26.魔女カミラとの再会
それから半年が経ち、結婚式に着るドレスは無事に仕上がった。ソフィアブティックの方も、店舗を決めて内装を整え、オープン時に店に飾るドレスもほぼ仕上がっている。後は開店の日を待つだけだ。
ブティックのオープンは結婚式の1週間後。結婚式の後は開店準備で忙しくなる予定のため、式の前に新居に引っ越す事になり、今は絶賛荷造り中である。
ちなみに、王都の侯爵邸にはいつでも立ち寄れるため、領地の屋敷にあるものを整理するべく、ローゼン領に5日間ほど滞在する予定だ。
「こっちのワードローブにあるドレスの方が、変わったデザインのものが多いから、全部持っていきたいのよね。国外から取り寄せたもののようだし。」
ドレスを全部詰め込んだので、すごい量の荷物が出来上がっている。これでは乗ってきた馬車には絶対に乗り切らない。荷馬車も頼まなければいけないな。そんな事を考えていると、すっからかんになったワードローブの隅から美しい装丁の分厚い本が出てきた。
よくみると普通の本ではなく、パカっと2つに分かれる入れ物のようだ。中には紙が何枚か入っていたので、部屋の机に広げてみる。一枚は地図で、領内の街のどこかを記しているようだ。
「ここが1番栄えてる大通りで、示しているのは一本裏道かな?」
後の数枚はメモの様な物で、
『探していた魔女の店を見つけられた。これでひと安心。』
『やっと店を見つけたのに、ちょうどいい人が見つからない。』
『いろんな世界を観れるのは面白いけど、少し焦ってきた』
『出発まで、残り1週間』
『後、5日』
『もう3日しかない』
『明後日には出発』
メモはそこで終わっている。
おそらく『ちょうどいい人』として、私を見つけた日であろう。
「魔女の店…。ここに行けば、私がどうやってここに来たか分かるのかしら?」
もちろん元の世界に戻りたいわけではなかったが、好奇心がむくむくと湧き上がり、気がついたら屋敷を飛び出していた。
地図が示していたのは、魔女カミラの店であった。この世界の魔女とは、黒魔法を使う女性のことだ。
コンコンコンとノックして中に入る。
「いらっしゃい、ソフィア。その姿を見るのは久しぶりじゃな。」
薄暗い店の中には、話し方はお婆さんののようだが、見た目は30歳くらいの美しい女性が座っていた。黒いローブを被り、その姿は元の世界でイメージされる魔女そのもの。
「貴方が、私とソフィアの魂を入れ替えたのですね。」
「いかにも。じゃが、其方も望んだことゆえクレームは一切受け付けつけないがね。」
「軽い愚痴のつもりだったんですけどね。」
ソフィアは苦笑いをこぼす。
「この世界でうまくやっている様で安心したよ。クレームは受けつけんが、心配はしておった。召喚して早々に誘拐されておったしな。」
はははとカミラは豪快に笑う。
「そんな事もありましたね。」
いろいろありすぎてもはや遠い過去の様だ。
「其方の世界でも、あやつはすっかり馴染んでいるようじゃ。」
「彼女の様子が分かるんですか?」
ソフィアは身を乗り出す。
カミラは無言で頷き、目の前に置いてあった水晶玉に手をかざす。すると水晶玉はぽぅと光り、懐かしい風景を映し出す。
「これは、私?」
「そうじゃよ。今はあやつの魂が入っておるがな。」
私は水晶玉に映る『自分』の姿を見て固まった。
元々の自分とは思えないほどに洗練されたスタイル、身なり、髪型をした女性が写っており、彼女はカメラの前でマイクに向かい、何やら話しているようだ。
「あやつは、『ネットはいしんしゃ』という職業に転職し、あちらの世界ではそこそこ有名なようじゃ。」
「は?」
おおよそ侯爵令嬢と思えない声が漏れてしまった。
「来月には自分のブランドを立ち上げ、経営者にもなるようだがな。」
「はぁぁ?!」
私のあの平凡な人生、たった10ヶ月ほどで何をどうしたらそんな事になるのよ…。
部屋に置いていたプライベート用のパソコンと仕事用のパソコン、会議用のカメラが、配信用のPC&カメラと動画編集用のPCに見事なジョブチェンジをはたしている。
ソフィアは服飾関係のお店を持ちたかったというのはほぼ当たっていたが、現在の彼女の偉業はソフィアの想像のはるか上を行っている。
「彼女と話をする事は?」
「可能じゃよ。あやつも、其方がここを訪ねてきてそれを望むなら魂を繋げて欲しいと言っておった。」
ローブの女性は視線を水晶玉に戻す。
「おっ、ちょうど『はいしん』が終わったようだ。ちょっと声をかけてみるから、そこで待っておれ。」
そういうと、目を閉じて何やらブツブツ呟きはじめた。




