第14話 アレキサンダーの指揮鼓舞
南の森の境界線。
七色の霧が「英雄」たちの気配と混ざり合い、奇妙な安定を見せ始めた聖域に、アレキサンダー大王の咆哮が轟いた。
「皆の者、聞けッ! 家を失い、城を奪われた屈辱を忘れたか! ここが我らの新たな出発点だ。我らが王道を、自らの手で築こうではないか!」
アレキサンダーが右手を天に掲げた瞬間、黄金のオーラがさざ波のように周囲へ広がった。
【指揮鼓舞】
その光を浴びた瞬間、200人の民たちの瞳に野獣のような力が宿った。
バッシュの隣で膝をついていたウル王、震えていたミリエル。
そして、かつて冒険者たちを束ね、右腕を失いながらも民を守り抜こうとしていたギルドマスター・ギフターズ。
彼らの筋肉が膨れ上がり、細胞の一つ一つが通常の「100倍」の出力を発揮し始める。
「な、なんだ……!? 失った右腕の先まで、力が……熱い力が溢れてくるぞぉぉ!!」
ギフターズが吠えた。残された左手だけで、数人がかりでも動かせない巨石を軽々と持ち上げ、建設現場の最前線へと躍り出た。ギルドマスターとしての統率力に100倍の膂力が加わった彼は、まさに現場の鬼神と化していた。
「呆けている暇はないわよ、おじさんたち!」
ヒミコが妖艶に微笑みながら、扇で森の一角を指し示す。
「あそこの岩盤を砕きなさい。設計図はアーサーが走り回って描いた通りにね」
アーサー王は少年のように目を輝かせ、驚異的な脚力で森を駆け抜け、地面に木の枝で巨大な円を描いていた。
「こっちに堀を掘って! こっちは門だよ! あはは、これなら一晩で完成しちゃうね!」
アーサーが笑いながら指し示す場所へ、100倍の力を得た民たちが突撃した。通常の人間なら数週間かかる「基礎の掘削」が、彼らが拳を叩きつけるたびに大地が抉れ、わずか数分で完了していく。
「……信じられん。これがアレキサンダーの力か」
バッシュはペンタラゴンを地面に突き立て、その光景を眺めていた。
ギフターズの叱咤激励の下、ミリエルが必死の形相で石材を運び、石垣が垂直に積み上がっていく。かつてバッシュを蔑んだ者たちが、今は泥まみれになりながら「バッシュの国」の礎を築いているのだ。
「フン、ただの土木作業じゃねえか。退屈で死にそうだぜ」
パーカーが黒刀を弄びながら不満を漏らす。
隣では、武蔵のゴーレムが「算木積み」の要領で、巨石をミリ単位の狂いもなく角に並べていた。
算木積みとは城壁の角が最も崩れやすいので、長方形の巨石を交互に積むこと、100倍の怪力でも崩れない強固な基礎になるとの宮本武蔵の説明だった。
「パーカー、退屈ならあっちへ行け。バムバスの斥候が来ているぞ」
冷静なヘクトルの指摘通り、森の入り口では様子を伺うようにバムバスの個体が蠢いていた。
「へっ、わかってるよ!」
アキレウスが豪快に笑いながら、盾を構えて飛び出した。
「おい、パーカー! どっちがあの肉塊を多くバラせるか勝負だ! 負けた方は城門の掃除係だぞ!」
暴れん坊のアキレウスと、血に飢えた異世界の王子パーカー。二人の戦闘狂が戦線へ飛び出し、建設中の民たちに指一本触れさせない鉄壁の防御を敷く。
夜が明ける頃。
そこには、七色の霧を切り裂くように、強固な石造りの外壁が立ち上がっていた。
バッシュは、完成したばかりの真っ黒な城門に手を触れた。
「……ここが俺たちの城だ。名前を決めなきゃならねえな」
空を仰ぐバッシュの背後で、アーサー王が無邪気に笑い、ヒミコが妖艶に目を細めた。




