28.帰り道
「ソフィア!」
慌てた様子のウィリアムが店の中へ入ってくるところだった。ウィリアムはソフィアの方へ真っ直ぐ歩いてきたが、あと二、三歩のところで立ち止まった。
「ウィル様?」
ソフィアが首を傾げてそう言うと、ウィリアムの不安げな表情が消えて涙目に変わる。
「ソフィア、行ってしまったのかと思った。よかった。」
「ウィル様はどうしてここに?」
「サプライズで領地までソフィアを向かいにきたのだが、屋敷に姿はないし、部屋の机には怪しげな地図と、不穏なメモが残されているし。君が元の世界に戻ってしまったと思って。怖くて。」
ウィリアムが小さく見える。
ああ、また驚かせてしまった。
「どこにも行きません。ずっと一緒にいて、共に幸せになると約束したでしょう?大丈夫、ここにいます。」
ソフィアは小さなウィリアムを抱きしめた。
カミラに笑顔でお別れし、また来ますと言ったが、
「「もう来んでいい!」」とカミラとウィリアムからダブルで突っ込まれたので、もう二度と会うことはないだろう。
帰り道はウィリアムのお叱りから始まった。
「ところでソフィー、私との約束が守られていない様だが?」
「や、約束ですか?」
「その1、ひとりで出歩かない。」
領地では1人で街歩きしまくっていたなどとは口が裂けても言えないな。
「その2、出かける時は外出先と外出理由を伝える。」
そう言えば、何も言わずに屋敷を飛び出してきたような…
「屋敷の使用人が誰1人、ソフィアが出かけてることすら知らないとはどういう事だ。」
ウィリアムの顔は笑っているが、めちゃくちゃ怖い。この感じ、久しぶりだ。
「申し訳ございません。」
「危ないし、驚くし、びっくりするし、怖いから、絶対にやめなさい。」
驚くとびっくりは一緒ですよ、というツッコミはやめておこう。流石に良くなかったので、素直に謝る。
「はい、分かりました。ごめんなさい。」
今度から、せめて使用人1人くらいには伝えよう。
早々に話題を変えたい私は、このタイミングで確認するしかないと決意する。
「ところで、私が本物のソフィアでない事をいつから知っていたんですか?」
『元の世界に戻ってしまったかと』って言っていたし。
「さっき見たメモと、お店の地図を見たときだ。黒魔法で当人同士の了承があれば、中身を入れ替える秘術があると聞いたことがある。『いろいろな世界』とメモにもあったし、となれば、異世界の誰かと入れ替わっていたのだろうと思った。」
「すごいですね、正解です。」
当人同士の了承については初耳だけど。
「君は、このままでいいのか?元の世界に戻りたくは…」
ソフィアは両手でウィリアムの口を塞ぐ。
「一緒にいるって約束しましたよ。ウィル様こそ、私でいいんですか?私は本物のソフィアではないんですよ?」
ウィリアムは口元にあるソフィアの手を掴み、自身の胸元に引き寄せる。
「ああ、君がいい。」
「よかった。少しだけ心配していたんです。『ソフィアじゃないなら、婚約破棄』になるんじゃないかと。」
「そんな訳ないだろう。君は正真正銘ソフィアだ。」
自分の秘密を全て打ち明け、丸ごと受け入れてもらえた事に安心して頬が緩む。
「向こうのソフィアも楽しそうに暮らしていましたよ。夢が叶って今がとても幸せと言っていました。」
「そうか、それは嬉しい知らせだな。」
そう言いながら、ウィリアムは目を細めて遠くの空を見上げた。やっぱり、元のソフィアも大切な人には変わりないんだな。『妹のように可愛がってくれていた』という彼女の言葉を思い出す。
「私を選んでくれてありがとう。」
無意識に口からこぼれた言葉に、ウィリアムが一瞬目を見張り、その後ふっと表情が緩む。
「では、私からも。この世界に残ってくれてありがとう。」
ああ、もう大好きだ。
「これからもどうぞよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそ。」
ウィリアムとソフィアは仲良く手を繋ぎ、屋敷に向かった。
「ところでソフィー、荷造りは終わったのか?」
「…。」




