等活2
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!」
ただ叫んだ。
恐怖による混乱ならば、勇気を示せばいい。
そう考えたから叫んだ。
もっともその稚拙さは否めないが。
「皆隊列を整えてくれ、敵は一人だ。囲み、波状攻撃を仕掛けろ!」
けれど、願いは届いた。
シアノ隊長の声だ。
騎士団きっての有望株の指揮は不安で揺らぐ皆に秩序を取り戻させた。
だが、この安堵もすぐに吹き飛んだ。
ゾクリッ! 突如感じた悪寒。
目が合った、化け物と。
大きな音に反応しただけなのだろう。
シアノ隊長のほうへすぐ視線を切り替えたのだから。
だが、注意を一転に向けたというのは、意外な成果を生み出した。
発生した無防備差を活用して、騎士たちが散開し包囲。
「構え」
隊長の号令とともに幾線もの刃が化物を襲う。
当然化け物も、迎撃しようとするのだが、リーチが違いすぎる。
白い肌に、赤い血が舞った。
獣的な直観に従い回避していくが、手の中の遺体があだとなった。
自分の体よりも大きいのだ。軽々しくほうり捨てることができようとも、動きや視界は制限され、結果隙が生まれてしまう。
だが、傷は浅い。
センス様に気を使ってしまったのだ。
だから、思い切りの良さが失われた。
---もしや、盾にしているのか? センス様を!
もしそうならば、許すことはできない、が疑問も残る。
そんな中ーーー
クチャクチャ と咀嚼音が聞こえた。
ゾット、体がこわばった
---ヒッ!!
その声ををあげたのはだれだったろう。
人が人を食らうのは、一説では究極の愛情表現らしい。
狂気としかず、理解が及ばないが。
ならば、オオカミはどうだ。
これならば、食事としか言いようがない。
なぜなら、種族自体が違うのだ。
嫌悪感などわくはずもない。
だが、今の行為は普通といえるかもしれない。
人でないものが人を食っているのですから。
人の姿をした別の生き物が執り行っているだけで。
歴戦の騎士をして吐き気を覚え、口に手を当てている者すらいる始末。
そんな事態にあるのに、僕はこの状況をどう打破できるのかと考えていた。
傷口からは血が流れ出ていない。
死によって止まったのだろう。
待て、傷がふさがっていない!
浅い傷が刻まれているだけなのに、先ほどより回復が遅い。
もう出血はないし、皮膚も再生の途上、人間では驚異的だが、化け物にとっては遅すぎる!ならばーーー
「傷を見てください、先ほどと比べ傷の治りが遅い。食事が回復の後押しになっているのでしょう。畳み掛けるなら今です!!」
我々が来るまで、洞窟の中で死体あさりをしていたのではないだろうか。
だから、回復力の差が表れた。
わざわざ、死体を手放さなかったのは、えさの確保。
偏執的だが、理性が沸騰している悪魔ならあり得る。
「今だ、今しかない!!」
絶対の確信は持てない。
だが、状況の打破にはこれしかない!
「なるほどな。面倒だな、本当に。痛みのおかげで目が覚めた。故に殺そう」
鈴のなるような声が、二人の人間に向けられた。
僕と、シアノ隊長だ。
化け物の注意をひいてしまったらしい。
話せることに驚愕するも、そんなものに異を介さずに、遺体をシアノ隊長のほうへと放り投げる。
死体とはいえ、知り合いだ。シアノ隊長は反応してしまう。
明らかな隙だがだが、目線はこちらに集中されている。
地面にかがみこみ、ネコ科の肉食獣を思わせるフォーム。
僕に見えたのはここまでだった。