25.着々と
以前の世界の経験から、自分でブティックを立ち上げるためには、針子や工房を一軒一軒まわって交渉する覚悟していた。しかしながら、ウィリアムのツテと、ソフィアのデザインしたドレスの評判で、契約したい針子や工房が殺到し、ありがたい事にこちらが選べる立場となる程だった。
ソフィアが納得できる技術や技能を持つ針子、求める生地やパーツを作ってもらえる工房と契約を交わして、沢山あるドレスのデザインのうち、ひとまずは数着の商品化に向けて打ち合わせを開始した。もちろん自身の結婚式のドレスの製作も同時に進行する。
「ここのレースはステラさんのところでお願いできる?」
「こっちドレスの生地はどれくらいで出来上がりそう?」
「ブルーノさん、ここの刺繍なんですが、もう少し青みの強い色でしてみるのはどうかしから?」
「このドレスのチュールは、もう少し柔らかい方が動きが出ていいんじゃないかしら?」
商品がドレスという購入層が狭く、購入頻度も低いものであるため、量産する必要はないのだが、その分ひとつひとつに思い入れが強くなり、1つ仕上げるのにもなかなか時間がかかる。
「ソフィー、お疲れ様。少し張り切りすぎではないか?ケーキを買ってきたから、皆も少し休憩にしよう。」
ウィリアムが入ってきたのは、ソフィアと職人や針子たちが打ち合わせをする侯爵邸の応接室だ。ウィリアムの言葉で侯爵家の使用人たちがお茶の準備を始める。
「まあ、ありがとう。そうね、休憩にしましょうか。楽しくて、ついつい時間を忘れてしまうのよ。」
ソフィアが困ったように笑う。
「それは君の素敵なところだと思うが、無理しすぎて倒れないように。」
ソフィアの両肩に後ろから手を置き、顔を覗き込む。
「はい。」
ソフィアは頬を染めながら頷く。この距離感にはまだまだ慣れそうもない。その表情を見てウィリアムは嬉しそうに微笑み、それから顔を上げてその場にいる全員と目を合わせる。
「皆もだ。」
「「「はい!」」」
一同は美味しいケーキと紅茶でゆっくり休憩したのち、再び打ち合わせを再開した。
「疲れているところ申し訳ないのだが、2つ相談したい事がある。少しだけ時間をもらえるか?」
打ち合わせがひと段落ついたところで、部屋の隅で大人しくしていたウィリアムが話しかけてきた。
「ええ、もちろん。どんな事かしら?」
ソフィアはニコリと微笑み、ふたりで隣の部屋に移動する。
「実は、ソフィアブティックの出展場所を探していると知り合いの商会長に相談していたのだが、良さそうな場所をいつくか紹介してもらってね。明日、時間があれば一緒に見に行かないか?」
ガシッ。
「時間あります!行きます!ありがとうございます、殿下。」
思わず抱きついてしまったが、ウィリアムによしよしと頭を撫でられる。
「そうか、喜んでもらえて私も嬉しい。ソフィーが気にいる場所が見つかるといいな。」
「殿下も一緒に来ていただけるのですか?」
「もちろん一緒に行くよ。しかしソフィー、殿下はいただけないな。私たちはもうすぐ結婚するのだし、そしたら私は殿下ではなくなる。」
「では、何とお呼びしましょう?」
「昔のようにウィルと。」
「…ウィル様、ありがとうございます。」
そうお礼を言えば、ウィリアムはそれはそれは嬉しそうに笑うので、これからは毎日ウィル様と呼ぼうと決意する。
「もうひとつの相談は、何だったのですか?」
「もう一つは、私たちのタウンハウスの改装が終わったので、家具を一緒に選びに行けたらと思って。」
ウィリアムが臣籍降下するにあたって、王族が保有してた王都の屋敷と、元々ウィリアムが管理していた領地を賜与され、その屋敷を公爵家のタウンハウスとして改装していたのだ。
「もちろん一緒に選ばせてください。楽しみですね。」
「ああ、よろしく頼む。ふっ…」
「わたくし、何かおかしな事言いましたか?」
「いや、すまない。店の報告の時とテンションが違いすぎて…よほど仕事が楽しいんだなと…可愛くて…くく。」
謝りながら、まだ笑っている。
「どちらの報告もすごく嬉しかったですよ。でも、お店の方はウィル様が動いてくれている事は知らなかったので、嬉しいのとびっくりしたのとで…っていつまで笑ってるんですか。」
「あー可愛い。」
あー可笑しいのイントネーションで言われても、とジト目でウィリアムを見る。
「子どものようだと揶揄っておいでですか?」
「ふふ…。いつも何をやっても完璧なソフィーが、私の前でだけ可愛いのが嬉しくて…笑いすぎてすまなかった。」
ウィリアムは人を喜ばせる天才だと思う。報告も含めていい事しか運んでこない。天使かな?
「わたくしもウィル様と一緒にいると、楽しくて嬉しくて、あったかい気持ちになります。いつもありがとうございます。」
ウィリアムには思った事を素直に、きちんと伝えるようにしている。過去のソフィアの対応が悪すぎたせいで、私の気持ちは未だ半分くらいしら信用されていないのだ。
ウィリアムはソフィアを眩しそうに見つめ、「ああ、ありがとう。」とお礼を言った。




