第2話 剣を掴んで構えろ
【剣を掴んで構えろ】
バッシュの全身から脂汗が流れている。
痛みが精神を包み込んでいる。
まるで魂に記憶しているような感覚だった。
2回死んだ。
天国なんて見る暇もない、2回目は頭がトマトのように潰れて死んでいる。
剣が転がって、オーガの向こうに落ちたおかげでそこで再生したようだ。
服まで再生してくれるのだから助かる。
いや、再生と言えるのだろうか、死体は2体転がっているし、これって複製が正しいのではないだろうか。
そんな事を考えていると、先程脳内で響き渡ったペンタラゴンの呟きがリピートする。
「剣を掴んで構えるぞ」
ただ、それだけだったはずなのだが。
剣が体に馴染んだ。
まるで、今まで何度も掴んでいた剣と同じ感触、いやそれ以上。
【ほう、お前、本来はいい所の出の貴族か】
「なぜ?」
【構えがしっかりしている。それで弱い理由は実践不足だな、魂には剣術の記憶も宿っているようだしな、一杯死ねば強くなろう】
「それは勘弁してくれよ」
【だが、この剣の呪はな、死ねないだけじゃない、死ねば死ぬほど強くなるんだよ。死ぬと体の細胞が破壊されて、魂からお前の体が再生されるのだが、その時味わった恐怖や、痛みが強さへと切り替わる。今のお前はオーガなど片手で殺せるぞ】
それが意味も分からないはったりである事をなんとなくバッシュは悟っているのだが。
不思議と剣を持つ右手が軽かった。
いや、剣自体が軽くなっている訳ではない。
筋力がついていると言えるのかもしれない。
痛みと恐怖が自分を強くさせる。
バッシュは走った。
オーガの距離まで一瞬で辿り着いた。
「は?」
一歩踏み出しただけなのに、数メートルの距離を1秒足らずで移動していた。
足の筋肉のバネが尋常じゃない弾力で動いたのには驚いたが。
剣を一閃するだけで、オーガの分厚い筋肉が林檎のようにさっくりと真っ二つに割れた。
オーガの内臓が飛び出ていく中、奴は棍棒を振り落とした。
バッシュはそれを左手で、支えた。
棍棒は岩でできている。真上から落下してきたのだから、衝突すれば、左手、しかも利き腕じゃないほうの腕なので折れてしまうのは間違いないはずだったのだが。
「あれ? かる!」
棍棒は尋常じゃないくらい軽い。
そして、林檎のようにぐちゃりと岩を掴み砕いていた。
「一体、俺様の体で何が」
【取り合えず第一関門クリアだ。地上まで果てしないぞ、今外ではきっととんでもない事が起きているはずだ】
「具体的に教えてくれ」
【ああ、良いだろう、我はな、この世界の調停としての役割をしていた。それをほどいてしまったのだから、調停が無くなる。つまり、異世界とこちらの世界の壁がなくなり、行き来自由になるという事で、天国も地獄も例外ではないという事だな、それはつまり、戦争が起きるという事じゃよ】
「あーそういう事か」
【お前のロールプレイング、しかとはじまったぞ、バッシュ・ブラッドリーよ新しい調停者の卵よ】
【世界の調停者】バッシュ・ブラッドリーはこれから世界を調停する為に立ち上がる。
正確には調停を破壊したのは彼だが、彼は調停をまた作り上げる為に人生といるロールプレイングを始める。




