空白の時
遅くなったのはアリスの中二設定を考えていたから。
これまで何となくだったけど、限界が来てしまって。
結果、クトゥルフ系中二少女アリスが誕生。
いつか、ドリームランドに行ければいいね。
それはいつも通り過ぎ去っていく昼下がりの出来事。
「ふむ、逃走のコツについて聞きたいとね。
貴殿、なかなかお目が高いではないか。
千の貌を持つ神の星読みたる我に問いを投げかけるとは」
会話に無駄な装飾が多いが、話しかける前から分かっていたことだ。
それに、彼女自身、キャラ設定にめんどくささを感じているのではと時折思う。
何せ、話が進んでいくと設定を放り捨てるのだから。
「星の知恵を授かりし我は、現在、過去、未来。それら全てを見通すことが可能だ。
故に、英知を下々に下賜するのも我の役目。
そうさな、逃亡にも、純粋な逃走と偽装撤退、二つの方法がある」
ならば、偽装撤退について聞きたい。
「そうか、そうか。では聞かせてやる。
カギとなるのは状態異常ね。
よくゲームなどで見られる、睡眠や混乱、毒などの症状よ」
もう、中二が崩れたか。
「トラップ型の魔法は誘導に便利なのよ。
伏兵もありだけど、ダンジョンだと人が隠れる場所ないしね。
でも、邪魔にもなるから注意が必要なのよ。
対抗策なら、できる人は限られるけど、魔法に対する抵抗力。あとは、対抗呪文」
対抗呪文? 聞きなれない言葉に、思わず聞き返した。
「そうね、『弱虫』と呼ばれる光を遮る魔法がある。
でも、妨害以外の使い方もあるのよ」
日よけですか。
吸血鬼の姿が脳裏にすぎる。
「それもあるの。
けど、サングラス代わりにもなるのよ。強すぎる光の中では。
自分で強い光を起こすならなおさら便利ね」
そこで話は締めくくられた。
どうやら、休憩時間が終わり、ダンジョン攻略を再開するらしい。
☆
【何、これはッ!】
【よし、うまくいったぞ!】
真逆の思いを胸に抱き、二人は接近していく。
目を焼く光の中で。
姿勢は低く。
威力を落とさぬように、足を大きく縦に開きーーー
化け物の腕だけを切り付けた。
それんはたまらず大きくのけぞった。
ここで問題が一つ。
化け物が腕を回して支えていた騎士。
首に腕を回されていたのだから、彼もまた後ろ向きに倒れてしまう。
そして、化け物は、即座に反撃に出た。
詳細不明の状況下におい、まず攻撃を選択したことこそ、彼女の性格、思想、そして才能の照明といえる。
何かに触れた。
触覚を頼りにあたりを探る中で見つけたのだ。
腕に残る鈍い痛み、選択したのは蹴り。
【やったか!】 彼女は自身の優位を確信する。
足には確かな手ごたえ。
直後、硬質な音が響いた。
【後続を断ったか】 それを、敵の自滅として彼女は意気揚々と前へと進む。
だが、その余裕はすぐに崩れる。
まず感じたのは違和感。あるべきものがない。
【盾はどこに行った】 ここにきては何を蹴り上げたものか感づいた。
この油断を、シアノは攻め立てることができなかった。
蹴り飛ばされた騎士が、進行経路をふさいだのだ。
まだ生きている仲間を放置できるはずもなく、受け止める。
【【まずい! このままだとややれる!?】】
故に、先に動いたのは身一つの彼女
先に耳にした金属音から居場所にあたりをつける。
常人では、慎重を期すだろうが、彼女は前へと跳躍するために前傾姿勢をとった。
彼女の中では自身は絶体絶命の窮地に立たされているのだ。
事実、それは正解だった。
一つ違う場所があるとすれば、想定とは全く違った方向から斬撃が放たれたことだろう。
斬!!
退路を塞ぐべく待ち構えていた騎士が剣をふるう。
とらえたのは左腕一本。
右腕を盾のように構え、体をねじったこと。獲物を借るべく挑みかからんとしたこと。それら全てをほれぼれするほど滑らかに行ったことががこの結果を生んだ。
前のめりになった体を反転させる。
そして、痛みのもとへと飛び込み、盾とすべく構えていた右腕を中途なく放つ。