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王女さまと奴隷の少年 ― きらきらの涙 ―

作者: しぃ太郎



  目が見えない、かわいそうな王女さま。

 国民の全てが気の毒に思いながらも、やはり関わりたくはない、その彼女。

 それは、魔女の『呪い』だったのです。


「わたしがこの世界でいちばん美しいと思うのは――」

 




 ある国にお姫さまが生まれました。

 その国は魔女との契約で、生まれたばかりの王族に祝福を貰えます。

 

「この子は、世界一美しい物を見つけなければ、目が見えないままだろう」

「それでは呪いではないか!」

 

 王様は魔女に言い返しました。魔女の目の前には小さな赤子がいました。


「身に覚えが全くない?お前はすでに約束を破ったんだよ」

「子どもの頃の話じゃないか!この国、いや王家に魔女は必要だ!」


 実は、王様はこの美しい魔女に『約束』していた事があったのです。純粋だった子供の頃の王様は、

『自分が王になれば、この国から魔女を解放してあげる』と伝えていました。

 

 それを破った罪が、目の前の王女に降りかかってしまったのでした。


「命令だ!この王女に世界中から集めた美しい物を与えるように!」

「ただ、私を解放すれば王女は助かるというのに。その瞳は呪いが解けるまで開くことはないだろう。頑張ってみるんだね」


 魔女は美しく笑いながら消えていきました。





 国中の美しい物を持ってきても、王女の目は開きません。

 とうとう王様は諦めてしまいました。

 人の温もりも、世界の美しさも何もしらないまま、王女さまは成長していきました。


 そんな中でも、彼女には幼い頃からの友達がいました。

 誰も王女さまの世話をしたがらなかったので、奴隷(どれい)として売られていた少年を彼女の世話係にしたのです。

 平凡な茶髪に茶色い瞳。さらには、ケガのせいで片足が不自由で普通には動けません。


 重い洗濯物を運んでいる時に、王女さまが少年に話しかけました。


「ライリー?どこ?いつもより足を引きずっているわ。無理しちゃダメよ」

「王女さま、いつもありがとうございます。僕がしっかりと動けないばかりに……」

「ふふふ。何言っているの。こんな『呪われた王女』の側にいてくれるだけでもありがたいわ」

 

 王女さまのお城には、どれいのライリーしかいません。

 二人でずっと過ごしていました。



 ――ある日の出来事でした。

 

 王女さまは、高い熱を出して寝込み、命が危なくなりました。

 奴隷の少年は、王様にお願いしました。


「王女さまが死んでしまいます。どうかお薬を恵んでください」


 王は言いました。周りの貴族も頷きます。


「誰が『呪われた王女』に大切な薬を渡すと言うんだ」


 確かに、目が見えなくて、何も出来ない王女さま。

 でも、心はとても綺麗な人なのです。誰にもそれが理解出来ないようでした。



 無力などれいの少年は、王女さまのベッドで色々なお話をしました。

 初めて会った時に、不自由な足を笑われなくて嬉しかったこと。

 どれいだから、と人間扱いされた事もなかったのに王女さまと一緒に散歩が出来て嬉しかったこと。

 毎日一緒にご飯を食べて、まるで家族のように接してくれたことが幸せだ、ということを。


 息も絶え絶えで、王女さまも色々と話してくれました。

 少年が、呪われた王女と呼ばれた自分と、ずっと一緒に居てくれて嬉しかったこと。

 周りの人々に、呪いが移るかもしれないと言われていたこと。

 それでも、どれいの少年が普通に触れてくれて嬉しかった、ということを。


 その話を聞きながら、どれいの少年はポロポロと溢れる涙が止まりませんでした。


「お願いです。きっと奴隷(どれい)の僕には未来もないでしょう。一緒に連れて行ってください」

 

 どれいの少年は、王女さまに縋り付いて泣きました。

 ポタポタと。

 王女さまの顔にも少年の涙が落ちていきました。


「魔女さまが言ったものではないでしょう。けれど、私の中ではあなたの『私を想って泣いてくれている涙』が世界で一番キラキラして美しいわ。ありがとう」

 

 そう言って、王女さまは自分の顔に落ちた、少年の涙に触れて言いました。


「ありがとう。ライリーのお陰で人の温もりを知ったわ。優しさも、幸せも、私に教えてくれてありがとう」

 

 いよいよ、王女さまの命が尽きそうになった時に、その体が光り輝いていきました。

 さっきまで、死にそうだった彼女が起き上がり、ばっちりと目を開けて、キョロキョロと辺りを見渡しました。


「ライリー? あなたがライリーなの?」

 

 王女さまはゆっくりと彼に聞きました。

 

 今までずっと開かなかったその瞳が、まるで星を閉じ込めたような金色だったのです。

 少年は思わず息を止めてしまいました。


「目が見えているのですか? もう体は大丈夫ですか?」

「ええ、ライリー。さっきまで苦しかった事が嘘みたいに楽になったわ」


 そう言って、王女さまはベッドから体を起こしました。


「それに。私、ライリーの顔をようやく見れるようになったみたいだわ」

 

 王女さまは、少年をまっすぐ見ました。


「僕は、こんなですから……。王女さまは、まぶしすぎます」

 

 少年は、いつもの通りに、手を伸ばしましたが引っ込めてしまいます。

 

 その手を、ゆっくりと王女さまが、包みこみました。


「いつも、この手が私に温かさをくれたのね」


「王女さま」


「それに、あなたがいないと、さむいわ。

 私の明かりが消えてしまう。

 ずっと見たかった、光までなくしてしまうわ」




「おお、王女! ついに魔女の呪いが解けたのか。どんな美しい宝物であの呪いが解けたのだ?」


 次の日に、王女様を呼び出して王は尋ねました。


「それは、私を想って泣いてくれた人の美しい涙です。彼の涙で呪いが解けたのです」

「何を馬鹿な。お前を産んだ直後に王妃もずいぶん泣いていたぞ。隠し立てするな」


 王様は、王女様の話を信じませんでした。


「王女の部屋を探して宝物を手に入れろ!きっと、とても貴重な物のはずだ!」


 王様は、すぐに兵を王女の過ごした部屋に向かわせました。


「さぁ、美しい我が娘。こちらにおいで。ずっと離れて暮らしていたんだ。さぞや親が恋しかっただろう。これからは大切に育ててやろう」

 

 王様は美しい王女に近づくように命令しました。


「私は、親から最初にもらえるはずだったものを、もらっていません」

「なんだ?何でもあげようではないか!」


「では、私の『名前』をくださいますか?いえ。――いいえ、やはりあなた達からは欲しくありません」


 それを言われた王様は怒り出しました。王様の命令で兵士が王女様と奴隷(どれい)の少年を囲みます。


「恩知らずな王女め!これまで育ててもらった恩も忘れて誰に口を聞いているのだ!」


 そこで部屋中に強い風が吹き荒れました。

 いつの間にか、魔女が王様の前に立っています。


「お前の娘とは思えないほど心の美しい子だね。呪いは解かれた。本当は王を呪うはずだったが、愛しい娘が呪われる方が辛いと思った私の気の迷いだった」


 魔女は、王様に向かって言いました。


「何の反省もしない馬鹿な王。これで、魔女の契約を終わらせよう」

 

 そして魔女は、王女さまと少年に言いました。


「随分と迷惑をかけてしまったね。すぐにでも呪いを解こうと思ったんだけれどね。王女と奴隷なんて身分が違いすぎて引き離されてしまうじゃないか。お前達の愛情ほど輝いて美しい物はない」


 どれいの少年も、王女さまも二人で真っ赤になりました。


「こんな場所では綺麗な生き物は生きていけないよ。一緒に来るかい?魔女はね、綺麗なものに目がないんだよ」


 どれいの少年と王女さまは顔を見合わせて、笑顔で頷き合いました。


「はい、魔女さま」


 少年はすぐに答えましたが、王女は魔女を真っ直ぐ見つめて言いました。


「あなたの事を恨んだこともありました。でも、それ以上に大切で素敵な感情を手に入れられました。今では本当に感謝しています」


 魔女はフッと笑って夜空に向かって杖を向けた。


「じゃあ、以前あげられなかった本当の祝福を与えよう。王女の隣には立派な騎士が寄り添い続けるだろう。王女はその瞳の色のように金色の『(ステラ)』の輝きでまわりを照らすだろう」


 すると少年の不自由な足が治り。幼い頃から食べる物に困っていたせいで、小柄だった体が立派な男性のものになりました。

 そして王女さまの手には小振りな杖が握られていました。

 魔女が使うもののようです。


「じゃあ行こうか! あの国王は約束を守らない人でなしだから、この城に来ることは、もうないよ! 私達は約束を大切にする! いくらでもチャンスはあったのに、自分の娘を生贄にするなんて。人間はなんて罪深い!」


 魔女の手を掴んだ二人は星がきらめく中で夜空を移動していました。


「魔女さま、すごいです。そして連れ出してくれてありがとうございました。それと、さっきの『ステラ』を名前にもらってもいいですか?」


「いいんだよ!これでも無駄に長生きだから涙もろくてね。私のせいで苦労させて悪かったね、あんた達の見つけた美しいものに泣けてきちゃったのさ。これからは、たくさん幸せにしてあげよう!」


 輝く星空の中――。

 三人は笑い合いました。

 

 

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