涙と子犬
堪えていた泣き声はいつの間にか消え、静かな寝息に変わっていた。
オレは、心苦しさを感じながらも桐嶋の腕を解いた。
細い腕は、あっさりとはずれ、華奢な体を自分の胸から離れさせた。
もっと抱き締め合っていたかった・・・。
というのが本音だが、今は我慢した。
オレが桐嶋の弱味に漬け込んだみたいだから。
そんなのヤダし。
オレは、桐嶋をソファにそのまま倒した。
そして、自分はソファを降りて、綺麗な顔を眺めた。
穏やかな寝息を立てる度に、長い睫毛が微かに揺れる。
サラサラな髪が、時々肩から零れ落ちる。
オレは、何となくイジメたくなって、桐嶋の鼻を摘まんでみた。
桐嶋は規則的な寝息を止め、苦しそうに「くっ」と言った。
可愛い。
オレは指の力を緩め、淡いピンクの頬をそっと撫でた。
真っ白な鎖骨に何となく目が行き、その部分にそっと口付けをしてみた。
こんなこと、初めてやった。
どうしてもやりたくて、衝動が納まらなかった。
「ふぅん」と、気持ちよさそうに、擽ったそうに桐嶋は寝返りを打った。
そのせいで、横向きだった体が仰向けになった。
桐嶋は起きない。
このシチュエーションは・・・。
いかん、エロいことを考えてしまった。
その時、
ピンポーン。
チャイムが鳴り響いた。
オレは、桐嶋をそのままソファに残し、玄関に向かった。
そこには、
「ワン!」
犬がいた。