選びに苦労しないのに……


……心が見える魔法?……使えるか?俺に?


魔力を込めて祈る『相手の心が見たい。思いを知りたい』と……







そうして聞こえてきたのは、ベアトと呼ばれた性悪美少女の心の声だった……


『あの子、大丈夫かしら?顔色も悪いしゆっくり休んで良いのに……あんな安物カップなんてどうでも良いわ。怪我しなくて良かった』









神様、ありがとう

俺、長生き出来るかも知れません!


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― 新着の感想 ―
[一言] 腹の読み合いが面白かったのに、唐突な読心チート魔法のご都合主義は流石に萎えるわ... こういうのって普通疑心暗鬼になりながらも少しずつ人となりを知っていく物だと思うんですけど... あれだ…
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