勧誘
遅くなりました
ーーーいい、会話のように、一見無秩序に見えるものにも、パターンていうものが存在するのよ。
あらかじめ、語られた内容を思い出しながら、アリスは後方で事の成り行きを見守っていた。
当のエリスは、周囲の状況をうかがっている少女を見つけ、そちらへと向かう。
「パーティーメンバーをお探しではないですよね?」
「確かにそうですが、どうしてそれを!」
自分の胸の内を語られ驚く少女を見てアリスは、げっそりとしていた。
ーーーアリスさん。話のコツはね、相手に話してもらうことなの! 人というのは自分のことを話したがるから、気持ちよく話せるなら自然と口を開いてくれるわね。だから、相手が関心を持つ事柄を選んで質問するのよ!
ここまでだったら、素直に感心もできた。 ーーーどうやって、相手が関心を持つ事柄を見つけるのだ。宇宙の英知を知る我には万物「あてずっぽうよ」
種明かしをせがんだら、告白内容のすさまじさから固まってしまう。
ーーー疑問形でぼかしながら言うこと。そうすれば、外れていてもごまかせるし、当たっていれば好感を得られる。下手な鉄砲かずうちゃ当たるの理論だね。
ーーー詐欺じゃん!
その突込みをエリスは笑って流したが、聞かされた方はたまったものではない。
「私も、ダンジョンに挑もうとパーティーを探していますから、あなたもお探しではなくて。それなら、私たちの私たちのパーティーに加わりませんか、攻略する人は皆パーティーを組んでいますから」
ーーー皆さんとか、普通はとかは使いやすいツールだね。同調効果って言われているそうだけど、第三者も実行していると信頼性が増すんだ。
続く言葉が脳内でリピートされ、アリスの内面は罪悪感でいっぱいだ。知ってしまったゆえの罪悪感が。
「そういう次第ですか、もしよろしければ、ともに困難に挑みましょう!」
「それと自己紹介がまだだったわね、私はエリスよ」
「ヒルデです」
お互いに笑顔で握手を交わしている、エリスのきれいな笑顔を、アリスは一生忘れないだろう。詐欺師の見本として。
「それと、実はもう一人見方がいるんだけど、女の子なのよ。頼りないと思うかもしれないけれど、逆に言うなら、気楽でいいでしょ。
事前説明に秘められたものをアリスは察知した! ーーーいい、メリットだけではなく、デメリットを提示する。それが信頼を得る上で重要なの。反論されにくいし、疑問を呼び起こさないからね。
ここにだけはアリスも納得できた。ーーーデメリットを語るというのは不利になる場合もあるしね。狙いすました行動よりは幾分ましです。
それでも、断ってほしいという思いは変わらないのだが。
「仲間と合流したいのだけど、いいかしら」
「構いません」
二人はアリスのいる位置へ足を進める。
この段階でも、エリスの胸の中は不安でいっぱいだ。
あの演説の後である。最悪、離れて行ってしまうかもしれない。
だがその心配は無用に終わる。
「目に怪我をしているのでしょうか。稚拙とはいえ、応急処置程度ならできますが、どういたしましょう」
「クックック、この目は我が力を封じているのだ。強大すぎる我が力は世界を滅ぼしかねん故にな」
「はぁ、そうですか」
うんうんとうなずいているが、一体何がわかったというのか。
エリスは、真摯な態度に不安を抱いた。
「これはね、病気なのよ。中二病というね、いろんな意味で痛い病気なのよ。
黒歴史っている後遺症を残すけど、感染の心配はないからね」
「ちゃうし、本当なんです。私の眼には封じられし力が」
「成程。頭がもうろうとしているせいで、現実と空想の区別がついていないのでしょう。神よ。どうかこの哀れな子羊に慈悲を」
慈愛を込めた表情で、ヒルデは神に祈りをささげる。
しばらく静観していたのだが、祈りが進むにつれ光が差し込んでくる。
「え~っと、あれは何だエリスよ」
「あら、なんでも知っているのではなかったかしら」
「うっさい、揚げ足取りなんかしないでよ」
ただの光なら無視もできた。だが、直接浴びてもいないのに肌がひりひりとする。
先に事態を察したのはアリスだった。
「あなたの種族って何ですか」
「それってステータスに乗っているのかしら。それとあなたのは」
「……、淫魔」
蚊の鳴くような声だったが、吸血鬼の聴力はしかととらえた。
「成程、だからピンクなのね」
「ちゃうし、あなたはピンクは淫乱という噂のシンパですか。
そんな妄想取っ払ってよ。
私、だれかれ問わずにまたを開くあばずれじゃないからね!!」
「それよりも、この状況はいったい何なのかしら」
何気なくつぶやいた言葉に対するアリスの猛烈な抗議に、エリスは一歩引いてしまう。
「あの波動からは聖なる力を感じるのだ。故に、闇の眷属である我らの身を焼く業火となる」
「そのゲーム知識って、本当にあてになるのかしら」
「ならばこの状況を、いかに説明する」
中二設定丸出しの説明だが、確かにと納得できるものもある。
ーーーなら、止めよう。
短い時間ではあるが、会話を交わしたエリスは、ヒルデに礼儀正しいという印象を受けていた。
だから、説得可能と決め込んだ。
「ヒルデさん! ヒルデさん!! 祈るのをやめてくれないかしら!!」
「あらうれしい、もう親しげに名前を呼んでくれるなんて、私はなんて素晴らしい仲間を持ったのでしょう」
「「この女話を聞いていない」」
だが、光に焼かれることを恐れて距離をとっていたこともあり、聞こえていなかったのかなと考えたエリスは少し近づき大声で再び呼びかける。
「ヒルデさん! 祈るのをやめて!! だって、私たちにダメージが来るからぁ~~!!」
最後のほうは絶叫にすらなっていた懇願をヒルデは聞いていなかった。
ただ、真摯に新たな仲間との出会いを、神に感謝する。
もっとも、その仲間に尋常ならざる被害をもたらしているのは意識の外。
そして、光は臨界点を達した。
危険物から早々に逃げ出したアリスが、この場では最も賢いのかもしれない。
エリスは地面にダウンしているのだから。
痛みによって、乱れた思考の中、エリスは察した。
ーーーこいつも、変な人だ。
だが、アリスがこの余りの猪突猛進ぶりを見て、罪悪感を捨てられたのは、本人以外あずかり知れぬことではあるが,チームにとって大きなプラスとなった。