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守護精霊お一ついかが?  作者: 寿ヒカル
プロローグ 全ては偶然で
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プロローグ 全ては偶然で

「悠斗〜?」

「断る」

「まだ何も言ってないんだけど?」

 突然オレの部屋のドアが開いて、我が姉である夏海姉が呼び掛けて来た。

 嫌な予感しかしないオレは即刻断ったはずなのだが、ヤツはそんな事気にせず、ズカズカと部屋に入ってくる。

「姉ちゃんからのお願いっ」

「テレビは部屋を明るくしてから離れてみろよ」

「それ違う」

 ふっ、オレを甘く見るな。

 姉とまともに取り合えばペースを持っていかれるのは知っているので、出来る限り真面目には返さない。

 だが、夏海姉もこのままではプライドが許さないのか、ベッドの上で寝転びながらラノベを読んでいたオレの上に乗り、胸板に豊満な胸を押しあてながら、耳元で色っぽくこう言った。

「お・ね・が・い。聞いてくれたら、イイコトしてあげるから?」

 官能的な声で言ってくる姉に、オレは読書を続けながら、

「オレは夏海姉に興味はないから」

 と涼しげに言ってみた。すると夏海姉はムムッと眉を寄せながら「何だとっ! せっかく下手にでてやったのに!」と何やら怒り心頭のご様子だった。

「もういいっ! 悠斗には絶対何も頼まねぇからな!」

「お嬢様。ご依頼の品はなんでしょうか?」

「ええっ!?」

 手のひらを返したかのようなオレの態度に、夏海姉は少し口をひきつらせる。

 仕方ないだろう。姉に嫌われるのはさすがに嫌だからな。

 すると夏海姉は元の表情に戻り、さきほど言いに来た頼み事の話をし始めた。

「ちょっとそこの神社で、お守りを買ってきて欲しいんだけど」

「お守り? ああ、弥咲の受験か」

「そうそう。話が早いな。あの子のお守り買ってきてやってくれ」

 何だそんなことか。

 この姉の事だ。どんな頼み事をされるのかとビクビクしたが、至って普通の頼み事だった。

 そうだったな。妹はもうすぐ高校の受験だったよな。

 よし、そういうことなら動いてやろう。

「了解。じゃ、今から行ってくるよ」

「じゃ、頼んだ」

 そう頼んだ後、軽く右手を挙げて、夏海姉はオレの部屋を出ていった。

「よし、行くか」

 さっそくオレは読んでいたラノベを本棚に戻し、服を着替え、神社に向かうため外に出たのだが……。

「な、なんで雪降ってんの……?」

 現在は一一月。北の地域なら珍しくはないのだろうが、ここは雪が降ること自体が珍しい地域。

 そんな場所で時期外れの雪が空からチラホラ降ってくるのだ。

 神がオレに嫌がらせをしているとしか考えられないな。

 まあ、グチグチ言っていても仕方ない。さっさと行って、さっさと帰るべきだろう。

 そう思って、玄関口から一歩を踏み出した瞬間。

 地面が少し凍っていたのだろうか、オレは足を滑らせ、盛大に顔面から転んでしまったのである。

「ゴフッ! ……な、なんてヘマを……」

 ダラダラと額と鼻から血を流しながら、オレは何事もなかったように振る舞い神社へと向かう。

 途中、道行く人が軽く悲鳴をあげていたが、オレには関係ない。妹のお守りを買って帰る、という使命を全うするのみ。

 そして一応神社には着いたのだが、体内の血液が少なくなってきたのか、目の前が明滅しているような気がする。

「だ、大丈夫ですかッ!? ど、どうされたんですっ!?」

 鳥居をくぐり、拝殿近くにある売り場へ行く途中。サイドテールの巫女さんが血相を変えて駆け寄ってきてくれた。

 ち、ちょうどよかった。正直、フラフラしすぎて売り場まで行けるか、心配だったんだよ……。

「す……すいません……。『合格祈願』の……お……守り……ください」

「あなたがあの世へ行く試験を合格しそうな勢いですけどっ!?」

 ふっ、オレがあの世へ行く? そんな馬鹿なこと――

 そんな事を考えていたオレの視界に飛び込んできたのは、巫女さんのたわわに実った胸。そして巫女服の胸元から見える谷間。

「きゃああああっ!? さらに血が出てきましたよっ!?」

 前言撤回。オレもう死ぬわ。

 ふわりとした感覚に気がつくと、オレの体は少しずつ後ろへと倒れていた。

 ああ、このまま地面に倒れるのかと思い、目を閉じながら重力に身を任せた。


 ……が、いつまでたっても固い地面の感覚が来ない。

 これが死の感覚なのか……。

 そう思って静かに目を開けてみると、オレは巫女さんの腕で支えられていた。

「と、とにかく血を止めないと……」

 懐から取り出したらしいハンカチで、オレの額と鼻を交互に押さえてくれる優しい巫女さん。

 ああ、ハンカチからいい匂いが……。

 そんな感覚にフワフワしていると、目の前の景色が変わっていることに気づく。

 あ、あんな所に川があるじゃないか。あそこで血を洗おう。……ん? 血が止まってる……ならいいか。向こう岸には綺麗な花畑があるのか。でもこの川、深いから渡れないな。おっ、船に乗ったおじさんがいるな。ちょうど良いおじさん、乗せてくれよ。六文渡せ? そんな金は持ってないんだが……。

「…………おい、大丈夫か?」

「そこまでで良いから乗せてくれよ――ハッ!?」

 花畑の光景が消え、目の前には木造の天井が見える。……い、今まで何をしていたんだ……?

 すぐさま上体を起こし、辺りを見る。すると、オレの横にはショートヘアーの巫女さんがいた。

 濡れタオルを持っているということはしばらくオレの看病をしてくれたらしい。

「ようやく気がついたか」

「お、オレは何を……? それにここは……?」

「ここは拝殿の中だ。頭と鼻から血を出してやって来たと思ったら、そのまま参道の真ん中で倒れたんだ。……覚えてないのか?」

 あの優しい巫女さんにお守りを頼むところまでしか記憶がない。

 そうか、オレぶっ倒れてしまったのか。迷惑をかけてしまったな……。

「もう手当てはしてある。今日は帰ってゆっくり休むと良い」

 そう言われて額を触ってみると、額はきちんと手当てされており、包帯がぐるぐる巻きにしてあった。

 不器用さが目立つ巻き方に、オレは少し笑みを溢してしまう。

「色々と迷惑掛けて悪かった。ありがとう」

「いや、礼なら君を助けた結菜に言ってやってくれ。私はここにいただけだ」

 さっき助けてくれた巫女さんは結菜さんというのか。覚えておこう。

「でも看病してくれたんだろ? やっぱり礼は言わないとな」

「ふ、まあ好きにしてくれ」

 長居するのも迷惑が掛かるので、オレは立ち上がり、「ありがとう」と一言告げて、礼をしてから外に出た。

 すると拝殿の出入り口でサイドテールをした巫女さんがオロオロとしているのが分かった。

 よく見ればさっきオレを助けてくれた結菜さんだ。

 彼女はオレの顔を見て、不安そうな顔をしたと思えば、すぐにニコッとした顔になったりとなかなかに面白い。

 そんな様子を見ていたオレは思いきって声を掛けてみた。

 キリッとした顔で。

「どこかでお茶でもしませんか?」

「えっ……! あ、あの……っ……」

 顔を真っ赤にしてオロオロする結菜さんにオレは少しドキッとしてしまった。

 まさか、そんな真面目に受け取られるとは思わなかったからである。

 もしかして結菜さんはこんなこと言われ慣れていないのかもしれない。

「いえあの、すいません。こういった冗談なんです……。姉に女性と出会ったらこう言え、と言われてて……」

「そ、そうなんですか……! 私、そういったお誘いに慣れてなくて……」

 やっぱりそうだったのか。

 だけどこんな綺麗な人が誘われないなんて不思議な世の中だ。

「まさか! これは天がオレに与えた運命の――ゴフッ!」

「違うに決まってんだろ。頭打って、脳細胞が死滅したか」

 突然脳天から後頭部にかけて走る鋭い衝撃に意識を失いかけるオレ。

 誰だ、いきなり踵落としをしてきた奴は!

 必死に意識を繋ぎ止めながら、後ろに振り返ってみると、そこには家にいるはずの夏海姉がいた。

「な、なんで夏海姉がここにいるんだよ?」

「アンタの帰りが遅いから神社に来てみれば、血吹き出して倒れたぁ? お守り買いに行くだけで何一騒動起こしてんだ!」

「血まみれになってもここへ来たオレの根性を誉めてほしいものだな!」

「それにさっきの言葉は何だ?『姉に女性と会ったらこう言えって言われてて』? そんな事、誰も言うかァァァァアアア!」

「の、ノーコメントだ!」

 瞬間、オレの顔面に夏海姉の足蹴りがヒットし、オレは地面を二、三メートル転がるようにしてぶっ飛んだ。

 ……本気で死ぬっ!

「お、お姉さん! やりすぎじゃ……」

「弟にはこれくらいで十分! こうして悠斗は大人の階段を登っていくんだ」

「……いや、オレは今死の階段を登っている」

「よーし、二段飛ばしだ!」

「待て待て待てっ! もう無理! もう無理だから!」

これ以上は体が持たん! オレは意識の綱を必死に手繰り寄せながら夏海姉を見ると、踵を高く上げ、今にも振り落としそうな雰囲気を漂わせながら、オレを見下ろしていた。

「まあ、今回はこれくらいにしとくよ」

 そう言いながら夏海姉は足を下ろし、そして小さな袋から『合格祈願』のお守りを見せながら続けてこう言った。

「弥咲のお守りも買ったから、私は先に帰るぞ」

「……あ、ああ、お願いだから先に帰ってくれ……。もう夏海姉といたら体が持たん……」

「はいはい。じゃあ、先に帰りますよーっと」

 片手でお守りを回しながら帰っていく夏海姉。……これでオレの命の無事は確保できた。というか完全にストレス発散の生け贄にされたような気がするのはオレだけだろうか?

 ガクガクする体を奮い立たせて起き上がり、オレも帰ろうとすると心配そうにオレを見ていた結菜さんに呼び止められた。

「あ、あの……」

「はい……?」

 結菜さんは懐から何かを取りだし、オレのジーパンのポケットにそれを入れた。

 何を入れたのか気になったが、まあそれは後で確認することにしよう。

「じ、じゃあ気を付けて帰ってくださいね?」

「ありがとう……。なるべく事故らないように気を付けて帰るよ……」

 ボロボロの体を引きずり、可愛く手を振る結菜さんに見送られながら、オレは神社を出たのだった。


「結菜。あの男に何を渡したんだ?」

「え? 安全祈願のお守りですけど……?」

「そうか。じゃあ、その懐から飛び出している『安全祈願』と書かれているお守りは何だ?」

「えっ? ……あっ! 間違えたお守り渡しちゃいましたぁぁ! あのお守りは――」

「うむ。多分結菜が渡したのは『あの』お守りだろうな」

「い、今から言って交換してきますっ!」

「どうやって説明する気だ? まさか正直に『あの事』を説明するつもりか?」

「い、いや、それは……」

「まあ、しばらく様子を見てみよう。もし『ヤツ』が違うと判断すれば、あのお守りは帰ってくる」

「でももし、帰ってこなかったら……?」

「……あの男に少々危険が及ぶかもしれん。それに……」

「それに……?」

「あのお守りは本来、違う奴が取りに来る予定だったのでな。もしかすると――」

「あの人は私のせいで危険な世界へと足を踏み入れると……?」

「そうだろうな。まあ、『ヤツ』が認めなければ良いだけの話だが」

「そうですね……! あの人には頑張ってほしいですっ!」

「いや、今他人事みたいに言ったが、お前が間違えたのが原因だぞ……?」

「あぅ……そうでした……。反省します……」

「あの男が傷ついた時には優しく癒してやるんだな」

「……はいっ!」

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