24.ソフィアの出番
侯爵邸に着き馬車の扉が開くと、扉の死角から手が出てきた。使用人であればそのような角度から手を出す事はない。
「ウィリアム殿下、只今戻りました。」
「何だ、バレてしまったか。」
「2度目は引っかかりませんわ。」
イタズラに失敗した子どものような表情のウィリアムに、ソフィアはクスクスと笑う。
「殿下、会いたかったです。」
初対面の時からキラキラしていたウィリアムだが、自分の気持ちを自覚してから会うとさらに眩しく見える。
「ああ、私もだ。」
ウィリアムがニコリと微笑む。
「…で、早速で悪いんだが、応接室にドレスと針子たちを待たせている。試着と手直しに付き合ってもらえるか、デザイナー殿?」
ソフィアは心の中で盛大にずっこけたが、実際の体勢は令嬢魂で1ミリも崩さず微笑んだ。
「ええ、もちろん。」
ソフィアの心の変化に気がついていないウィリアムには、いつもの社交辞令にしか聞こえていないのかもしれない。時間はこれからたくさんある、徐々に気がついてもらえればいいわ。そう思い、ソフィアは気持ちを仕事モードに切り替えて応接室に向かった。
「ローゼン侯爵ご息女ソフィア・オリヴィエ嬢、私サムスクライン王国の第ニ王子ウィリアム・フォン・サムスクラインの妻となっていただけますか?生涯大切にし、共に幸せになると誓います。」
「喜んでお受けいたします。」
レイモンドの婚約者指名の時は、人酔いで会場の隅で倒れ、誘拐されていたのが遠い昔のようだ。ほんの数ヶ月前のことだというのに。あの時はまさか、自分がこちらに立つ側に立つなど想像もつかなかった。
婚約者指名の儀礼の後、結婚後はウィリアムが臣籍降下して新たに公爵家を名乗る事を発表した。
ちなみに、王位継承権は当面そのままだが、王太子夫妻に男子が恵まれれば、それも放棄したいという。ウィリアムに国王になる意思がないというのはもちろん嘘ではないと思うのだが、本当の理由は別にある。
今日のソフィアの装いは、白のフワフワのプリンセスラインのチュールドレスに小さな赤い宝石を散りばめて、ウエストに赤いリボンを結んでいる。頭はアップにしてもらい、ガーベラを何本も飾ってもらった。もちろん色は赤色のものをメインにしている。ドレスもガーベラもかなり華やかなため、アクセサリーはシンプルな金の台座に青みの強いアイオライトを載せたイヤリングとペンダントを選んだ。ウィリアムは対となる白いタキシードに赤いベスト、胸元には赤とグリーンのガーベラを飾っている。耳元には前回と同じエメラルドのピアスを付けた。
ソフィアがデザインしたドレスは今回もとても好評で、ウィリアムはついにソフィア自身がデザインしたドレスであると暴露してしまった。すぐに会場中で話題となり、どんどん人が集まって来る。
2人の周りには何重にも人だかりができ、皆ドレスの話を興味深そうに聞いてくれる。気分を良くしたウィリアムが、立太子の義で身につけていた赤いドレスもソフィアがデザインしたものだとバラしてしまい、さらに会場を驚かせた。最初にデザイナーのデザイン画を見てダサいと思ったが、この国ドレスはそれと同じようなデザインのドレスが多い。それが一般的なものなのだろう。それなのに、あんなに否定してごめん。彼は相当驚いた事だろう。そして、その分ソフィアのデザインはかなり斬新なようだ。
「商品化するご予定は?」
「お店は出されないのですか?」
「他にもデザインしたドレスが?」
「ははは…。まあまあ、今はまだ準備中だ。結婚式の後にでも面白い発表ができるかもしれんな。」
「そうなるといいですね。」
ウィリアムとソフィアが顔を見合わせて微笑み合い、その姿を見て周囲の人々が息をのむ。美男美女は立っているだけで絵になるのだ。
「いつの間にやら、ソフィーはすごい人気者になってしまったな。」
「ふふっ。流石ソフィア様ですわ!」
「本当だね。ウィルとソフィア嬢が手を組めば無敵だから。」
「確かに、ソフィーが側にいればウィルは無双状態だ。ん?もしやイルの狙いはそれか?」
「え、何のことかな?」
「ソフィーに会いに行かせるために公務を肩代わりしたり、臣籍降下の準備を一生懸命手伝っていたり…。ただの親切かと思っていたら。」
「まあ、しばらく国防の心配は要らないんじゃない?うちには最強の魔法騎士がいるからね。」
「本当に怖いよな、イルは。」
「ふふふ…。」
人だかりから少し離れたところでイルバート、エアリス、レイモンドが談笑している。こちらも相当絵になっており、それぞれのファンたちが遠巻きに眺めて目の保養にしている。1人で立っていると令嬢たちに囲まれがちなイルバートだが、エアリスとレイモンドまで揃うと、オーラが強すぎて気軽には近づけない様子だ。
「ソフィー、これから忙しくなるぞ。」
「はい、楽しみです!」
それからふたりは、自分たちの結婚式とソフィアのドレスブティック設立への準備を始めたのだった。




