第16話 旅路とスライムダンジョンマスター誕生
◇蒼き王国への出発◇
城門の前では旅立ちの準備を整えた三人の影があった。
バッシュ、デッド・パーカーそしてエルフの使者パルである。
「青色麒麟の王国へは、ここから南西の密林を抜ける。絶対障壁の外周に辿り着くまでは、バムバスの残党に注意が必要だ」
パルが地図を広げながら緊張した面持ちで告げる。バッシュは重厚なペンタラゴンを背負い直し、ただ短く「行くぞ」と応じた。
「ヒャハハ! エルフの国か。その『絶対障壁』ってやつ、俺の黒刀でどれだけ斬れるか試させてもらうぜ」
パーカー王子は不敵に笑い、二振りの黒刀を腰に帯びる。かつての「王子」としての品格は、今や狂気じみた戦意に塗り潰されていた。三人は霧の向こう、深緑の闇へと姿を消した。
◇聖女と地下の邂逅◇
一方で、居残り組となったヒカリとメロム・メロカの兄妹は、建国資材の石材を求めて、城壁のすぐ近くで発見された天然の洞窟へと足を踏み入れていた。
「ヒカリちゃん、あんまり奥に行かないでよ……。何が出るか分からないんだから」
メロムがおどおどとランタンを掲げるが、ヒカリは何かを吸い寄せられるように、洞窟の最深部へと進んでいく。
そこで一行が出会ったのは、透き通った青い体を持つ、一匹の小さなスライムだった。
「待って、メロカちゃん。攻撃しないで」
メロカが神クラスの攻撃魔法を指先に灯したのを制し、ヒカリは膝をついて両手を広げた。彼女の手のひらから、優しく温かな黄金の光が溢れ出す。
「……あなた、怖がってるのね? 独りぼっちで寂しいの?」
本来、意思疎通など不可能なはずの原生モンスター。だが、ヒカリの光がスライムに触れた瞬間、プルプルとした体躯が歓喜に震え、彼女の腕の中に飛び込んできた。
「嘘でしょ……スライムと心を通わせたっていうの!?」
メロカが驚愕する中、洞窟の壁面が不意に鼓動を始めた。最奥の岩壁が崩れ落ち、そこに姿を現したのは、禍々しくも美しい、巨大な宝石のような結晶――ダンジョンコアだった。
【……光……純粋なる、理の光……】
ヒカリの脳内に、無機質な声が響く。このダンジョンそのものの意思であるコアが、彼女の持つ「調停を支える光」に共鳴したのだ。
「私に……何か手伝えることはある?」
ヒカリが導かれるままに、コアへ手を触れる。その瞬間、彼女の膨大な光の魔力が奔流となってコアへ流れ込んだ。
『承認。マスターをヒカリとして登録。……レベルアップを開始します』
1、10、50――そして100。 ヒカリのチート級の光を受け取ったダンジョンは、一瞬にして最高位のレベル100へと跳ね上がった。
轟音と共に洞窟が広がり、階層が幾重にも重なり、結晶の柱が立ち並ぶ。わずか数分で、城塞の地下には広大な「地下スライム王国」が形成されたのである。
「えぇぇぇ!? 地下全部がスライムの城になっちゃったよぉ!」
メロムが叫ぶ中、増殖したスライムたちが列をなし、ヒカリの騎士として整列し始めた。スライムソルジャー、スライムウィッチ、さらには結晶を纏ったオメガスライム。軍隊級の物量が、ヒカリ一人の意思の下に置かれたのだ。
◇森の防衛戦:英雄たちの共演◇
地下で「国」が拡張されている間、地上ではバムバスの侵攻が再び激しさを増していた。城壁の外は、食らって増殖した肉塊の波で埋め尽くされている。
「ハッ、増えれば増えるほど、俺様の槍が唸るぜ!」
前線に立つのは、ギリシャ神話の英雄、アキレウスとヘクトル。
アキレウスが弾丸のような速さで突撃し、黄金の槍を振るうたびに十数体のバムバスが爆散する。
「アキレウス、深追いはするなと言っている。左右から囲まれているぞ」
ヘクトルが冷めた声で忠告しながら、大盾でバムバスの突進を完璧に受け止める。衝撃を完全に殺し、敵の体勢が崩れた瞬間、彼は剣で急所を貫く。
「理屈はいい! 来るならまとめて来い!」
アキレウスが咆哮し、盾を地面に叩きつけて衝撃波を起こす。浮き上がったバムバスの個体たち。そこへ、待機していたヘクトルが複数の槍を神速の投擲で放った。
「星砕」
ヘクトルの正確無比な投擲がバムバスの核を射抜き、アキレウスの槍が残りの肉体を粉砕する。 かつてトロイア戦争で敵対した二人。だが今、ヘクトルの「鉄壁の守りと精密射撃」がアキレウスの「暴虐な突破力」を補完し、最強の防衛システムとして機能していた。
「……ふん、少しはマシな連携になったな」
ヘクトルが額の汗を拭う。アキレウスは豪胆に笑い、新たな肉の波を指差した。
「まだまだ足りねえ! 掃除はこれくらい派手にやらなきゃな!」
◇旅路の果てに◇
地上での激戦、地下での急成長。
仲間たちがそれぞれの役割を果たす中、バッシュ一行はついにパルの故郷、青色麒麟の王国の
「絶対障壁」を視界に捉えた。
それは、巨大な世界樹の枝葉から降り注ぐ、サファイアのような光のドーム。
だが、その美しい輝きの裏側には、選民思想と生贄の呪いが渦巻いている。
「……着いたな。パル、あの壁をどう抜ける?」
バッシュの問いに、パルは青ざめた顔で城壁の異変を指差した。 障壁の一部が、まるで腐敗したように黒ずんでいる。
「……あれは……!? 内部の過激派が、わざと外敵を引き入れるために開いた穴です。……バッシュ様、急ぎましょう。王国が内側から壊される前に!」
新国家の食料供給を支えるための交易路開拓。だがその旅は、エルフ王国の闇を暴く革命の戦いへと変貌しようとしていた。




