夏だらだら日記
風鈴が微かに鳴いた。
網戸越しに見る外の景色はいつもと変わりなく、今日が少しづつ始まろうとしていた。
夏の陽は早く、空が白んできていた。
優しい風と蒸し暑い空気が今に始まる。
扇風機が回る頃、小学生の笑い声が聞こえた。
タオルケットに身を包み、畳の上でごろついていると、その声が耳障りで仕方ない。ついで蝉が騒ぐものだから、余計に頭に来る。
昨日朝方まで起きていたものだから、眠くて仕方ない。
今日は仕事が休みだから、朝から何を急ぐことも無いのだが自分のペースを乱されると腹が立ってしまう。
苛々しながら、扇風機をクーラーに変え、窓を閉めて涼しい空気を篭らせる。しかし逆に、寒くなりすぎてしまい足が冷える。
押し入れから薄い布団を出した。ちょうど好い加減になり、ウトウトしだした9時半頃。
選挙の声がマイクに乗って響いた。
「清き一票を宜しくお願いします」
その声で完全に目を覚ました。文句を言いたいのだがそんな勇気もなく、誰か一人文句を言えば続けて発するのにと思いつつ、演説を見続ける。
熱く語るオッサンと目が合い、何を勘違いされたのか手を振られてしまった。
何故か自分も振りかえしてしまい、
「ありがとうございます」とお礼まで言われてしまった。
恥ずかしさと空しさで部屋に戻る。眠りのピークを越えてしまったせいか、テンションがやけに高い。
けれどすることがなく、部屋の中をウロウロとさ迷った揚げ句、ゲームをすることにした。
何種類もあるソフトを並べて思った。
ロールプレイング系とホラー系の二種類しかない。
考えた結果、ロールプレイングのゲームをすることにした。
きっとホラー系の場合、怖くなるとゲームの電源を切ってしまうのが分かっていたから。
布団を頭から被り、テレビと向き合った。
他人が見たら不気味な引きこもりと思うだろう。
半目でテレビを見つめ、口がほげーっと開きっぱなしで喉がカラカラ。
そんなこんなで12時過ぎ。
12時になったからといって正確にお腹は空かない。口の中が淋しいだけで、冷蔵庫を漁る。
飲み物もお茶しかなく、お菓子も何も無い。
面倒臭いけれど生きるため、コンビニに走ることにした。
コンビニに走るにしても色々準備をしなければならない。
まずはシャワーを浴びる。顔を洗い、歯を磨き、頭を洗う。そしてぼーっとする。
前からこのぼーっとする時間が要らない気がしていた。そんなことを、ぼーっとする時間に考える。
そして服を着替えて、また少しぼーっとする。 それから家を出る。
家から歩いて2、3分で着く距離にあるコンビニ。
暑い。
家を出たばかりなのに、もう帰りたい。
暑すぎる。
そして暑い。
とにかく暑い。
蝉の鳴き声も気になる。
外に出るとなにもかもが気になる。
何故夏はこれほど暑いのか、蝉の寿命は後何日か、人の視線、ぼーっとする時間など。
それもコンビニに着いてしまえば気にならない。
涼しい。
エアコンが電気を消費して働いた結果が、コンビニ中に幸福をもたらしていた。
汗が冷えるのがわかる。
背中にかいた汗が渇いていくのがわかる。
いつの間にか1時半になっていた。
携帯にメールが届かなければ、もっと時間を消費していただろう。
早く家に帰らないと。
コンビニに来て、ついつい読んでしまった本。
いわゆる立ち読みに時間を裂いてしまった。
別に急ぐわけではないのだけど、さすがにお腹減ってきて苦しいです。
カゴを手に取り、飲み物を両手に持ち悩む姿は、オバサンが野菜を買うときに似ている。
コーヒー牛乳、レモンティー、キャラメルポップコーン、ポテトチップス、チョコレート、クリームパスタ、フライドチキン、杏仁豆腐、りんごヨーグルト。
「お願いします」
そして店を出る。
ビニール袋に詰め込まれたものを見て、自分がそれらを食べてるのを思い浮かべて、ついついニヤリ。
暑い。
暑いけどもう少し。
家に着くと、軽く眩暈がした。年だな…。
まだ二十代だけど…。
テーブルを開き、パスタを食べる。
自分の思っていた味と違う。
ほうれん草だけのパスタかと思いきや、生臭いサーモンが入ってた。
微妙だ。
レモンティーで流し込む。テレビを付けて、見ることもなく。本を開き、食べカスを本に挟む。
むしゃ、にちゃ、ねちゃ、くちゃ、ごきゅ、ごきゅゅ、3時のおやつの時間に残っているのは、ポテトチップスとコーヒー牛乳だけになった。
満腹感は充分にある。
けれども、勿体ないお金の使い方した気分。
腹いっぱいでごろ寝していると、だんだん瞼が重くなってきた。
失敗した。
暗い部屋、デジタル時計は正直者だった。
表示された時間に飛び上がる。
寝てしまった。
いや、寝過ぎてしまった。
只今の時刻、夜中の2時を過ぎたところ。
今日は仕事なのに。
そして僕は今日も白んでいく空を見上げていた。
ポテトチップスとコーヒー牛乳を頂きながら。