side エリス 服騒動
今回後半から、かなり実験的な試みをしてみました。
「残念ながらてめぇはだめだ」
服や食料をもらうための順番待ち
現在の私の服装は、裸体の上に黒いマントを羽織っただけという非常に危なっかしいものだ。
ある意味では裸よりも数段やばいわね。
服が何か所か破けている子でも、新しい服をもらえたのだから、私でももらえるはずだと思っていた。
だが、服をねだる細則をしたらまさかの否定。
「一体どうしてよ。私の服装どう見ても満足いくものじゃないでしょ。新しいものを配布するのはいいんじゃないかしら」
きっと、後になってこの光景を第三者が見たのなら、私に対してドン引きしていただろう。
豚に対して必死にこびへつらうその姿。
人類としての尊厳とは程遠い。
「安心しな。てめえが来ている服は上物だ。繊維の質だけではなく、魔法処理も施されている。わかったなら胸を張れ」
「裸マントで胸を張れる馬鹿が一体どこにいるのかしら。あなたもそう思うで……」
この時の私はおごっていたのだ。まったく自信を持てない事柄ではあったが,自分こそは一番だと何の根拠もありはしない自信というか信頼というか、そんなものを胸に抱いていた。
だが、ナンバーワンは別にいた。可哀想な境遇ナンバーワンは別にいたのだ。
話しかけた先にいた少女は、目に怪我でもしたのだろう、眼帯で片目を隠していた。
それだけで、この少女のつらく苦渋に満ちた旅路が、薄明の下にさらされていた。
服装だけは豪奢なもので、経済的なゆとりはあるのだろう。
変態にでも囲まれているのかしら。
「服だ、着な」
何かを悟ったのか、ナポレオンはそっと、質のいい服を手渡した。
「クックック,我が名はアリス……」
視線を向けられた彼女は、突然の事態ゆえか、恥じらいが見て取れた。
「ナポレオン師匠。いったいどうすれば、いいのかしら」
あまりの事態に、どうすればいいのかわからず、こそこそと話しかけるしかなかった。
「こいつは重傷だ,不治の病かもしれんな、名は中二病だ」
「ちゃうし……、私は病気じゃないよ,健康体だよ」
「師匠。否定していますが、どうなのかしら」
「自覚症状なしか,こいつは末期だ。早く着替えろよ」
「対症療法しないとだね。少しずつでいいから、直していくべきだわ」
「ちゃうわ。これはおしゃれなんです。ファッションなんで、……我が強大な魔力を封じる枷なのだ」
最後の最後で、自信に課した設定を思い出したのかしら、くるくると回りながら自分を見せていく。
黒を基調とした丈の短いスカートは、風と共に舞い上がり、ふわりと花のように広がっていく。
彼女が生来持つであろう、桃色の髪が広がり,本当に薄紅色のバラの花のようだ。
「深淵の力を身に宿す我は、その強大すぎる力を持て余し、左目を封じることによって……」
「そういった設定はいいから,早く服来たらどう。眼帯取るだけでもだいぶ違うわよ」
「うっさい、裸マント。あなたよりはましです」
こいつ、今、言ってはならないことを言いやがった。
気が付いたら、言葉より先に、手が出てしまった。
自制心が働いたのか、殴りかかることはなく、つかみかかっただけだった。
冷静に考えるならば、状況は最悪ではない。まだ修正が効くはずだ。
つかみかかったのはいいが、これからどうすればいいのか分からずに、オロオロしたのが功を奏した。
「私はね、着たくてこんな格好しているわけじゃないのよ。気が付いたらこうなっていただけ」
何とか穏便に済まそう。そのためにも、暴力系はダメ。なので、耳元でどすが効いた声によって、真実を話すにとどまった。
「いつの間にかって、それ、本物の痴女、変態、または露出狂の、証明ですよ」
攻守が逆転していた。
私が攻めていたはずなのに、私が攻められる側に。
この会話の流れを作り出したのは自分だ。
あんな風に詰め寄ったら、だれだって気を悪くするわよね。
だからこそ、目の前の少女に矛先を向けるわけにはいかない、向けるとしたら―――
「そうでしょ。だから、ナポレオン師匠。服を頂けなくて」
「生憎だが、渡せねぇ。規則なんでな」
「え~っと、いくらなんでも、さすがにそれは」
憐れみを向けていた存在からの同情の視線。私の中の何かがはじけた。
満面の笑顔を浮かべて一言。
「服をよこせぇ!」 気が付いたら、後先なんて考えずに飛びかかっていた。
そして当然、リンゴが地面に落ちるかのように、私は吹き飛ばされた。
「うわぁ~、あの格好で飛びかかるとか、本物の変態は一味違うね」
この時さらした哀れのない姿は、アリスがナポレオンによって恵まれた服を、横流しすることで防がれた。
私は確信した。見た目はどうあれ、この子はいい子だと。
ただいま、旧章消そうかどうか検討中。
誰かから指摘があるまで消しませんけど。