私の・・・
あの時、私は自分が何をされているのか、全く分からなかった。
覚えているのは1つ。
怖かった。
できるだけ正気を保って抵抗した。
それでも、アイツには勝てなかった。
斎藤には、歯が立たなかった。
斎藤は私の肩を抱いて走った。
私は何故か震えていた。
嫌な予感がしていた。
それでも私は斎藤について走った。
斎藤は私の知らない道を走っていく。
「ちょ、ちょっと・・・」
私は止まろうと声を出した。
斎藤は聞こえないのか、
「もうすぐ着くから」
と言った。
何言ってんの?
私の家あっちなんだけど・・・。
斎藤はとある家に着くなり、門をくぐって屋根に入った。
「ここ・・・斎藤の家?」
「そうだよ」
私は敷地の広さに驚いた。
家はたいそう豪華。
芝生が青く生い茂った庭。
高級車が止められた駐車場。
私は直感した。
コイツ、金持ちだな。
こういう奴と結婚したら楽になるかなぁ。
そんな風に驚いている私に斎藤は
「上がって」
と言った。
人の家に上がるのはちょっとアレだったけど・・・。
金持ちの家というものに憧れていた私は
「・・・お邪魔します」
と言って上がった。
斎藤は私をリビングに案内した。
流石金持ち。
リビングも豪華だ。
私は前を歩いている斎藤の右肩がずぶ濡れなのに気付いた。
私もかなり濡れてはいるが、斎藤はそれ以上だ。
申し訳ない。
私は心の中で手を合わせた。
斎藤は私を高級そうなソファーに座らせてくれた。
結構広いし、座り心地もいい。
斎藤は
「タオル取ってくる」
と言ってどこかに消えた。
私は自分がまだ震えているのに気付いた。
確かに斎藤はいい人そうだ。
でも何か裏がありそうだ。
私が一人で悩んでいると、斎藤が戻って来た。
「はい」
とタオルをくれた。
「ありがと」
私は礼を言ってからタオルを受け取ろうとした。
タオルをもらおうと手を伸ばした。
急に斎藤が伸ばした私の手を掴んでそのまま右手も引っ張りベットに倒した。
「ちょっ、何?!」
さっき以上に震えた。
私の震えが伝わったのか、斎藤は
「震えてるね」
と笑顔で私に言った。
私は何も言えなかった。
体が言うことを聞かない。
ー体が!ー
心の私は泣きそうだった。
「離してっ・・・!」
それがやっと口から出た言葉だった。
私は手に力を入れて、振りほどこうとした。
でも斎藤に対して、私は無力だった。
斎藤は抵抗する私の両手をフェイスタオルでキツく結んだ。
「何すんのっ!」
私は抵抗を続けた。
「君は僕の思った通り。凄く綺麗だね」
その一言で私の時間は止まった。
それから何があったのか覚えてない。
気付いたら、公園のブランコに座っていた。
誰にも会いたくない。
でも1人だけでいい。
誰かに会いたい。
そんな複雑な思いが私の胸に溜まっていた。
寂しくて・・・。
悲しくても泣けなかった。
そんな気持ちの中。
私をスーパーヒーローが助けに来てくれた。
「桐嶋!」
その声が私を闇から助け出してくれた。