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RPG戦記~異世界最弱から最強のロールプレイング~  作者: AKISIRO
第1章 灰色狼の王国

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第18話 狂瀾の鎮魂歌、悪魔の囁き

 「青色麒麟の王国」の美しき街並みは、一瞬にして悪夢の絵画へと変貌していた。

 空を舞う青髪の少年、ウィンター・トッドが撒き散らす「透明な羽」が、エルフたちの誇り高い精神を食い破っていく。


「あはは! 見て見て、あのおじさん! 自分の手を食べ始めたよ! 妖精さんもお腹が空いてたんだね!」


 トッドの無邪気な笑い声が、阿鼻叫喚の市街地に響き渡る。

 エルフたちは、ある者は虚空を掴んで踊り狂い、ある者は隣に立つ愛する者を、まるで汚物でも見るかのように引き裂いていた。

 そこに、腐敗した障壁の穴を抜けたバッシュたちが突入した。


「……なんだ、この有様は。バムバスよりも質が悪いな」


 バッシュがペンタラゴンを抜き放つ。

 目の前では、瞳を虚ろにしたエルフの衛兵たちが、奇怪な関節の動きで襲いかかってきていた。


「バッシュ様、ダメです! 彼らを殺してはいけません! それは妖精に操られているだけなんです!」


 パルが悲痛な叫びを上げるが、襲いくる衛兵たちの剣筋は急所を一点に狙っている。殺さず、かつ無力化するなど、この物量では不可能に近い。


「ヒャハハ! 殺しちゃダメ? 面倒くせえな。じゃあ、手足の一本や二本なら文句ねえだろ!」


 パーカー王子が黒刀を抜き、狂乱の渦へ飛び込もうとしたその時。


『――止まりなさい、狂戦士のひな。死なせたくないのであれば、その剣は鞘に戻すことね』


 バッシュの脳内に、凛とした、それでいて氷のように冷徹な「少女の声」が直接響き渡った。


「誰だ!?」


 バッシュが周囲を警戒するが、姿は見えない。

 だが、その声は確信に満ちて、バッシュに次なる指示を下した。


『調停者、あなたのその「死なない肉体」……妖精の毒を通さない強固な「器」を使いなさい。右へ三歩、剣を振るわず、ただ剣のひらで大気を叩きなさい。……今よ!』


 バッシュは反射的に、その「声」に従った。

 右へ三歩。全力でペンタラゴンの腹を空気に叩きつける。

 ドォォォォン!!

 強烈な衝撃波が周囲の「透明な羽」を吹き飛ばし、真空状態が生じたことで、エルフたちに憑依していた妖精が一瞬だけ体外へ引きずり出された。


「今です、パル! 王族の力を!」


 バッシュの叫びに、パルが弾かれたように前へ出た。


◇◇◇


 世界樹の遥か上層。  視力を失った「悪魔の軍師」ドラコは、地上から響く全ての音を聴き分けていた。  バッシュの筋肉が軋む音、トッドが放つ妖精の羽ばたき、パルの震える心音。


「……不協和音の中に、ようやく一本の主旋律メロディが見えたわ」


 彼女は目が見えない。しかし、脳内には戦場全体の完全な3Dマップが構築されている。  彼女の指先が、まるで見えない指揮棒を振るかのように動く。


『調停者、次は斜め後ろ。パーカー、あなたは左の塔へ走り、壁を蹴りなさい。反射した音が、妖精の共鳴を阻害するわ』


 姿なき指揮官の指示は、魔法よりも正確だった。

 バッシュとパーカーは、自分たちの意志ではなく、ドラコという巨大な「演算機」の一部となったかのように、無駄のない動きで狂ったエルフたちを翻弄していく。


 一方、空中のトッドは苛立ちを見せ始めた。


「なんなのさ、君たち! 僕の遊びを邪魔するなんて、すっごく意地悪だ! 妖精さん、あのおじさんの心臓を直接食べちゃって!」


 トッドが指を鳴らすと、何万という妖精の羽が一箇所に集まり、巨大な槍となってバッシュを貫こうとした。  だが、バッシュは避けない。


「……無駄だ。俺様は、死ぬことだけには慣れてるんでな」


 妖精の槍がバッシュの胸を貫通する。

 本来なら精神が崩壊する一撃。だが、バッシュの【無限の再誕】は、精神の汚染すらも「損傷」とみなし、瞬時に「正常な状態」へと修復していく。

 バッシュの体内で、侵入した妖精たちが逆に彼の強固な生存本能に押し潰され、霧散した。


「パル、今だ! 歌え!」


 バッシュが妖精の槍をその身に受け止め、動きを封じている隙に、パルが世界樹の根元へと走り寄った。  パルは、かつて王国を去る際に、母から託された禁じられた「古い歌」を思い出す。  それは王族の血を持つ者だけが、世界樹そのものの精神と共鳴させるための旋律。


「――♪ 蒼き麒麟よ、眠れる森の主よ……その葉で鎮めて……」


 パルの震える歌声が、ドラコの「声」に導かれ、世界樹の導管を通じて王国全体へと増幅されていく。


 その瞬間、世界樹の巨大な枝葉が淡い青色の光を放ち、雪のように輝く「浄化の粉」を降らせ始めた。  


「……ああ……あ、ああああ!」


 狂気に陥っていたエルフたちが、次々と正気に戻り、その場に倒れ伏していく。

 トッドが操っていた妖精たちは、世界樹が奏でる「聖なる調べ」に耐えきれず、次々と美しい光の粒となって消滅していった。



「ちぇっ、つまんないの。世界樹の『歌』なんて、反則だよ」


 トッドは頬を膨らませると、未練なさそうに上昇を始めた。


「今日は帰るけど、また来るからね! 今度はもっと、耳の長いお友達をたくさん連れてくるよ!」


 青髪の少年は、空の彼方へと消えていった。

 後に残されたのは荒れ果てた市街地と、ようやく静寂を取り戻したエルフの民たち。


 バッシュは新しい体に複製され空を仰いだ。

 そこから、一人の少女がゆっくりと降りてくる。


 灰色の瞳を持つ、小柄なエルフ。

 100年の封印を解かれた「悪魔の軍師」ドラコである。


「……見事な仕事ぶりだったわ、調停者。私の『声』についてこれたのは、あなたが初めてよ」


 ドラコはバッシュの前に立つと、見えないはずの瞳を彼に合わせた。


「私はドラコ。この国の過去であり、そしてこれからの未来を司る者。……バッシュ、あなたに提案があるの。この腐りかけた王国を、あなたの『新しい国』の一部として、正しく組み込んでみないかしら?」

 バッシュは、この少女の底知れない知略を感じ取った。

 南の森の城塞、地下のスライム王国、そしてこの青色麒麟の王国。  バッシュの意図せぬところで、巨大な連合国家の歯車が、一気に加速して回り始めようとしていた。


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