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守護精霊お一ついかが?  作者: 寿ヒカル
第一章 その出会いは新たな世界の入り口で
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第一章(1)

「ちょっとアンタ、起きなさいっ!」

 いつも思うが、朝というものは何故こんな憂鬱な気分にさせるものなんだろうか。

 ……休みの次の日は休み、という法律を誰か提案してくれないか?

 そんな妄想に近い事を考えながら時計を見ると、時刻は六時半。学校へ行くには少し早すぎる時間帯だったりする。

「ち、ちょっと聞いてる?」

 オレは布団の中で、ボーッと七時になるのを待つ事にする。

 ……………………………………………………。

 ……うん、やっぱり暇だ。

 待つのは暇すぎるので、オレはベッドから起き、昨日読みかけのラノベを本棚から取りだして、ベッドに座ってから読み始める。

 やはり毎回楽しみにしているラノベだ。今回も笑わせてくれる。

「ねえってばっ! ちょっとっ!」

 丁度第三章を読み終えた所で時計を見ると、時間は進んで七時過ぎとなっていた。

 ベッドから立ち上がり、ラノベに栞を挟んで本棚に直し、壁に掛けてある学校の制服を取ってからオレは服を脱ぐ。

 そして服を脱ぎ終わって、パンツ一丁になった時、ふと嫌な予感が頭によぎる。

「ま、まさか――」

「そうそう、そろそろ私の存在に気づいても――」

「やっぱりパンツに穴が開いてたか……」

「ちょっと! 何で私の事は無視するのよっ!」

 ……あえて無視をしてみたのだが、とうとうオレのセリフに介入されてしまった。

 これはもう相手をするしかあるまい。

「その声に辺りを見回すと、オレの後ろに金髪の少女が立っていた。顔立ちは綺麗なのに、胸は微乳のようだ」

「どういう意味よ、ソレッ!」

 少女はオレのモノローグ風の声に何か不満を感じたのか、顔面目掛けて回し蹴りを放ってくる。

 鋭い風切り音。それだけでかなりの威力、速度だということが分かる。

 だがオレはそれを左腕で軽く受け止め、払い除けるような動作で威力を跳ね返す。

 夏海姉の威力に比べれば可愛いものだ。

「なっ……!?」

 自分の蹴りが決まると思っていたのか、目に見えて驚く少女。

 いや、あの姉と生活をしてたら、大抵の暴力には耐性がつくんだよ……。

 だがしかし、今オレには心の中で愚痴を呟くより優先しなければならない行動がある。

「いきなり襲いかかってくるなんて何て失礼なヤツなんだ。……さては泥棒だな? これは一一〇番するしかないな」

「ち、ちょっと待ちなさいよっ!」

 警察を召喚するために携帯電話を取り出したところで、右手を少女に掴まれ、動きを封じられる。

 女性と手を触れたことがないオレは、その行動に少しドキッとしたがそれはそれだ。

 この人は泥棒なのだ。絶対そうなのだ。オレの本能が告げている。

 早く一一〇番に電話しなければならないのだ。

「離しなさいッ! 今から警察に通報するのよっ!」

「なんで女性口調……? って私は泥棒なんかじゃないわよっ!」

「じゃあ、証拠を見せろ。まずは服を脱いでもらおうか」

「な、なななななんて事言うのよっ! 女の子に服を脱げなんて最低よっ!」

「いきなり回し蹴りをしてくる奴を女の子なんて呼ばない。暴行犯と呼ぶ」

「あ、アンタが変な事言うからでしょ!」

 まあ服を脱げ、なんていうのは冗談だ。

 オレは女性に対して免疫が少ない。なので、本当に服を脱がれたら、オレが照れと興奮のあまり倒れてしまう。

 実際この間も結菜さんの谷間を見て、出血量を増やしてしまったところだしな。

 それにしても、さきほども言った通り巫女服を着た少女の姿は、スレンダーな体をしており、顔もとてもレベルが高い。

 世間一般では微乳と言われる胸も、微乳好きのオレにとってはプラスポイント。

 さらに腰まである金の髪も、窓から入る日光をキラキラ反射して幻想的な雰囲気を醸し出しており、こんな綺麗な女性をオレは今まで見たことがなかった。

 だがそれはそれ。

 要注意人物には変わりない少女から目を離すわけにはいかない。

 だからオレの視線が少女の体に向かってしまうのも不可抗力なのだ。

「……何じろじろ体見てるのよ……?」

「気のせいだ、気のせいだろう、気のせいだと思えっ!」

「最後さりげなく肯定してるじゃないっ!」

 くっ、なんと勘の鋭い奴なんだ……。

 まあ、それは置いておこう。それよりオレは聞くことがある。

「で、お前は誰なんだ。三秒以内に答えろ。答えなかったらオレの右手が警察に連絡する。三、二……」

「ええっと、って答えられるわけないでしょ!? 短すぎるわ!」

 警察の件は冗談のつもりだったが、少女は真面目に答えようとする。

 その反応が面白くて、オレもついからかってしまう。

 ダメだオレ、何かに目覚めそう。

「私の名前は――」

「とりあえず服を着させてくれないか?」

「――えっ?」

 そう、さっきからオレは下着一枚なのだ。すごく恥ずかしいのだ。

 それに気づいた少女は、オレの顔から少しずつ視線を下げていき、下着付近に到着した瞬間、顔を真っ赤にして「きゃあっ!」可愛らしい声で軽い悲鳴をあげる。

 ……今まで気づいてなかったのか?

 とりあえずオレは下着一枚という羞恥プレイから逃れるべく、急いで制服を着る。

「なんてもの見せるのよ……!」

「きっと服を脱げと言ったお前に天罰が下ったんだ。きっとそうだ」

「んな訳ないでしょ! 大体私は服を脱げなんて言ってないわよ! 言ったのはアンタ!」

「何ッ! 罪を擦り付ける気か!? 許せん、こいつは許せんぞ!」

「よくそこまで知らん顔できるわねっ!?」

 ふむ。もうそろそろからかうのはやめておくとしよう。

 なんかゼェゼェ言ってるし。

「冗談はここまでにして。で、アンタは何者だ?」

「私の名前は黒月。アンタのお守りに宿る精霊よっ!」

 ビシッとオレを指差して言う少女。

 ……いきなりそんな事言われてもな……。

「まさか冗談をやめた瞬間、冗談で返されるとは思わなかった……」

「えっ……ちょっと! なんで通じないの!?」

 何か予定と違ったのか、オロオロし始める少女。

 こう言った時、脳神経外科を紹介すればいいのだろうか。

 それともオススメの精神科とかのほうが良いのだろうか。

 そんな事を割と真剣に考えていると、少女は何かメモのような紙を取りだしてこう言った。

「あ、アンタ名前は何て言うのよ?」

「個人情報につき、その質問には答えられません」

「いいじゃない、名前くらいッ!」

「最近は名前をノートに書くだけで人を殺すことが出来るらしいからな……やっぱりダメだ」

「アンタはどこの世界の住人なのよーっ!!」

ダメだ。やっぱり無意識の内にからかってしまっている。

 いつも姉に話を主導権を握らせまいとしていたせいだろうか。

 この癖はいつか直さないと、いつまでも彼女ができない気がする

「まあいいわ。アンタの名前は後で調べる」

「怖いっ! 最近の子は怖い!」

「アンタも最近の子でしょうが!」

 やっぱり丁寧に片っ端からツッコンでくれるんだな。

 そんなやり取りをしながら、何気なく携帯の時計を見ると時刻は七時半。

 ……やばいっ! さっさとリビングに行かないと夏海姉に殺されるっ!

「もうオレは行かなければならない! 達者でな!」

「ち、ちょっと――!?」

 少女が何かを言おうとしていたが、遅刻はしたくないオレは部屋を飛び出し、慌てて身支度を済ませてから、リビングのテーブルにつく。

 すると反対側の席には鬼の形相を浮かべる夏海姉の姿があった。

「なあ悠斗……?」

「な、何でございましょうか……?」

 姉はテーブルを乗り出してガッとオレの胸ぐらを掴み、

「テメェ、こんな時間まで何してやがったんだ……?」

 と泣く子どころか本物の鬼ですら黙るんじゃないだろうか、と思うくらいの剣幕で言葉を発してくる。

 戦慄と恐怖に体が震えまくるオレ。

 震える唇で「ね……寝坊……」と答えると、さらに姉の表情は険しく、そして人以外の何かになっていく。

 あ、無理。これ死んだ。オレが今から行くのは学校じゃなくてあの世みたいだ。

「お姉ちゃん! 悠斗お兄ちゃんにきつく当たりすぎだよっ!」

 生きる事を諦めていたオレに慈悲深き救いの声が届く。

 その声の正体はオレの隣に座っていた妹の弥咲だ。

 可愛らしいツインテールをした弥咲は、鬼さえも怯えるだろう剣幕の姉に果敢にも立ち向かう。

「最近どうしたのっ!? 何でお兄ちゃんに厳しいのっ!?」

「い、いやお姉ちゃんはな……」


「お姉ちゃん、お兄ちゃんの事好きなんでしょ!?」

「「!!!?」」


 今、オレは聞いてはいけないことを聞いた気がする。

 違う。冷静に、そうだ冷静になるんだ。冷静にお茶を飲んで――

「な、なななな何を言ってるんだよ弥咲っ!」

「だっていつも寝言で『悠斗お兄ちゃん……』って言ってるじゃない!」

「ボハッ!?」

 思いっきりお茶を吹き出してしまった。

 もうダメだ。オレの中で姉のイメージが崩れる音が聞こえる。

 夏海姉は寝言でオレの事をお兄ちゃんって呼んでるのか……。

 とてつもなく恥ずかしい秘密を暴露された夏海姉は、ボッという感じで顔を真っ赤にし、「あうあう……」と言葉にならない声を出しながら机に突っ伏した。

 当然ながら、姉の秘密を聞いてしまったオレの顔もどんどん熱くなってくる。

 もうやめて! 俺たちのライフはもうゼロよ!

「み、弥咲……? もうそこまでで――」

「それにさっきも『早く悠斗降りてこないかな……』って呟いてたじゃないっ!」

「…………………………」

「夏海姉? 夏海姉っ! 夏海姉ぇぇぇえええ!!」

 必死に夏海姉の肩を揺らすが、全然返事をしてくれない。

 恥ずかしさのあまり、全ての機能を停止してしまったらしい。

 わ、我が妹にして恐るべし。

 ここまで姉を圧倒するとは……!

「これで大丈夫だよお兄ちゃん!」

「何がだ? 夏海姉は完全に機能停止、オレですらもう虫の息だよっ!」

「……ん?」

 可愛らしく首を傾げる弥咲。

 恐ろしい……! ここまでやってまだそんなキョトン顔ができるなんて……。

 弥咲だけは敵に回すまいと決意しながら、ふと時計を見ると時刻は現在八時〇二分。

 やばい。もうそろそろ出ないとっ!

「じゃあ、オレ行ってくる!」

「うん! 行ってらっしゃ〜い!」

「…………………………」

 笑顔で手を振る妹と動かない姉に見送られながら、オレは家を出た。


 家を出て、通学路を歩いている途中。

 少し足早に歩くオレの前方に男が歩いているのが見えた。

 クリーム色のスーツを着た男はオレより遅い速度で歩いており、それをあっという間に追い越す。

 そして、何気なくどんな顔か気になったオレは確認しようと思って首だけ振り返ったのだが。

(誰もいない……?)

 そこには最初から誰もいなかったように、ただ今来た道が続いているだけ。男はどこにもいない。

(今のは……)

 奇妙な出来事にオレは首を傾げる。

 が、今はそれより学校だ。

 時間を確認するために携帯を取りだし画面を見ると、現在八時一九分。

「やばいっ! 遅刻するっ!」

 時間に焦りを感じたオレは足早からダッシュへと速度をクラスアップさせて学校へとむかうのだった。

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