1章 ~月の都~
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月の帝と結婚してもう1か月ー。
今日の夜は一段と冷えみ、もう眠ろう、という時だった。
「め・・・姫」
誰かが、御簾越しに呼び掛ける。
「・・・はい。」
いや、誰か、というのは適切ではない。
誰かなど分かっている。
「何かご用でしょうか、帝・・・」
「なにか、とは酷いではないか。
結婚して早一か月。
そろそろ子作りをした方が、と思ってね」
感情のないと言われる月の民だが帝はニヤリという笑みが似合いそうな声色で言った。
「あの・・・私は・・・」
愛のない政略結婚ー。
子孫相続のためー。
私のすることは子をつくること。
そのためにはー
「帝、私は政治の駒として貴方と結婚しました。
でも、私は愛のなく抱かれるのは嫌です。」
私は、自分の想いをただ、純粋に素直に伝える。
それは、今私にできる唯一のことではないだろうか。
「姫、なにを言っているんだ。
政治の駒、それが君の役だ。
そして、それ以外に君の存在にどんな意味がある?
そう、何もない。
いいじゃないか、子作りをするだけでなんでも欲しいが物を手にできる。」
帝はそういって御簾をどかした。
やめてー。
近づかないでー。
私の欲しいものは貴方からはもらえない。
「姫、アイシテルヨ」
帯をほどく帝がそうつぶやいたとき。
そして、帝が私の胸に触れたとき、私の中で何かが弾けた。
「嫌っ!」
私の手は帝の頬に当たり、朱の跡がついた。
「な・・・!
人形は黙って抱かれていればいいんだ!」
ニンギョウ?
ワタシハニンギョウナノ?
「わたしは・・・私は人形なんかじゃないわ!」
帝にそう、言い返した時私は仕えのものに連れていかれた。
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