22.導き出した答え
ああ、良かったのかしら。
良くないのかしら?
分からない。
ソフィアのためにこんなにも尽くしてくれているのに、何で嫌っていたのかしら。
アレックスとの楽しい昼食を終えて自室に戻ったソフィアは、部屋の中央にある大きなソファに転がり頭を抱えていた。
レイモンドと結婚できず、癇癪を起こして私と人生を入れ替えたと説はもう絶対にない。
何故ならば、最近のソフィアの日記にレイモンドの名前は皆無だからだ。もはや、領地に来てからのソフィアはその存在をすっかり忘れている。
イルバートがソフィアの憧れが未だにレイモンドだと思っていたのは、自身も学園にいた時の記憶が色濃く残っているのだろう。
最新のソフィア情報では、服飾関係のお店を開きたい。そして、…ウィリアムが嫌い?本当にそうだろうか。感情のほとんど書かれていない日記のおかげで、その時々のソフィアの気持ちが分からない。
ふと、机に置かれていたソフィアのドレスのデッサンが目に入り、手に取ってぼんやりと眺める。せっかくこんなに素敵なデザインなのに、商品化しないの勿体無い。
このデザインにはどんな生地が合うかしら?このフリルは…、必要なレースの長さは…。
「あ、無意識に仕事してしまいそうに。」
元の自分の社畜ぶりを思い出して、可笑しくなってきた。
「ふふ、でもまあ好きな服に携われて、めちゃくちゃ忙しかったけど、それでも楽しかったのかもしれないわね。」
持っていたデッサンを机の上のものと纏めて。机の引き出しにしまった。
「本当に、勿体無い…。」
それから数週間、領地の屋敷で執事や使用人たちに話を聞いたり、街に出てみたり、原点に戻って日記を読んだり、部屋を隅々まで調べたけれど、特に気になることはなかった。
「ウィリアム殿下の婚約者指名の儀まで後1ヶ月を切ってしまったわ。そろそろ戻らないと、また殿下が屋敷を壊しにくるかもしれないわね。」
アレックスと朝食をとりながら、冗談でそんな会話をしてみた。
「そうだね、そろそろ帰ったほうがいいよ。姉さんとこの屋敷のためにも。」
そう真面目な顔で返されてしまい、席を立つ時には、「お昼過ぎに馬車を手配いたしました。」と執事から報告を受けた。流石、ローゼン侯爵家の執事。仕事が早い。
「結局今回も、真実には辿り着けなかったなー。」
そう言いながら、何気なく引き出しの中に入っていたソフィアのデッサンを取り出す。1番上にあるのは、数週間前に生地の構成を考えたエメラルドグリーンのドレスだ。
「やっぱり、素敵。」
パラパラと他のドレスのデザインも見ていると、ふとソフィアの手が止まった。
「これは、ソフィアの…。」
デッサンの端の方に、殴り書きのようなメッセージが書かれているページを見つけた。ワードローブの中に残っていたデッサンノートも全部引っ張り出してくる。
『殿下に私は相応しくない』
『殿下の優しさが今はもう辛い』
『殿下の事が好きだなんて、気づきたくなかった。』
『もう会いたくない』
『自由になりたい』
『自分の好きな事をやりたい』
『私ではない誰かになりたい』
『黒魔法』
…見つけた。これが答えか。
創作の間に溢れ出た本音を殴り書きしたのね。ドレスのデッサンを見ているとどうしても思考が逸れてしまうため、敢えて見ないようにしていたのだが、それによってかなり遠回りをしてしまったらしい。
この『殿下』はもちろんレイモンドの事ではなく、ウィリアムの事だろう。そして、ソフィアはウィリアムの事をいつからか好きになっていた。ましてや、初恋の相手も本当はウィリアムであった。
しかし、『もう会いたくない』
『自由になりたい』
『自分の好きな事をやりたい』
これはドレスのお店をやりたいから、王子妃にはなりたくないという事なのか。確かに、言われてみれば、そういう決まりがあったかもしれない。
でも…
『殿下の優しさが今はもう辛い』
もしかして、ウィリアムがソフィアを好きなのではなく、優しさで一緒にいようとしていると思っていたのかしら?それで、ウィリアムのアプローチに気付かないふりをしていた。
優しさで一緒にいられるくらいなら、自由にしてほしい。王子妃になりたくない。自分のお店を持ちたい。この役目を他の誰かに代わってほしい。
何だかすごくしっくりきた。ソフィアの体にストンと答えが落ちてくるような感覚。
ついでに言うならば、この役目を誰かに代わってほしいけど、ウィリアムが諦めてくれない。『黒魔法』に頼ろう。までが正解だろう。
そして私と入れ替わった。
ウィリアムが諦めていたら、ソフィアが自分のお店を持てていたら、私たち入れ替わっていなかったのだろうか?私もあのまま…。ウィリアムにも会えていなかったのか。そう考えると何だか胸が痛いような気がした。そして、ソフィアもうこの胸の痛みの意味を知っている。




