かつてイスラム圏で一休さんが流行った話 或いは日本作品の意外な普及
タイトル通り。
80〜90年代、実はイスラム圏では。
あの一休さんが放映され、知名度90%程度ある、大人気番組だったらしい。
え、なんで?
と、一見では思う様な話だが。
よくよく考えたら、まぁ確かに流行るかも。
という言えるカラクリがあった。
これが面白かったので紹介したい。
●国内で放映後のアニメの扱い
日本では実に多様なアニメが作られた。
それらの放映後の扱いはどうなるか。
ただ倉庫に眠っていた訳ではなく。
放映後は何組かのセットで海外に向けて。
格安で販売されたりしていた。
日本は放映後のアニメで、追加収入を得る為。
諸外国は格安で、番組欄の穴を埋める為。
お互いの思惑から日本産アニメは、海外へ羽ばたいて行き。
世界各地で大きな化学反応が起きた。
●ローティーンの需要爆発
アニメなんて子供の見るもの。
アニメを見る大人は海外では幼稚と見られる。
そんな評価を耳にした事はないだろうか。
これ、半分正解で、半分間違いである。
というのもそもそも、海外のアニメというのは。
本当に幼児向けのコンテンツでしかなかったからだ。
まともなストーリーもない様なやつ。
そりゃそんなの見てたら、幼稚という謗りは避けられないだろう。
根本的に日本のアニメとは、概念からして違っていた訳だ。
パリっ子視点で、改めてグレンダイザーとの出会いを考えてみよう。
夏休み。
とりあえず、チャンネルを回してみるも。
当時、放送局は3つ程度しかなかった上に。
子供がテレビを独占できる様な時間に、力を入れてる筈もなく。
幼児向けの人形劇とか。
この時代ですら古い、古典の名作な白黒映画とか無声映画とか。
格調高いクラシックが、1時間流れっ放しとか。
そんな退屈なものばかり流れてる。
もしかしたら、メロドラマの再放送位はあったかもしれないが。
小学校位の年齢の、幼児を卒業したが、まだ難しいものが分からない世代。
そう言った層が楽しめる娯楽は、皆無に等しかったのだ。
コレは該当層が経済力を持ってない為に、マーケティング的に。
力を入れてもコストの回収ができない、と考えられていたからで。
この判断は全世界的に、同様と見られていた。
そんな退屈なフランスに、突如として現れたのがゴルドラックだ。
●偉大なる者ゴルドラック
日本ではUFOロボ グレンダイザーの、タイトルで知られる。
マジンガーZから続くシリーズ3作目で、スパロボシリーズにも多く登場する。
比較的に成功した部類の作品の1つ、と言ったところだが。
フランスを始めとする諸外国では、他のロボットアニメとは完全に別格の存在だ。
シリーズ作品であったにも関わらず、特にそのセットで販売されてなかったので。
単品で放映される事になったからだ。
つまり諸外国が初めて出会ったロボットは。
かのマジンガーZではなく、ゴルドラックだ。
元祖スーパーロボットの座は、多くの外国人にとってゴルドラックにある。
その登場は、パリっ子に衝撃を齎した。
地球を侵略する、卑劣な悪の宇宙人と。
力強くカッコいい、巨大なロボットを駆り。
敢然と立ち向かう、故郷を失った悲劇の王子。
それまで子供達が飢えていた。
憧れの塊の様なヒーローの物語。
皆してこれに夢中になった。
当時は宇宙開発が活発な時期かつ。
丁度スターウォーズが大ヒットした直後で。
SF作品に追い風が吹いていたのもあってか。
放映時間の夕方には、パリの街並みから子供が消え。
平均視聴率は70%↑、最終話の視聴率は100%、という伝説の番組だ。
※ただし「その時間に点いていた計測器付きテレビを母数とした場合」という条件は付く。逆に当時、ゴルドラックを映す為だけに、テレビは点いていた事になる
正直、全く期待していない、ただの番組欄の穴埋めだったつもりなので。
当然、現地のメーカー各社は何の準備もできてないまま、このラ・フォリー・ゴルドラック(ゴルドラックの熱・狂乱の意味、この社会現象を指す用語として実在)に巻き込まれた。
そこで急遽、食器類、文房具、衣服等あらゆる物に。
ゴルドラックの顔や名前が、乱暴に取り付けられた急造品が濫造され。
特に肝心の玩具メーカーは何も用意できていなかった為。
苦し紛れに全く無関係な玩具に、ゴルドラックを取り付ける暴挙に出る。
それもロボットだけでなく、剣等の本当にかすりもしないものにすらやる始末。
それでもとにかく売れに売れた。
日本から輸入された本物の超合金なんて持ってたら、たちまちクラスの人気者だ。
「ゴルドラックが付いていれば石でも売れる」
と当時の関係者は言ったらしい。
日本アニメというブランドと、メディアミックスという商法を単身で作り上げた。
正に「偉大なる者」に相応しい偉業と言えよう。
●日本以上に活躍したヒーロー達
ゴルドラックは当時のフランスの情勢と、奇跡的に合致したところもあったが。
子供向けの娯楽の枯渇、という構造は共通していた。
なのでテキトーに選んだ、日本の児童向け作品を放映したら、爆発ヒットする。
そんな必然的な偶然は、全世界的に起こった。
イタリアの鋼鉄ジーグ。
フィリピンの超電磁マシーンボルテスV。
ブラジルの巨獣特捜ジャスピオン(※時期が違ったり、特撮だったり、媒体が日系人が持ち込んだビデオのダビングだったり、細かい所は違うがほぼ同種の現象)。
これらは現地の国民的な文化アイコンとして機能してると言っていい。
割と近年イタリアで「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」という映画が上映され、国内の賞を総嘗めする高評価を受けてたりする。
特にフィリピンは当時、独裁政権にあった中で。
家族の絆で結ばれた正義の味方が、支配体制を打ち砕く、という題材のボルテスVが。
そうとは知らないまま放映されて、時の政権が最終話間近で放送を中止させた程だ。
一応暴力表現がどうという発表だったが、明らかに内容とボルテス人気を危惧しての事だといえる。
何せ当時のフィリピンの経済的に、一家に1台のテレビすら怪しい。
近所の富裕層の家のテレビとか街角テレビを、皆で取り囲む様なライブ感溢れる視聴体験で。
日本語のOPを皆がソラで歌える、という異常な浸透具合だ。
※余程OP曲が気に入られたのか、差し替えられずにそのまま放映されたので、言葉としては意味が分からなくても、音として聞いて皆が歌えるようになったらしい
禁止しても既に遅く、後年革命により独裁政権は打ち倒された。
ボルテスが革命にどの程度影響を与えたか、考えるのは難しいが。
逆に視覚とエンタメ性とライブ感という、強烈な視聴体験が何の影響もないと考えるのも難しい。
独裁政権打倒後は、無事に最終話が放送された他。
こちらも近年、現地で特撮とVFXにて、ボルテスVレガシーが製作された。
ジャスピオンも人気で、現地のコスプレ大会で未だにコスプレする人がいたり。
今も日本と共同で、最新のジャスピオンを作成する動きもある。
変わり種ではライオンフォース・ボルトロンというのもいる。
邦題ではゴライオンというタイトルだ。
当時、玩具の販促の規制が解除されたばかりで。
ライオン型の5台のロボが合体する、というデザインに惚れ込み。
最初から玩具とのタイアップを意図して購入、放送されたものだ。
狙いは大成功でアメリカのキッズは、ボルトロンの玩具を求めたらしい。
こちらも割と近年、現地でリメイクされていたりする。
面白いのは、表現規制的に残虐シーンを映せないので。
どんどんカットしていった関係で、話数が足りなくなり。
後半は全く別アニメのダイラガーを、映していたという所だろう。
ちなみにダイラガーのロボは、アメリカのキッズには見向きもされなかった。
個々に魅力的なモチーフを持ったロボが、更に変形合体するのが重要らしい。
後年のパワーレンジャー(日本の戦隊の海外展開版)シリーズの人気に繋がる、要素の開拓だったのかもしれない。
普通車がモチーフのターボ(カーレンジャーベース)は、シリーズでも商戦が大苦戦していたし。
日本で物議を醸した10台以上の合体玩具も、大きいもの大好きな国民性に突き刺さりまくった模様。
他にもキャンディキャンディ、ベルサイユのばら、セーラームーン、フルーツバスケット等。
王子様を待つディズニープリンセス系から脱却したヒロインは、世界中の女性に受け入れられた。
特に戦う女性像を打ち立てたセーラームーンは、もはや伝説と言っていい。
しかも日本人が今見ても信じられない、驚異の作画クオリティだしなアレ。
ドラゴンボールと不動のツートップを築いた、90年代の英雄である。
●イスラム圏の事情
さて、ここまで来て、やっと本題。
イスラム圏では何が違うのか。
それは厳格な宗教的戒律だ。
あの今も覇権を握るポキモンは、完全に禁止リストにのせられる始末だ。
※海外では略称が正式タイトルかつ、発音はポキモンが近い。日本のポケットモンスターは、英語圏での男性器のスラング
最初はポケモンカードが、賭博に使われた事で問題が表面化。
カードだけ禁止すればいいのかといえば、題材そのものの問題が発覚。
なにせ偉大なるアッラーが、生物それぞれの姿を決めたとイスラム教にはあるので。
その姿を破壊する進化という概念は、神への冒涜に当たる。
他にも他宗教のシンボルたる、十字架等が扱われるのが問題視され。
それらを組み込んだポキモンは、許されざる存在となった訳だ。
※十字架の扱いはドラクエシリーズも同様で、海外展開時に大きくネックとなり、途中から意匠が変更されている
その他、女性の髪や肌への露出に、強い忌避感を持つ。
あの国民的アニメで、こちらも全世界的な人気を誇るドラえもんも。
静ちゃんのスカートはよろしくないということで、スパッツを履かせる等の規制を受けている。
※ちなみにお風呂シーンは、児童ポルノに引っ掛かるので全世界的に厳禁。それどころか床に女の子座りするシーンすら、なにかに抵触するとかで削除されるらしい。何それ
ドラゴンボールも地球の神様・神龍・界王神等の、多神教を思わせる要素や。
魔人ブウ等の神以外の力への賛美、ラディッツの殺害=親族の殺害(トップクラスの禁忌)への加担等。
人気を博した上で強い規制、地域によっては放送禁止処分を受けている。
●ここでもグレンダイザー
そんな中、イスラムではグレンダイザーが、非常に力を入れてローカライズされている。
フランスの様な偶然のヒットではなく、グレンダイザーは最初から期待されて登場した。
王族が物語の存在ではなく、生活の延長上にいる文化。
常に緊張し、紛争と密着した危険な地域。
そんな土地柄の、イスラムの人々にとって。
無敵のグレンダイザーによって、侵略者を自ら打ち倒し。
第2の故郷を守る強い王子、デューク・フリードの姿は。
理想の指導者像そのもの、だったらしい。
近年ギネスにものった、巨大グレンダイザー像建造や。
リバイバル作品、グレンダイザーU等。
グレンダイザーは世代を超えた、文化的アイコンそのものだ。
日本で言う、仮面ライダーやウルトラマンレベルのヒーローの代名詞であり。
現地語でのグレンダイザーやデューク・フリードの名前が。
超人・タフガイ・救世主のスラングになる、そんなレベルの浸透具合だ。
ちなみにキャプテン翼も力を入れてローカライズされ、強い人気がある。
純粋なスポーツで世界を目指す、その姿が好印象だった様だ。
翼くんはヨーロッパを中心に、広い世界で人気があり。
翼達に憧れてプロ選手となった、トッププレイヤーも大勢いるという。
●なんで一休さん?
ここまでの説明で何故、イスラムで一休さんが流行ったかわかるだろうか?
答えは「理想的だった」からだ。
進化して別の姿になったりしないし。
魔術に傾倒したりしないし。
兄を殺したりしないし。
知恵と機転で、大人をやり込める。
それも騙すとかの悪い嘘ではなく、知恵比べという形で。
そして年長を敬う美徳を持つ、イスラム社会から見ても。
母を慕う人物像は、非常に理想的だった。
そもそも一休さんは僧侶なので、女人が映ること自体少ない。
一応準レギュラーの女性キャラはいるが、無闇に肌を晒したりしない。
一部のエピソードで、川遊びをした位なので修正量は極小。
一休さんは正しく100点満点の、理想的作品だったといえるだろう。
……え?
そもそもお寺という、他宗教施設の僧侶を扱ってるのに?
偉大なるアッラーへの、冒涜にはならないのか?
まず、イスラムの強い信仰は、たかが娯楽1つで簡単に揺らがないという自信が1つと。
根本的に布教を目的とした作品、という訳でも別にないのが1つと。
こちらはおそらくだけど、日本の古い時代のお話という事で。
サムライ・ニンジャ的な、独特のオリエンタルな風景。
つまりファンタジーとして、理解されてたんだと思う。
カンフー映画とかは輸入してたので。
お寺での生活はアジア系の不思議な特訓風景とか、そういう文脈で理解してたっぽい。
そもそも宗教が主体の話じゃないので、宗教と絡めては認識されてないのだろう。
いかがだっただろうか。
他にイスラム的検閲を避けられる作品が、どれだけ思い浮かぶだろうか。
特に女性キャラ関係が厳しい。
筆者は、忍たま乱太郎ならどうか、と思ったけど。
よく考えたら、時代背景をはじめとした、前提知識がありすぎて。
恐らくイスラム圏では、理解されないので厳しそう。
全てをクリアしつつ、更に娯楽として楽しめる事が求められる訳だ。
意外だったけど確かに、一休さんは全てを高レベルにクリアしてるなぁ。
ちなみに近年は近代化が進み、海外文化が積極的に解禁されていってるらしく。
ドラゴンボールがテーマなレジャー施設の、建造等が行われているそうな。
それでもまだポキモンは解禁されてないので、直接的に宗教的禁忌と抵触する事にはガードが固いが。




