桐嶋の過去
「話してくれないか?」
オレの質問は間違っていたかもしれない。
だが、桐嶋の頬を伝う涙を見て、間違っていなかったと思えた。
「・・・・昔・・・」
桐嶋は、涙を拭きもせず、淡々とした口調で語り始めた。
「私の家は、母子家庭なの。
でも、昔はお父さんもいた。
玲羅が生まれて・・・1年ぐらいの年に、お父さんは玲羅のプレゼントの下見に行ったの。
お母さんは家で、私と姉さん達と一緒にお留守番。
玲羅はぐっすり眠ってて、私達はパーティーを開こうと思ったの。
それで、静かにしながら計画を練った。
本当に幸せを感じてた・・・・。
そんな時、家に1本の電話が掛かってきたの。
「桐嶋さんですか?」
男の人の声だった。
子供だった私は、すぐにお母さんに代わった。
「はい、桐嶋幸平の妻です。
・・・はい?
・・・・・・・・・」
それまで普通だったお母さんの声は、途切れた。
「おかーさん?」
私は不思議だった。
お母さんの表情は、固まってた。
「どうしたの?」
「なになに~??」
出鳴姉さんと、芹香姉さんも異変に気づいたみたいだった。
「・・・・あ・・・・・」
お母さんはそのまま座り込んでしまった。
そのまま泣き崩れてしまったの。
「おかーさん??」
「何で泣いてるの?」
「だいじょーぶ?」
声を漏らさないように泣くお母さんは、私達3人を同時に強く抱きしめた。
「お母さんが守るから・・・・」
弱々しい声で、何度も何度も言った。
その時は、全く分からなかった。
「我々も最善を尽くしましたが・・・。
手遅れでした。本当に嘆かわしいことです」
その後病院に行って、医者に言われたの。
全然意味が分からなかった。
「謝らないでください」
お母さんは赤くて腫れた目を、潤ませながら言った。
「何があったの??」
お母さんは、弱々しく笑うだけだった。
私達は、目の前で横たわる人の顔を見せてもらった。
それが、お父さんだった。
すごく変わり果ててた。
いつも元気だったのに、血の気のない顔。
痛々しい傷口を縫った痕。
お父さんはね・・・・
ひき逃げされた。
犯人は、うまく姿を隠して、捕まってない。
今も。
「おとーさん・・・・?」
「うわああああああ!!!」
お母さんはそのまま泣き崩れた。
1番年上の芹香姉さんも、大声で泣き始めた。
出鳴姉さんは、別人のように静かに泣き始めた。
私はようやく理解し始めた。
「おとーさん?起きて!
皆泣いてるよ!!」
いくら強く揺さぶっても、お父さんは目を閉じたまま。
当時の私には、ソレが受け入れられなかった。
「やだよ?やだやだやだやだやだぁぁぁ!!!」
起きないお父さんに縋り付いて、たくさん泣いた。
勝手に涙が溢れてきた。
部屋は、私達の泣き声がずっと響いてた。」