19.これはドレスのお披露目会でしょうか?
2週間前に通った道を逆走し、立太子の儀の1週間前に侯爵邸に着いた。屋敷に足を踏み入れた途端、侍女たちにそそくさと湯浴みさせられ、丁寧にドレスアップさせられて応接室に突き出される。
「会いたかったよ、ソフィー。」
「ウィリアム殿下、私もそれはもう、とてもとても会いたかったですが、明日でも良かったです。」
3日前の昼過ぎに領地を出発したため、4日目の朝に王都に到着し、そのまま昼には応接室に座っている。休みたい。本当に。侯爵令嬢もなかなかブラックなお仕事だ。(自己都合で領地に行っています)
「まあそういうな。ドレスの試着と手直しをしたいと工房から散々突かれているんだ。」
ウィリアムが声をかけると、使用人たちによってドレスが応接室に持ち込まれ、先日のデザイナーと職人も続く。
「うわぁ素敵!とても素敵です!私の拙いデザインが元になっているとは思えないくらい。」
「間違いなく、ソフィーのデザインしたドレスだ。さあ、もっと近くで。」
キラキラしい王子スマイルのウィリアムに手を引かれ、ドレスを目の前にするとさらにテンションが上がる。馬車疲れもどこかに吹っ飛んだ。
「レースも縫製も見事です。さすが一流の職人さんたちですわ。元々の生地も素晴らしかったですが、何倍も美しくなりました。」
「ありがとうございます。職人冥利に尽きます。」
職人とデザイナーが嬉しそうに丁寧な礼をとる。
「最終チェックをいたしますので、一度袖を通してみていただけますか?」
「ええ、喜んで。」
軽く膝を折り、ドレスのトルソーを持った侍女たちと一緒に一度退出した。
「ソフィア様、動かないでください。」
「ごめんなさい。どこかおかしい所はないか気になって。」
「おかしい所などございません。どこからどうみても完璧です。」
「ありがとう、エマ。」
ソフィア付きの侍女エマが鏡越しに怒っている。アレックスと似た柔らかな栗色の髪は編み込んでアップされ、ダリアをモチーフにした金細工に暗めのブルーサファイアを嵌め込んだ髪飾りをつけられる。
お揃いの耳飾りをつけて、ドレスはもちろん自身でデザインした、赤いマーメイドドレスだ。ちなみに、ドレスに重ねたレースもダリアをモチーフにしており、全体的に統一感を出してある。イルバートと同じ明るいグリーンの瞳との相性を心配したが、問題なさそうだ。
「ハードスケジュールだったけど、試着と最終の手直しをきちんとしてもらってよかったわ。身体のラインを拾うドレスだから、試着の時よりも更に美しい仕上がりね。」
ホッとして、それまで緊張していた頬が緩む。
コンコンコンとノックの音がして、ウィリアムが入室する。入ってくるなり、ソフィアの姿を見て眩しそうに目を細めた。
「これは、まあ見事な出来だな。今日の主役は自分ではないと言っていたが、来賓の視線は間違いなくソフィーが掻っ攫うだろう。」
「そうなると困るのですが、心配には及びません。レイモンド殿下とエアリス様おふたりのオーラには何人たりとも敵いませんもの。ひとつ危惧するのであれば、ウィリアム殿下のエスコートを受ける事で、悪目立ちしないかという事だけですわ。」
ソフィアが少し困ったように笑えば、ウィリアムは一瞬だけ目を瞠った後、柔らかく微笑むとソフィーの手を取り、口付けを落とす。
「愛しいソフィー。こんなにも美しい君をエスコートする栄誉を与えてくれてありがとう。」
「あ…。」
失敗した。プロポーズされていたから、当然エスコートされると思っていたけど、私はまだ公に婚約者じゃないからどっちでも良かったのね。
そう思ったもののもう遅い。目の前のめちゃくちゃ嬉しそうなウィリアムを見て何も言えない。後ろに『尻尾』が見える。
そんな呑気な事を考えていたこの時の自分を呪ってやりたい。
「サムスクライン王国第二王子ウィリアム殿下、およびローゼン侯爵令嬢ソフィア様。」
今、私は数十分前の出来事をすごく後悔している。何故あんなにも軽率な事を言ってしまったのか。
完璧な王子モードのウィリアムの隣に並び入場する。私のドレスと明らかに対となる赤いダリアの刺繍が入った紺色のジャケットを羽織っているウィリアム。耳には金の台座に大きめのエメラルドが付いたピアスが光る。爵位の低い方から入場が始まり、第二王子とそのパートナーの私はかなり最後の方だ。目立って仕方がない。
早く今日の主役に入場してほしいと思っていたら、来賓の入場は私たちで終わり。大トリでした。
『両陛下も両殿下も来賓ではなく主催か。』
なんて当たり前の事を考えて思考を明後日の方向へ飛ばす。
その後、両陛下と主役のレイモンド、エアリスが登壇し、立太子の儀礼がつつがなく執り行われる。皆の視線と注目を一気に引き受けてくれてホッと一息つく。しかし、その後はやはり悪目立ちした私たちのところへ、取っ替え引っ替えたくさんの方が挨拶に来てくださった。
皆さま「素敵なドレスですね。」「どこの工房でお作りに?」「デザイナーはどなたですの?」と私のデザインしたドレスを褒め称えてくださるので、何ともいたたまれない。素人がパパッと描いたものですとは絶対に言えない。
「ローゼン侯爵家ゆかりの新進気鋭のデザイナーに頼みました。」
「詳しい事はまだ秘密なのですが、そのうちにいい発表が出来ると思います。」
なんて意味深な事を勝手に言っているウィリアム。ああ、とんでもないことになった…と思いながらも、「ふふ、そうですね。」と話を合わせ、ウィリアムとお揃いの意味深な微笑みを浮かべておいた。




