4.いきなり監禁
次に意識を取り戻した時、とにかく目の前は真っ暗だった。何も見えないし、ここがどこなのかも分からない。
もはや自分が誰かも分からないけれど。
ベッドのようなものに寝転んでいたが、上体を起こし立ち上がろうとする。
足元でカチャリと音がした。
足首に違和感もあるので、おそらく足枷が付けられている。
そのまま真っ直ぐ前に歩き、壁のようなものに両手をついた。左手を壁につけたまま壁と水平に歩きだす。
しばらく歩いて部屋を多分2周したが、そんなに広くない部屋だ。ほとんど何も置かれておらず、窓もないので地下だろうか。
出口は1箇所、取手のついた扉があったがもちろん鍵がかかっている。まあ開いていたところで足枷がついているので、多分逃げられない。
「困ったな。」
なんでこんなところに閉じ込められているのか。最後の記憶を振り返る。
「そうだ、夜会の会場で疲れて意識失っちゃったんだ。」
私をここに閉じ込めたのは夜会の参加者か、もしくは王宮関係者といった所だろうか?
身代金目的か、はたまた怨恨か、人身売買か。
もはや犯罪の匂いしかしないな。
「なんとか逃げないと。」
目が暗闇に慣れてきたので、他に出られそうな所はないか探し始める。すると、ガチャリと扉の鍵が開けられる音がした。驚いて、背中に嫌な汗が流れる。
「おはよう。ソフィア嬢、今日もとても美しいね。」
急に光が差し込み、眩しくて瞼を閉じる。顔は見えないが聞き覚えのある声だ。
「誰?」
「おや、そんなに警戒しなくても。私です、ニコラス・ペラムですよ。」
「ニコ…テイルストン伯爵?なぜ、このような事を。なぜこんなところに私を閉じ込めたのですか?」
現れた人物が意外すぎて、恐怖よりも疑問が次々と湧き上がる。テイルストン伯爵家は伯爵位の中でも由緒ある家門で、ニコラス自身も領地経営や商売の才もあると評判の人物だ。彼は父の友人なので、ソフィアとも旧知の間柄であり、記憶の引き出しをひっくり返さなくても容易に思い出せる人物である。
「この屋敷で、外から鍵がかけられるのはこの地下室だけだったのです。昨夜は意識のないうちに連れてきてしまったので、起きた時にパニックになって逃げ出されると困ると思い…。このような簡素な部屋に一晩も閉じ込めてしまい、申し訳ありません。」
ん?この人、閉じ込めた部屋が簡素だった事を謝ってるよね?意識のない女性を勝手に連れてきて、閉じ込めて、足枷つけてる事には謝罪してないよね?
一度引っ込んでいた恐怖がまた足元から這い上がってする。
「き、聞き方が悪かったですわね。ではなぜ私はこの屋敷に連れてこられたのでしょうか?」
「まあまあ、そんなに慌てなくても。…お腹空きませんか?朝ごはんを食べながらでもゆっくりお話ししましょう。」
ニコラスは悪びれる様子もなくにこやかに答える。
「エラ、アンナ。」
「「はい。」」
名前を呼ばれた女性2人がニコラスの後ろから現れて、部屋の中に入ってくる。屋敷の使用人のようだ。
一方の女性が私の足元で屈み、足枷を外してくれた。
「ソフィア様、こちらへ。」
「えっ?どこに行くの?」
「そのままの格好では、朝食の席に相応しくありませんので。湯浴みとお召し替えを。」
「そ、そうね?」
当たり前の事ように言われるので、こちらがおかしいのかと錯覚してしまう。抵抗してもいい事はなさそうなので、促されるままに2人の使用人に連れられ、部屋を出ようとする。
「それに、あまり気分のいいものではないので。…他の男の色を纏った貴方を見るのは。」
すれ違いざまに耳元で囁かれ、ぞわりと肌が粟立ち、頬が引き攣った。
「そ、うですか…」
怖い、怖すぎる。父の友人だったけど、ソフィアのことが好きで、拉致監禁ってところかしら。
それに、ニコラスもこれがウィリアムカラーのドレスだと思っているの?
全て侍女が運び込んだドレスと宝飾品で、有無も言わせず着替えさせられた記憶しかないんだけど…
まあとりあえず、身体はベタベタして気持ち悪いし、コルセットは窮屈だし、お腹空いたし、お風呂入って朝ごはん食べて考えよう。
ソフィアはなかなかに呑気であった。




