29.ふたりの門出
無事に引っ越しを終えた2週間後、私たちの結婚式が行われた。
雨が多い季節なので心配したが、その日は見事な快晴であった。
朝から式典、パーティー、お披露目のパレードが続くという事だったので、ドレスはエンパイアラインの物にさせてもらった。ウエストのコルセットがない分、窮屈なドレスに慣れていない私でも何とか1日耐えられるだろうと判断したのだ。
色の縛りはないとのことだったので紺色に決めた。スカート部分は柔らかいチュールを重ね、バックリボンの付いた可愛らしいデザインにしている。胸元には金色の糸で紫陽花の刺繍をしてもらい、髪には赤い紫陽花を豪華に飾ってもらった。
「ほう、まるで花の妖精のようだな。綺麗だ、ソフィー。」
「ウィル様も素敵です。」
ソフィアの控え室にて、世に言うファーストミート中である。
ウィリアムは紺色のタキシードに、金色の紫陽花をモチーフにしたブローチをつけている。
当初本人は、栗色のスーツにエメラルドグリーンのシャツを着ると言っていたのだが全力で止めさせてもらった。せっかくのソフィアのドレスが台無しになるところである。プローチに小さなエメラルドをつけることで納得してもらった。お馴染みのエメラルドのピアスはもう日常から付けっぱなしなので説明は割愛する。
「さあ、今日一日頑張ろう。」
「ええ、よろしくお願いします。」
2人は微笑み合い、手を繋いで式典の会場に向かった。
厳格な式典の後、王城の中庭でガーデンパーティーを行い、昼からパレードで王都の市民に挨拶して回った。
全てが終わった後、それはもうまさしく満身創痍であったが、やり切った達成感に満ちている。そして、
「これで自由だ。」
ウィリアムが声に出してしまったが、そう言うことである。王族を離脱して、一公爵となった我々は、
「これで、我々の事業を大々的に発表できるな。」
そう、やはりこの国では王族の間は、自分の名義でお店を持つことはできなかったのだ。幼いアレックスはよく分かっていなかったようだが、もちろんソフィアはこの事を知っていただろう。しかし、公爵夫人であれば、土地と簡単な許可さえ取れば自分の名義で店を開くことができる。ウィリアムと結婚したとしても店を持つ抜け道があったのだ。
「でもこれで良かったんですか?」
何度も聞いていることだが、最終確認である。
「ん?ソフィアがドレスを作る。ドレスを気に入って買う者がいる。それを着て幸せな気分になる者がいる。それを見てソフィアが幸せになる。幸せなソフィアを間近で見られる。こんな幸せな仕事はないだろう?」
冗談っぽく言っているが、これがウィリアムの本心である事はよく分かっている。
ソフィアは涙目になりながら笑う。
「では、ウィル様を幸せにするのも私の仕事ですね。」
「そうだな。よろしく頼む。」
ウィリアムは金色に輝く目を細めてソフィアの頭を優しく撫でた。
結婚式の余韻に浸る暇もなく、翌日から開店準備に追われ、予定通り1週間後にソフィアブティックが開店した。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」
ソフィアが優雅な笑顔で出迎えると、初めて店に来た令嬢の多くは驚き固まる。まさかソフィアが直接接客しているとは思わないのだろう。元ソフィアのデザインが山盛りあるので、現ソフィアは針子や職人たちとの打ち合わせ以外は特にする事がなく、時間が空いている時はこうして自ら店頭に立って接客しているのだ。アパレル業界に入った最初の一歩が店頭スタッフであったソフィアにとってここが原点である。とても楽しい。最終的に皆、嬉しそうにドレスを選んで、満足そうに帰って行く。
ちなみに現ソフィアがデザインして、自ら着用したドレスも需要が高く、色違いのオーダーが次々と入っている。
「やあ、今日も繁盛しているな。」
「ウィル様、もうお戻りだったのですね。」
こうしてウィリアムも登場する事があるが、そうなるともう店内はフィーバーである。
ソフィアとウィリアムがお揃いの正装で式典やパーティーに現れるたびに着実にカップル推しファンが増えていき、2人の結婚式でその数が爆発的に増えたという。
ウィリアムは副職として、ソフィアブティックの共同経営をしてくれているが、本職は国王直属の魔法騎士団の団長である。
ソフィアを追いかけ回して暇そうだとの声も上がっているが、ウィリアムとレイモンドが怖すぎて、周辺国はちょっかいをかけてくる事はないそうだ。もちろんこちらから仕掛けることもないので、この国は平和だし、結果として魔法騎士団はとても暇である。たまに魔獣騒ぎで駆り出されるくらいだが、ウィリアムが出る幕ではない。
そういえば、結婚式の後ウィリアムからとても怖い話を聞いた。もしもレイモンドの婚約者指名の儀の後でもソフィアとの状況が変わっていなければ、彼はソフィアを諦めるつもりだったそうだ。虐げられても追いかけ続ける鋼のメンタルの持ち主だと思っていたが、『流石に辛かった』らしい。あのタイミングで入れ替わっていなければ、少なくとも私とウィリアムの今の幸せは手に入っていなかっただろう。元ソフィア自身も渋々ウィリアムの指名を受けて王子姫になるか、それでも拒否して領地で細々とお店を開いたのかもしれない。元ソフィアのメモにも書いていたが、本当にギリギリのタイミングであった。
『もしも』なんて言い出したらキリがないのだが、今この結果になって、3人ともに幸せになれる結末を迎えられて本当に良かったと思う。
お読みいただきありがとうございます!
連載始めた頃は、緊張してなかなか投稿ボタンが押せず、予約投稿に頼ってしまい、テンポが悪くすみませんでした。
(ブックマークや評価、リアクションを数件いただき、本当に勇気が出ました。ありがとうございます。)
今回の連載は、あと1話で一旦完結とさせていただきます。今日の夕方くらいにアップ出来ると思います。
最後までよろしくお願いいたします。




