等活3
遅くなりました
ドンッ!! 重い質量がぶつかる音が響いた。
---助かった。
侵攻上に騎士が割り込んでいた。
構えている盾は陥没し、穴が開いている。
化け物のほうは弾き飛ばされた。体重差故になのだろう。
右腕には痛々しい損傷の跡が見え、地面に叩きつけられ数回バウンドする。
だからだろうかーーー
「「おおおおぉぉぉ~~!!」」
幾人かの騎士が剣を振り上げた。
彼らは剣を振り落とした。
僕はこの時ほど癖の恐ろしさを感じたことがない。
相手は地面にへたり込んだ幼い子供だ。
故に、剣が到達するのに間が生れる。
---わずかな時間をものにしたのは化け物。
繰り出された一撃。
今度は阻まれることなく、鎧を切り裂いていた。
威力が上がっている、恐らく何か手札を切ったのだろう。
それよりも問題は、---脇腹に腕が沈み込んだことだ。
当然剣は止まり、仲間も慎重にならざるを得ない。
ニヤリ!! 目の前の化け物が笑った気がした。
駆け巡るのは既知感。
この光景をどこかで見たことがある。
事態は差し迫っている。
状況を整理するよりも早く、次の瞬間にはーーー
不安をぬぐい去る銀線のきらめきが走った。
動きからして、またおとりを使用するつもりだったのだろう。
けれど、その動きは二番煎じだ。だからこそ、対応できたのだろう。
「総員。隊列を組みなおしてくれ。魔法でけりをつけるぞ」
心臓を狙ったであろう、短剣は大きく動かれた成果狙いがそれ、肩へと向かっていた。
だが、怪物は腕に意識を抜けた。
もう一方の腕で抑えようとするが、回復しきっておらず、止血すらままならない。
傷口から血が流れ出るまま……あれ? 前回は時が巻き戻るようだった。
その光景は回復というよりも修復だが、今回は再生能力に任せるまま。
ガス欠? 回復の方式が変わった? それとも、、発動条件があるのか? 様々な案が頭に浮かんでくる。
ガス欠による、回復能力の低下は先ほど指摘したが、それだと方法そのものが変化したことに説明ができない。
---このあたりが、化け物の能力の本質に迫る気がします。
だが、今現在はそれよりも優先すべきことが山のようにある。
どうして腕を痛めたのか、その答えは鎧でしょう。
固い金属に腕を差し込み全力でふるった。
その行為は、原理的に包丁とまな板に近い。
仮にトマトを切るとする。確かな支えがないまま切るなら、よく熟れたものでも、なかなか切れない。
けれど、下にまな板があると力が逃げずによく切れる。
今回は鎧が、包丁とまな板の役割を果たした。
だが、与えられたのは恩恵のみではない。腕の負傷によって力が入らなかったのか、騎士が化け物の近場に転がたままだ。
両腕を負傷しているが、首筋に歯を突き立て、顎の力だけで獲物を運び去っていく。
何人もの味方が、止めようとするが、失敗。
黙々と詠唱を続けていく。
まだ息はあるが、どうしてかを考えてくると、腹の底が煮えたぎってくる。
だが、今は考えるべき時ではない。
複数の詠唱が混在し、常人には耳障りでしかない音の羅列が形成された。
かくいう僕もまたその一人だ。
唱えているのは、捕獲用の物。
攻撃の余波でも、人は死ぬのだ。それを防ぐためにもと考えていたのだが、その思いは見事に外れることとなる。