王者の片鱗
今回のは自分では自信が持てます。
「反省会をしましょう。何が悪かったのかわかるかしら」
「そんなの、私がバカだったってだけよ。みんな私に冷たくするし、ハッハッハッ、もうダメね」
「皆の前で演説を行うっていうのは、ありかなしか言うなら、ありだったと思うわ」
内容とは別に、行為自体はエリスも認めていた。
「一人一人に声をかけるよりも、全員に声をかけるというのは、効率的だね」
「ならどうして失敗したのよ」
「そうね、細かいところを置いといて。大まかな理由は三つ。
第一に、私の責任。あなたが演説したときに、真っ先に賛同するべきだった」
演説の酷さから投げ出してしまったが。
その為フォローは無理だと見切りをつけ、逃げ出そうとした。
故に、見捨てようとした罪悪感をエリスは感じていた。
「でも、だれ一人として賛同してくれなかったんだよ。エリスが加わってくれても、大して変わらないんじゃないのかな?」
「そうだね。少なくともあと一人必要でした。事前に口説き落とすなり演説で引っ張り込むなりしてね」
「あと一人? 三人ということに、何か意味ってあるんですか?」
三人であれば事態が変わっていたという告白に対して、アリスは懐疑的だ。
納得できないと、首をかしげている。
「簡単なテクニックよ。アリスさん、集団て何人から集団といえるか知っていて」
「え~とっ……、五人くらい?」
「残念、正解は三人よ!」
マジでと、新鮮な驚きに満ち溢れたリアクションは、話し手であるエリスは満足そうだ。
「例えば、友達との会話。
まず、自分の友達が二人きりで話し込んでいるのを想像してみて。
重要なことを話しているんじゃないかと思って何となく入りづらくないかしら。
じゃあ、三人の場面を想像して。
今度は、垣根何て物が無くなって、入りやすくないかしら」
「確かに、そうなのかも」
言われてみればそうだったという程度のことだが、指摘されれば思い当たる節がいくつもある。
「だから、参加人数三人を集められたら、よそからも人がくるってことだね。
だから、勧誘時に助け舟を出さなかった私にも非はあった。
もう一人メンバーがいれば、確実だったわね。
作戦もおかしなことでもなかったし、気に病むほどのことでもないわよ」
「本当!」
エリスが、アリスを再び泣かせないように、慎重に言葉を選んだおかげで、アリスの顔はようやく明るさを取り戻していた。
「第二の理由。こちのほうが私の責任としては大きいわね。
最初にどうするか決めていなかった」
だからだろうか、間髪入れず否定の声が上がった。
「それは違うぞ、我が友よ。
我らには、上も下もない。
ならばこそ、指針を定めなかったことは双方の非であるに違いない」
この発言には、アリスの吟味が込められていた。故に、エリスはぽかんとした顔をさらす。
これまでエリスは、子供をあやすような感覚だった。
すべてを自分の非にしたのには、アリスに期待をしていなかったというのも理由だったのだ。
そんな彼女が主体性を見せた。
驚くのも無理はない。
「そうね、そうなんでしょう。
私たちの目的は、シルバーランクを獲得するでいいかしら。最低限度の生活は保障されるし」
「クックック。我にも異存はない。悠久の闇を生きる我にも供物が必要であるからな」
といっても、この奇怪な言動は、いかんともしがたい。
「なら、最初にどうやってポイントを稼ぐのかを考えないといけなかったのよ。
認識を共有していなかっただけかもだけど。
私は、ダンジョンを攻略しようと考えていた。アリスさんはどうかしら?」
「ほかには何があるのだ。この宇宙において、唯一古の邪神の英知を継ぐ我に一切の死角は存在せぬが一応聞いてやろう」
「そうね、定期的にポイントを稼ぐ方法は三つ、そのうち一つは今関係ないとして。
クエストを達成しつつダンジョンを攻略するか、モンスターを討伐してポイントを稼ぐかの二つ。
他にもあるかもしれないけど、思いつくのはこれだけだね」
「その二つは何が違うのだ。迷宮を攻略するうえでは、モンスターを倒す必要があり、その逆もしかりではないか」
「参加メンバーに求める熱意が変化するわ。特に今回わね。
アリスさん、ダンジョン内がどうなっているのかわかるかしら。
私そこの説明を受けていないけど、あなたなら知っているかもしれないから聞いておくわね」
「我は古の邪神の「アリスさん!」……はい、私に伝えられたのは、死んだこととこれから転生すること、特殊能力を与えられることと、転生後十日たったらダンジョンに転移することだけです」
「ふぅ~ん、やっぱり皆そんなものなのかしら」
自然な態度、口調、雰囲気。
だが、エリスの内心は歓喜があふれていた。
知りたかった話をようやく聞けたのだから。
「皆ダンジョンの内部について知らないのよ。
モンスターの討伐なら、浅い階層で逃げ道を用意しながらでもポイントを入手できるわ。
けど、ダンジョンを攻略するなら、それができない。
だって、そうでしょ、深場に行けば行くほど、逃げ道は限られるし、敵との遭遇も多くなる、しかも、未知の空間よ」
「成程、それならばメンバーの選定作業が必要となるな」
「ええ、熱意がある人でないと、途中で投げ出すし、その場合大人数で挑む意味がなくなるわね。
それに、大人数を厳選するなんて作業,必ず遺恨を残すわ」
「それで、三つめは何なのだ」
先ほどまで饒舌にまくし立てていた、エリスがいったん黙る。言葉を選ぶ必要がった。
「やっぱり演説の内容自体がまずかったわね。
といっても、みんなの前で自分の意見を発するなんてなかなかできることじゃないから、普通よりも上といえるね。
けど、欲を言うのなら、もう少しちゃんとした演説を……これに関しては、ここでいくら話そうとも机上の空論だね。
勧誘に行ってくるからよく見ていてね」