SS①後編 頑張れ、お兄様【5500PV御礼!】
それからも会う人会う人にプロポーズについて聞いて回ったが、有力な情報は得られなかった。
「それで最終的にわたくしの所に来たと。」
「そうなんだ、ソフィー。何かいい案はあるか?誰も彼も参考にならなくて。」
「お兄様、皆さんのお仕事の邪魔になっているのではなくて?」
ソフィアはイルバートとジトリと睨め付ける。
「いや、そんなに長話をしていたわけじゃないし…邪魔なんて…。ゴメンナサイ。」
イルバートはしゅんと項垂れる。
「ふふふ。でも、お兄様が真剣な事は伝わりました。」
「じゃあ!」
イルバートは勢いよく顔を上げる。
「ええ、一緒に考えましょう。」
「ありがとう、ソフィー。」
「まず、お相手のライラ様はどのような方ですか?」
「ライラは王宮で文官をしている優秀な女性だ。学生時代の同級生で、学生の頃から頭が良く優秀で、みんなから頼りにされていた。今振り返れば、その頃から彼女を好ましく思っていたのだと思う。」
学園に通う令嬢には将来の結婚相手を探しに来ているような者も少なくない中、彼女の存在は異質でありながら、唯一無二の気高さを感じた。彼女はいつも図書室でひたすらに勉学に励んでいた。そして、令嬢に追いかけられていたイルバートを、何度も図書室で匿ってくれた。その後はよく、ふたり隠れて話をした。ライラは博識で色々な事を知っていた。彼女と話す時間はいつもすごく楽しかった。卒業後も文官となったライラとは王宮でよく顔を合わせ、今では普通に話せる唯一の(独身)女性と言っても過言ではない。他に話せるのは母とソフィアとエアリス、騎士団で働く事務員の女性くらいだ。
「…それ、学生時代から普通に恋仲だったようなものでは。」
「え?」
「たぶんライラ様が今でも独身なのは、お兄様のせいですね。」
「えぇ?」
「ずっとプロポーズをお待ちだったのでは?それをそんな思いつきのように扱われて。どんなに傷ついたことか。」
「えぇぇ!」
「傷心の所を慰めてくれる殿方とのスピード婚もあるかもしれませんね。ライラ様のご実家は由緒ある伯爵家ですし、ご自身も美しい方だと記憶しています。実はこっそり人気があると思いますよ。」
半分は想像による脅しだが、大きく外れてはいないだろう。そして、イルバートの恋愛音痴は相当ひどいな、とソフィアは思う。
「それは困る!どうしたらいい?!」
イルバートがソフィアの肩をガシリと掴む。
「そうですね…。ライラ様のお好きな物などご存じないですか?」
「ライラの好きな物か…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…信じられない。」
ソフィアが軽蔑の眼差しでイルバートを見る。
「いや待て。何か知っているはずだ。」
「…。」
「甘いもの!そうだ、甘いものをよく食べていた。頭を使うと甘いものが食べたくなる、とよく言っていた!」
「いいですね!じゃあ、流行りのスイーツ店でも予約して一緒に行ってみるのはどうですか?それから指輪と花束を渡してプロポーズ。デート1回目でプロポーズは早い気もしますが、長い付き合いですので、ライラ様も(たぶん)許してくださいますわ。」
ソフィアはニコリと微笑む。
「それはいいな!すぐに店を探して予約を取ってくる。ありがとう、ソフィー。」
「いえ、健闘を祈っています。上手く行ったら結婚式のドレスは当店にご用命を。」
イルバートは右手を挙げてソフィアブティックの正面から出ていった。
「ははは。イルも必死だな。」
「ウィル様、裏口からお入りに?」
背後からウィリアムの声がして、ソフィアは驚いて振り返る。
「ああ。店の中にイルの姿が見えたから、面白そうだなと。裏口から入ってこっそり盗み聞きさせてもらった。」
「まあ。」
「私とレイの貴重な時間を奪ったのだ。それぐらい許されるだろう?」
「レイモンド様のお時間は貴重ですが、ウィル様はなぜそのような時間にレイモンド様の執務室に?」
昨日ウィリアムから、イルバートがレイモンドの執務室に訪ねてきた事の報告は受けていたのだ。
「ふむ…。」
「ふふふ。」
ウィリアムが腕を組み黙り込んだので、ソフィアは思わず笑ってしまった。イルバートのプロポーズは、まあたぶん大丈夫だ。彼がプロポーズの仕方をあちこち聞いて回っている事はすでに王宮中に知れ渡っているようで、ついに『イルバートも結婚か!?』と噂になっているらしい。もちろんライラ様のお耳にも入っている事だろう。彼女であればイルバートの真剣さを汲み取ってくれるはずだ。
「頑張れ、お兄様。」
ソフィアは胸の前で両手を握りしめた。
お読みいただきありがとうございます!
本編の完結後、更にたくさんの方々に読み頂き、驚きとともに感謝の気持ちでいっぱいです。
またブックマーク、評価、リアクションも本当に嬉しいです。ありがとうございます。
実は、『満身…』は数年前に骨組みが出来上がっていた作品なので、全く新しい話を作ったのは久しぶりで、ソフィアたちの新しいストーリーを描けてすごく楽しかったです。
これからも、彼女たちの物語を形にして時折アップしていきたいと思います。
では。




