第13話 英雄集結:森の聖域
石川五右衛門が「鍵」を盗み出し開かれた異世界の門。
そこから溢れ出したのは、先ほどの五右衛門や武蔵をも凌駕する、圧倒的な「格」を持つ者たちの気配だった。
七色の霧が晴れた王道の向こうから、五人の男女がゆっくりと歩を進めてくる。
先頭に立つのは、黄金の甲冑を纏い、威風堂々とした風格を漂わせる壮年。マケドニアの征服王、アレキサンダー大王だ。
その隣には、純白の鎧に身を包み、聖剣を腰に差した若き王――アーサー王。
さらに、古代ギリシャの戦装束を纏った二人の戦士、アキレウスとヘクトルが、かつての宿敵同士とは思えぬほど静かに歩調を合わせている。
そして最後尾から、不思議な勾玉を首にかけ、神秘的な空気を纏った巫女――ヒミコが、その瞳に静かな知性を湛えて現れた。
「……おい、バッシュ。こいつら、どいつもこいつも『王』の器だぜ。一人残らず経験値が測定不能だ」
パーカーが珍しく冷や汗を流しながら、黒刀の柄を握る。
「……あ、あの。あの人たち、どこかで見たことが……」
ヒカリが息を呑む。 彼女の時代の歴史書や神話に刻まれた、伝説の具現者たちが目の前に立っているのだ。
アレキサンダー大王が一歩前に出た。
彼が口を開いた瞬間、森の木々がその威圧感に震える。
「我らは、彼方の『英雄異世界』より参った。調停者よ、そしてその同胞たちよ。まずは武器を収めてもらいたい。我らは戦いに来たのではない。……交渉に来たのだ」
バッシュはペンタラゴンを肩に担いだまま、アレキサンダーの瞳を見据えた。
アーサー王が静かに首を振った。
「我らの世界には、あらゆる次元を蝕み、全てを無に帰そうとする存在『破滅の王』がいた。我ら英雄は総力を挙げて奴を討伐したのだが……。奴は死の間際、残された最後の力で次元の壁を食い破り、この世界へと逃げ延びたのだ」
「破滅の王……?」
メロカが眉をひそめる。
「そうよ」
ヒミコが鈴を鳴らすような声で続けた。
「奴はこの世界のどこかに潜み、癒えぬ傷を癒しながら、再び全てを喰らうための準備を進めている。門が開いたのは、奴が逃げた際に生じた亀裂を、五右衛門が強引に抉じ開けたから。……もはや、我らの世界とこの世界は一つに繋がってしまったの」
バッシュは背後にいる灰色狼の王国の避難民たちに目を向けた。
王城を失い国を追われ泥にまみれたウル王やミリエル。彼らに帰る場所はない。
「……つまり、あんたたちはその『破滅の王』とやらを仕留めるために、俺様たちに協力を求めているってことか」
「左様。我らだけでは、この未知なる世界の理に対応しきれぬ」
アレキサンダーが力強く頷く。
「そこで提案だ、調停者バッシュよ。この南の森……ここは異世界と英雄世界が混ざり合い、強固な結界を形成している。ここに新たな『国』を築こうではないか。我らの力を貸し、貴殿の民を受け入れる聖域を」
「国を、作る……?」
ウルの瞳に、僅かな希望の光が宿った。
アキレウスが不敵に笑い、自らの盾を地面に突き立てる。
「面白そうだ。魔王バムバスとかいう増殖する肉の塊も、この森を拠点にして迎え撃てば、格好の練習台になるだろう」
ヘクトルもまた、冷静に周囲を分析しながら言った。
「英雄と、この世界の民が共生する国か。……容易なことではないが、破滅の王を討つための拠点としては最良の選択だろう」
バッシュは沈黙した。 ペンタラゴンが低く笑う。
【ククク……いいじゃねえか、バッシュ。世界の調停には拠点が要る。バラバラに流れ着いた英雄共を一箇所に縛り付けておけるなら、管理もしやすいだろう?】
「……わかった。あんたたちの提案に乗ってやる。ただし、この国の主導権は俺様にある。文句はないな?」
バッシュの言葉に、アレキサンダーは大笑いした。
「ははは! 覇気のある男だ。良かろう、その条件で盟約を結ぼう!」
ヒカリは、自分たちが歴史の大きな転換点に立ち会っていることを実感していた。
ただ帰りたいと願っていた少女の光が、英雄たちの魂を繋ぎ止める楔になろうとしていた。
「決まりだ。今日からここは、亡国でも戦場でもねえ。……新しい『国』の始まりだ」
バッシュが宣言すると同時に、ヒミコが祈りを捧げ、森の中央に巨大な光の柱が立ち昇った。
それは、惑星ブラッシュワールドに刻まれる新たな神話の第一歩。
英雄と、異能者と、虐げられた民が集う、前代未聞の国家建設が今、産声を上げた。




