SS③後編.アレックスの本心【13000PV御礼!】
「いつから気がついていたの?」
「ん?えーと、結婚式前にウィルお義兄様がローゼン領の屋敷に来た時かな。部屋にお姉さんが居なくて大慌てで出て行った後、僕もソフィア姉さんの部屋に入ったんだ。」
「あー。」
あれを見れば、誰でも気がつくだろう。あの時は気が動転していたため、そのまま屋敷を飛び出してしまったが絶対に隠すべきだった。元のソフィアがそうしていたように。本に見立てた入れ物に入れて、ワードローブの奥に隠されていたのだ。
「大方ソフィア姉さんに強引に頼まれて断れなかったんでしょ?」
「今まで黙っていてごめんなさい。」
「そんなの黙ってて当然だよ。」
強引に頼まれたどころか、気が付いたらもう既に入れ替わっていた。しかし、自分の姉が赤の他人と入れ替わっていたら絶対に嫌な気持ちだろうと思い、謝罪する。
「ウィルお義兄様は知っているんでしょ?」
「そうね、全部知っているわ。」
「ならそれでいいんじゃないかな。僕はあの現場を見ちゃったから気が付いたけど、両親もイルお兄様も何も変に思ってないようだし。お姉さんはもう公爵家の人間だから、公爵様さえ良ければ侯爵家の者がとやかく言う事ではないから。」
「ありがとう。」
「最初はびっくりしたけどね。でも悪い人ではない事はもう分かっていたし。この人とんでもない事に巻き込まれんだな、って思ってた。だから、今ちゃんと幸せなのかなって心配になっちゃって。」
アレックスはふにゃりと笑った。この子はなんて人をきちんと見ているのだろうと思う。本物のソフィア姉さんの事も、両親やイルバートの事も、そしてウィリアムと私の事も。全員の人となりを知り、それぞれがどの様に判断して、どういう風に動いたのか。それを正確に理解していると思う。
「今、本当に幸せよ。心配をかけてごめんなさい。それからありがとう。」
ソフィアは涙ぐみながらアレックスを抱きしめる。
「それから、貴方の本物のお姉様も別の世界で夢を叶えて幸せにしていたわ。」
「そっか。それは良かった。」
アレックスの声も震えていて、顔は見えないが泣いているのかもしれない。ふたりはしばらくそのまま馬車に揺られていた。
「じゃあ、また遊びに来てね。」
侯爵邸に到着する頃にはいつもの笑顔のアレックスに戻っていた。
「ええ。また次のお休みも会いにくるわ。イルお兄様の結婚式もあるし。楽しみな事がいっぱいね。」
「ライラお義姉様のドレスも姉さんが作ったんでしょ。それを見られるのもすごく楽しみ。」
「ふふ、ありがとう。」
ドレスを楽しみにしてくれている事も、正体を知った上でもまた『姉さん』と呼んでくれる事にも感謝を伝える。ソフィアは目を細めて笑った。またすぐに会えるのに名残惜しく思っていると、外で馬車が走り込んでくる音がした。慌ただしく馬車の扉が開閉する音がして、その後は侯爵邸の玄関の扉がバァーンと勢いよく開けられた。
「これはこれは、アレックス。久しいな。」
「お久しぶりぶりです。お義兄様。」
「しかし、いくら可愛い義弟殿でもソフィアをこんな時間まで独り占めは良くないな。」
「はぁ…。」
ウィリアムの意味の分からない発言にソフィアは半眼でため息をつく。
「ウィル様。今はまだ夕刻です。そして今から帰りますから。貴方は毎日一緒にいるでしょう。」
「はは。ウィルお義兄様は本当に姉さんが大好きだよね。今度は、お義兄様も一緒に出かけましょう。」
アレックスの可愛い提案にギョッとしてウィリアムを見ると、目がキラッキラに輝いている。休みを取ってソフィアと一緒にいる大義名分を与えられたのだ。まあ、ウィリアムもアレックスも嬉しそうだからいいかとソフィアは諦める。アレックスがあんなに苦手そうにしていたウィリアムを受け入れて仲良くしているのも嬉しい。ソフィアは今度こそ侯爵邸を後にした。
僕には姉がふたりいる。ひとりはソフィア姉さん。我が儘で頑固で、でも誰よりも一生懸命で夢に向かって頑張っていた。本当に素敵な姉だった。もうひとりはソフィアお姉さん。優しくて頼まれたら断れない性格だけど、決して弱くはない。本当はすごく強い人。素晴らしい姉だ。そういえば近々、もうひとり姉が増える予定だ。ライラお義姉様。賢くて面倒見が良くて、器の大きい人だ。彼女くらいの人でないと、マイペースなイルお兄様のパートナーは務まらないと思う。
ふたりの兄もまあまあいい人たちだと思う。頭はいいけど天然マイペースで人を振り回すイルお兄様。勉学、魔法、剣術なんでもできて、計算した上でみんなを振り回すウィルお義兄様。ふたりとも優しくて、ソフィアの事も自分の事も大切にしてくれている。いい兄姉に恵まれたと心から思う。
「ウィル様、お仕事はどうされたんですか?帰宅が早すぎます。」
「いや、あの。ソフィーが心配で…」
侯爵邸の玄関の外からソフィアとウィリアムの声が聞こえてきた。
「わたくし、こんな時間に心配されるような歳ではございませんよ。それともまだ信用いただけていないのかしら。」
「そんなわけないだろう。ソフィーの事は100パーセント信じている。それとこれとは話が違う。」
侯爵邸の前で公爵様と公爵夫人が痴話喧嘩するのは本当にやめてほしい。アレックスは出て行こうか、出て行くまいか悩みながら、さっきの心の中での褒め言葉は全撤回しようかと思うのだった。
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