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満身創痍だったのでちょっと愚痴をこぼしたら、さらに身も心も削られました  作者: 朔島 涼


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3.いざ夜会という戦場に

会場の扉を前にして、無意識にゴクリと喉が鳴る。いよいよ夜会という戦場に飛び込むのだ。

令嬢歴たった30分のこの私が。


今のところインストールされた記憶にミスはない。

顔も名前も一致している。

所作も身体に叩き込まれているため、自然と令嬢っぽい振る舞いができている。

イケる。と思ったんだけど…


「人が、多すぎる。」


夜会に入場した途端、回れ右してそのまま退場しそうになった。同じような歳の令嬢ばかりがたくさん集められているため、顔は知っているけど面識がないのか、ある程度面識があるのか、はたまた全然知らない人なのか、その辺の曖昧な線引きができない。

完全に記憶のアウトプットエラーが起こっている。


やっぱり無理。全然イケない。

今までは身近な人や有名な人しか登場しなかったから、記憶に強く残っていて何の問題もなかったのね。


「レイの婚約者になり得る、国内ほぼ全ての未婚で婚約者のいない令嬢が集められているからね。国王や王子の婚約者指名は建国当初から行われている伝統のイベントなんだよ。と言っても近頃では形だけで、『私の婚約者はこの人です』というお披露目の要素が大きい。この夜会で改めて誰かを選ぶわけじゃないから、参加している令嬢側も『他の令嬢の家族や王宮の騎士の中でいい人はいないか』と、出会いの場として割り切っているんじゃないかな。」

「そうですわね。丁寧なご説明ありがとうございます、お兄様。」


『ソフィアはまだ自分が選ばれたいと思っている』


そんな風にイルバートは考えているのかしら。ソフィアってそんな世間知らず、頭の中お花畑な感じじゃなかったけど。


「イルバート様、ソフィア様お久しぶりでございます。」

「久しぶりだな、ネルケ男爵令嬢。息災か?」

「はい、お陰様にございます。」

たった今声をかけてきたこの令嬢こそ、レイモンド殿下の恋人であり、今日婚約者に指名させるであろう婚約者、エアリス様だ。


本物のソフィアであれば、複雑な気分でお相手していたのかもしれないが、私は内心ガッツポーズをしていた。なんたって確実に知ってる相手なのだから。


「エアリス様、お元気そうで何よりです。今日のドレスもお似合いで一段とお美しいです。」

エアリスは白の生地に金の刺繍が施されたプリンセスラインドレスを身にまとい、赤みの強い髪を綺麗に編み込み左肩に流している。ドレス自体が首、手首まで隠れるデザインのため、宝飾品はサファイアが嵌め込まれた大振りの金のイヤリングのみだ。おそらく全てレイモンドが用意したのだろう。


洗練されたデザインのドレスとイヤリング、それを見事に着こなせるエアリス。

「とても素敵です。」

思ったことをそのまま口にすると、彼女は頬を染めて恥ずかしそうに一度俯いたが、

「ありがとうございます。」

と花が咲いたような笑顔を返してくれた。


エアリスが去っていくと、次から次へ夜会の参加者が2人の元へとやってきた。軽く挨拶をして去っていくを繰り返していたが、段々と令嬢に囲まれるイルバートから距離ができてしまった。ひとりでは心細くなってきたため、こっそり壁際に移動する。


「うぅ…緊張と人酔いと記憶の照らし合わせ作業で気持ち悪くなってきた。」


「両陛下、レイモンド殿下のご入場です。」

近衛騎士が何人か現れたなと思っていたら、王族の入場の合図が出された。それまで歓談していた声が鎮まり、皆礼の姿勢をとる。

両陛下に続いてレイモンドが会場の壇上に現れた。

エアリスと同じ白地に金の刺繍を施した正装に身を包み、王妃譲りのプラチナブロンドの髪を後ろに流した彼は記憶の中の姿よりも数段美しい。


「我が息子、レイモンドのためにこの夜会に参加いただき感謝する。これよりレイモンドの婚約者指名の儀を執り行う。」

国王陛下がそう言うと、レイモンドが壇上から降りて真っ直ぐにエアリスの方へやってくる。彼はエアリスの前で跪き、一輪の青い薔薇と、その薔薇に水色と白のリボンで結ばれた婚約指輪を差し出す。


「ネルケ男爵ご息女エアリス・クラエス嬢、私サムスクライン王国の第一王子レイモンド・フォン・サムスクラインの妃となっていただけますか?生涯大切にし、幸せにすると誓います。」

エアリスが薔薇を受け取り、膝を折る。

「喜んでお受けいたします。」


その声を合図に、大歓声と割れんばかりの拍手が湧き起こる。レイモンドは金の瞳を細め、泣き笑いのようなくしゃくしゃの笑顔で薔薇のリボンを解くと、サファイアが嵌め込まれた金の婚約指輪をエアリスの左手の薬指に通した。


という一連の儀を横目で見ながら、私は意識が朦朧としてきて、婚約承認後の大歓声で意識を失った。

もちろん選ばれなかったショックからではない。完全に神経が疲れ切ってしまったのだ。


侯爵令嬢が意識を失ったとなれば、大騒ぎになりそうなものだが、壁際に移動していた事、会場中の視線が主役の2人に向いていたため、ソフィアが倒れた事は誰の目にも止まらなかった。ソフィアに熱い視線を送るひとりの男を除いては。


「ああ、可哀想に。でも大丈夫、私がレイモンド殿下よりも大切にしてあげますからね。」

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