13.ドレス選びは突然に
「ソフィーは少し見ない間に、急に大人っぽくなったな。」
ウィリアムの言葉にソフィアはぎくりとする。そりゃそうだろう、中身はウィリアムよりもずいぶん年上なのだ。
「わ、わたくしももう19歳です。学園を卒業してもう1年になりますし、ローゼン領で領地経営のお手伝いをしたり、いろいろと社会勉強をさせて頂いていますので。」
「そうか。卒業後に何度も領地へ足を運んでいるようだったが。夜会で兄上とエアリス嬢の姿を見たくないとか、私に会いたくなくて逃げているとか、そういう理由かと…。」
ウィリアムにしては珍しく困ったような笑顔を浮かべている。正直、どんな感情でソフィアが動いていたかは分からないため、曖昧に笑って誤魔化した。
話している間に応接室に着いたが、ウィリアムは扉の前で立ち止まり、そのまま入ろうとしない。
「あの、ウィリアム殿下?お入りにならないんですか?」
「ソフィア…君も、私の事は嫌いか?」
ウィリアムは扉の方を向いたまま、本当に彼から発せられたのか疑うほどの弱々しい声で尋ねた。
その声にギョッとして、エスコートされていた手を少し引き寄せる。
「嫌いなわけないじゃないですか!ウィリアム殿下を嫌いな人なんていないと思います。」
タイプ、タイプじゃないとかはあるかもだけど、ウィリアムを嫌いな人なんて本当に皆無だと思う。
ウィリアムは少しだけ振り返り、「ありがとう。」とそれだけ言ってまた前を向いた。その横顔は泣いているような笑っているようななんとも言えない表情で、初めて見るウィリアムの表情に胸が締め付けられる。
夜通し馬を走らせて助けに来てくれたウィリアムを嫌いな訳ないじゃない。むしろ好感度高いのに。『君も…』って誰のことを思い浮かべてるのかしら。誰がウィリアムにこんな顔をさせているのだろう。そう思うととても胸が苦しくなった。
ウィリアムはソフィアにだけではなく、誰に対しても優しく、そして強く、英明な王子だ。彼を王太子にと推す声も少なくなかった。しかし国王は時に国のために非情な決断を迫られる時がある。彼の優しさは国王には不向きだと言う事で、結局レイモンドが王太子に立つ事になったそうだ。一晩寝て記憶の整理がつき、徐々に色々な事を思い出してきている。
昨日はソフィアのためならば一国でも潰しそうな勢いであったが、普段は全くの別人なのだろう。逆に、レイモンドの方があの甘い笑顔で残酷な決断を下すのだろうか。
しばらく扉の前で立ち尽くしていたが、ウィリアムは大きく肩で呼吸をしたあと、扉に手をかけた。
「やあ、お待たせしてしまったな。まずは1ヶ月後、兄上の立太子の儀で着用するドレスを用意しなくては。間に合うだろうか?」
部屋に入った瞬間、いつものウィリアムの声がその背中越しに聞こえてホッとする。
すぐに待ち構えていたデザイナーとドレスの打ち合わせが始められ、目の前で繰り広げられるやり取りにソフィアは呆然としていた。
部屋いっぱいに広げられた数えきれないトランクの中には、宝石や上質な生地が色毎にびっしりと並べられている。
「立太子の儀は目立つ方がいい。…赤だな。」
ウィリアムは赤い生地が並べられているトランクの中から、艶感のある鮮やかな生地を手に取る。
「婚約者指名の儀は、婚約者は白を基調としたドレスを着るのが風習だ。仕方がない。白地でいこう。」
白にはこだわりはないらしく、白の生地が入ったトランクを一瞥しただけで自身で選ぼうとはしない。
「デザインは、王道のこのようなデザインでどうでしょうか?」
「そうだな、2着とも同じデザインの色違いでいこう。」
え?
「赤のドレスには濃紺の宝石を、白のドレスには赤の宝石を散りばめておいてくれ。」
えぇ?
「宝飾品も同色の目立つものを1セット用意してくれ。」
えぇぇぇ?
出来上がったデザイン画を見てソフィアは驚愕し、思わず叫んだ。
「何ですか、このださ…いえ、クラシック過ぎるドレスは!」
あまりの驚きに口から自然と溢れた本心だったが、ダサいドレスと言い切らなかった事に、こっそり自身で賞賛を送る。
自身の描いたデザイン画を全否定されたデザイナーは、眼球がこぼれ落ちるのではというほど目を見開いて固まっている。一方で、ウィリアムは目を細め眩しそうにソフィアを見つめる。
「ほう。では、ソフィアの意見を聞かせてほしい。」
ウィリアムは新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせ、ソフィアの次の言葉を笑顔で待っているのだった。




